薬莢
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主なサイズの薬莢。左から20番散弾[1]7.62x51mm NATO弾5.56x45mm NATO弾.38スペシャル弾.45ACP弾.40S&W弾9x19mmパラベラム弾.22ロングライフル弾発射後、狙撃銃から排出される薬莢

薬莢(やっきょう、: Case, : Etui)または薬きょうは、銃砲の発射薬を詰める容器であり、これを用いると弾頭火薬を銃砲へ迅速に装填することができる。また、発射薬を湿度乾燥など環境の影響から保護することも、薬莢の重要な役割である。

現代では、薬莢は真鍮軟鋼などの金属で作られている場合が多い。金属薬莢の利点は、発射時に発生する高温・高圧ガスの漏れを防ぐことができる点にある。
デザイン
銃用薬莢1860年代まで使用されていた各種の一体型薬莢
左1:ドライゼ銃紙製薬莢
中:シャスポー銃用紙製薬莢
右:スペンサー銃[2]用(56-50リムファイア弾[3][4]

現代の銃器は、雷管・発射薬・弾頭を薬莢にセットとして収めた実包を用いる製品が、一部の前装銃(マズルローダー)等を除き大多数を占めている。

薬莢式の銃を発射すると、発射ガスの圧力で薬莢が膨らむ。膨らむことで薬室内部に張り付き、発射ガスを漏らさないよう密封する。これにより、発生したガスを有効に利用することができる。

膨張して薬室に張りついた薬莢を容易に取り出せるように、薬莢底部にはリム(輪状の張り出し)が成形されており、遊底に取り付けられた抽筒子(エキストラクター)と噛み合うようになっている。

薬莢の形状は、初期には弾丸の口径と大体同じ円柱形のストレートケースで、これは現代でも比較的装薬量の少ない拳銃弾散弾銃弾(ショットシェル)、グレネード弾などに用いられる。一方、小銃の高初速化が志向され装薬量が増えるとストレートケースのままでは薬莢が長くなりすぎるため、19世紀の末頃から金属加工技術の発達を受けて薬莢の胴を口径よりも太くした(薬莢の口の部分を細く絞った)形状のボトルネックケースや、全体が先細りの円錐勾配がつき薬室への長大な薬莢の出入で当たりが少ないテーパードケースが登場し、近現代の小銃弾の他、機関砲弾、戦車砲弾などの高初速弾薬で広く用いられている(ネック絞りとテーパード両方の成形がなされたものもある)。

一般的に利用されている薬莢には、発射薬に着火するための雷管の位置や種類によってバリエーションがある。(銃用雷管#種類も参照)

かつては、針打ち式(ニードルファイア系)、カニ目打ち式(ピンファイア系)、電気発火式といった多種多様な発火方式の薬莢が存在したが、現在一般的に利用されているのは、金属薬莢の底部中心位置に雷管を挿入し、これを叩いて発火させる方式のセンターファイア[5]方式と、薬莢後端外周のリム部を中空構造として、その内部に雷汞などの発火薬を詰め、リムを叩いて発火させる方式のリムファイア[4]方式である。

リムファイア方式は、リム内の発火薬を均一に詰めることがいまだに難しく、センターファイア方式に比べて不発が出る確率が格段に高いことや、雷管が一体になっているために火薬・弾頭・雷管を詰めかえて再利用すること(リロード)ができないなどの欠点がある。しかし、単純な構造で大量生産に向いており価格も非常に安いため、民生用途ではセンターファイア方式より広く普及している。

また、センターファイア方式の薬莢には、挿入される雷管のタイプによってベルダン式とボクサー式の2種類が存在し、欧州大陸の軍ではベルダン式が、系の軍ではボクサー式が使われており、日本では旧軍がベルダン式、自衛隊がボクサー式を使用している。
砲用薬莢金属製薬莢を使うM119 105mm榴弾砲の砲弾

大口径の砲では発射薬が多いこともあり、漏洩する以上の発射薬を用いて威力の問題を解決できたため、薬莢の採用は遅れたが、発射薬が黒色火薬から無煙火薬に進化し腔圧が上がってくると、しだいに薬莢が採用されるようになった。金属薬莢式の砲を莢砲(きょうほう)とよび、砲弾と火薬(薬嚢)が分離しているものを嚢砲(のうほう)と呼ぶ。莢砲はさらに、弾頭と薬莢が固定されている固定薬莢砲(完全弾薬筒)と、弾頭と薬莢が固定されていない分離薬莢砲に分けられる。工作精度の向上による気密性の向上もあって、現在では莢砲と嚢砲は並存している。

