薬草
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甘草桂皮柴胡ヤツデ小石川植物園にて)。ヤツデの葉を乾燥させたものは「八角金盤」と呼ばれる生薬になる。小石川植物園はもとは江戸幕府薬草園であった。キナ樹皮から作られるキニーネ抗マラリア剤として、途上国で広く活用されている。

薬草(やくそう)、薬用植物(やくようしょくぶつ、英語: medicinal plant ヒンディー語:????? ????)とは、用に用いる植物の総称である。そのまま摂取・塗布するほか、簡単な加工をしたり、有効成分を抽出したりするなどして用いられる。草本類だけでなく木本類も含むため、学問的な場面では、より厳密な表現の「薬用植物」のほうが用いられることが多い[1]
概要

薬草というと、草本ばかりではなく木本も使われているため、専門的・学術的に正確には薬用植物という[1]。薬用とする植物は、全植物体を使用するものは比較的少なく、薬効成分が多く含まれる皮、樹皮など、それぞれの有効部分を用いている[1]。また、医薬品として使用しなくても利用価値があり、民間療法として用いられる薬用植物も、便宜上「薬草」と称している[1]健康食品の原料や料理(薬膳)の食材として使われたり、風呂(薬湯)に入れられたりする薬用植物もある[2]

植物は多種多様な有機化合物生合成している。薬用植物の主たる成分を挙げると、デンプンイヌリン、脂肪油、タンパク質粘液、ゴム樹脂、精油バルサム樹脂、トリテルペンステロイドサポニン、カウチュック、タンニンリグナンリグニン配糖体アルカロイド、カルシウム塩などがある。特に、アルカロイドは生理活性物質が多いとされている。

薬用植物は様々な形で用いられており(後述)、そのままの状態で使うこと、簡単な加工をすることや、エキス剤にすること、有効成分を抽出することなどがある。世界各地で用いられている薬用植物を、その文化的文脈や用法で大まかに分類してみると、中国で伝えられた中薬や、日本に伝わった漢方薬、そして日本の民間医薬、ヨーロッパハーブスパイスインド伝統医学で用いられる薬用植物、インドネシアマレーシアなどで用いられてきた薬用植物、アメリカ大陸で用いられてきた薬用植物などに分類することも可能である。

人類はおそらく文字として歴史に残されていないくらいの大昔から、健康を持続したいと願い、体力がつく食物を選び、体調が悪いときには順調になるような薬を求めて、薬用植物を用いてきたのだろうと考えられている[1]東洋西洋において、先人の努力・経験によって得た薬用植物の効能は薬用植物誌にまとめられ、東洋においては本草学が発達した。それらは東西交流がほとんどなかった時代に編纂されたにもかかわらず、驚くほど似通っている点が多い、といわれている。ただし、薬用植物の用い方については、古代から洋の東西によって相違点がはっきりと見られ、思考様式の違いによると考えられている。現代でも、欧米の国々(例えばドイツフランススイスオーストリア…等々)でも、アジアの国々(例えば中国、インド、日本…等々)でも、その他の世界中の地域・民族も含めて、膨大な数の人々が薬用植物を活用している[3]

薬用植物は元々は野生のものを採取していたが(野生品)、いくつかの理由から、栽培したものも用いられている(栽培品)。栽培品の場合、採取後、集荷業者、卸業者などを経て、医薬品メーカーで加工され、薬局・薬店・病院などで販売されている。人が服用するものであるので、採取や加工は一定の方法が守られており、規格や取り扱い方法について各国で公的な規準が定められている。

世界各地の様々な伝統医学が、今日も現役の医学として多くの人々の健康を支えており、そういった伝統医学では一般に、薬用植物を用いて疾患の治療、病気の予防、健康の維持や向上を実現している。

近年、大学や研究所などにおいて、東洋医学や、東洋医学的な薬用植物の活用法について、西洋医学的な見地からの研究・実証が進んでいる。基礎的研究や臨床治験の成績は、質量ともに目覚ましい展開を見せており、東洋医学の有用性を西洋医学的な見地から見ても裏付ける形となっている。推計学的に有意の差をもって東洋医学の有効性を示すものが多い。基礎医学的研究も、漢方薬の有用性を現代医学的に裏付ける結果を示すものが多い。

薬用植物を含む植物から各種物質を抽出して人体や病原体への作用を調べる技術が向上したことで、伝統医学での用法以外に創薬にも貢献しており、薬用植物を収集、栽培、分析・試験する研究機関もある(日本の医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センターなど)[4]
薬用植物の用いられる形態生薬加工に用いられていた薬研

薬用植物の用いられ方は、現代では次のようなものがある[5]

そのまま植物の形で用いる方法[5]

簡単な加工をして用いる方法(生薬[5]

エキス剤にして用いる方法[5]
例えば、漢方製剤など。日本のイチョウも日本国外で製剤として用いられている。

有効成分だけを抽出・単離し製剤として用いる方法[5]
例えば、ジギトキシンベルベリンコデインモルヒネなど

成分を抽出しそのままでなく、さらに化学構造を変化させてから用いる方法[5]
例えば、ジオスゲニンを元にしてコルチゾンなどのステロイドホルモンが作られている。

薬草にも薬害はあり、中には生命に関わるを有するものもあり、使用の仕方によっては、薬にも毒にもなる[6]。中国では医食同源の考え方があり、病気を防ぐ食物と病気を治す薬はともに自然物から取り、その薬には上薬・中薬・下薬があり、二千年以上の歴史の中で、その使用用法を明らかにしてきた[1]。民間で用いる場合には、上薬である滋養強壮・保険に役立つものか、中薬で穏やかな薬草が用いられるべきで、毒が多い下薬は外用に限るべきだという意見がある[6]。漢方では主に薬草を使用しており、患者の体質や状態に合わせて、いくつかの薬草を配合する[6]。配合の比率により陰陽・気味の効果が増したり、有毒作用を変えたりして、患者に適応した処方をするため、素人にはできないとされている[7]。民間薬は、1種類の使用が多く、2種類混