固定薬莢式は装填動作が一回で済むので、自動装填装置の導入による連射速度の向上が容易であるが、その分砲弾の重量と全長がかさむので、大口径砲には不向きである。

嚢砲や分離薬莢砲では砲弾と装薬をそれぞれ一回の動作で装填する(大口径砲では薬嚢を複数に分け複数回かけて装填する場合もある)ため装填作業自体にかかる労力は小さくなるが、作業の回数が増える分連射速度が低下する。また、装薬量の加減によって射程を調整することも可能である。

一般的に、発射速度が重視される戦車砲対戦車砲高射砲機関砲などで固定薬莢砲が多く、艦砲(特に主砲)などの大口径火砲では装填時の労力軽減を図るために嚢砲が多い。しかし、ドイツ海軍では口径28cmの艦砲でも莢砲を採用していたし、嚢砲の戦車砲も存在する。

榴弾砲カノン砲の場合は口径や国によって方式がやや変わる。西側では比較的小型軽量な105mm榴弾砲では分離薬莢砲が、155mm以上の大口径砲の場合は嚢砲がそれぞれ主流である。これに対してソ連ロシアでは口径122mm/130mm/152mmの火砲については分離薬莢砲が主流であり、口径203mmの2S7ピオン 203mm自走カノン砲については嚢砲である。

砲弾用の雷管には、特に高発射速度の航空機関砲や、一元的な射撃統制が行われる艦砲などで発砲タイミング精度に優れる電気発火が主に用いられる。

構造上および運用上、一般に迫撃砲ロケット砲は薬莢を使用しない。
製法薬莢の製造工程を段階別に並べたもの、下段は各工程での断面を示す

最初期の金属薬莢であるリムファイア式[4]薬莢は、板を深絞プレスで形成する技術が確立されたことで大量生産が可能となり、はじめて実用化された。

センターファイア式[6]薬莢が発明された当時は、これを一体成型する技術は無く、薬莢基部だけを真鍮で作り、筒状に紙を巻いて糊付けした部品をはめ込む方法で製造されていたが、やがてプレス技術がこれに追いつき、一体成型された全金属製のセンターファイア式[6]薬莢が実用化された。

第二次世界大戦中には、1ヶ月の生産量が3億個を超えた国すらあり、製造速度の高速化が求められ続けて来た。2000年以降の最新式の製造装置では毎分1千個の薬莢を製造できる装置すら存在するが、その製法は19世紀後半に確立されたものと大差はない。

薬莢基部に厚さが必要なセンターファイア式と、全て均等な厚さのリムファイア式の差はあるものの、円盤状に打ち抜かれた素材を数回のプレスで円柱状に成型する段階までは両方式ともに同じである。

この後の工程では、リムファイア式はリム部の成型と発火薬の充填が行われ、センターファイア式ではリム部と雷管を挿入する穴を切削したり、ネックが絞られる場合は首絞プレスが行われる。

なお、工業技術が未熟な地域で密造される弾薬などは、金属の棒を規定の長さに切断してから旋盤で削って製造されている。この方法では大量生産の需要は到底満たせない上に、プレス加工によって製造された薬莢に比べて、脆く割れやすい薬莢になるため、低腔圧の拳銃弾程度までしか製造できない。
材質M249 SAW用ベルトリンクに繋がれたM855徹甲弾(緑・鋼鉄弾芯)とM856曳光弾(赤):ネック部が黒ずんでいるのは製造時の高周波加熱の痕7.62x39mm弾:薬莢・弾頭ジャケットともに軟鋼製、雷管は腐食性ベルダン式アルミ合金製の.44スペシャル[7]弾薬莢12番散弾装弾のカットモデル。薬莢の樹脂部分がスラッグ弾頭・ワッズ・装薬などを内包している。ラインメタル120mm滑腔砲用焼尽薬莢とM829[8]弾頭

金属薬莢では発射薬が直接に封入されるため、発射薬と反応しない安定した材質が用いられた。伝統的に用いられている材質は、冷間加工性に優れた真鍮など銅系の合金であるが、銅は比較的高価であり、亜鉛も産地が偏在しているため、より安価な軟鋼で軍用の薬莢を製造することが試行され続けた。

しかし、20世紀前半までのプレス加工技術では軟鋼薬莢の製造は困難であり、多くの諸国では平時の演習などで使われた空薬莢の回収を兵士に求めており、特に資源に乏しかった日本軍では厳密な回収が求められ、薬莢を紛失した兵士が過酷な制裁を受ける伝統が存在した。資源が逼迫した大戦末期では九九式普通実包九二式普通実包の鉄薬莢化も進められたが品質的に十分ではなく、火器自体の製造品質低下と相まって作動不良が増える原因となった。


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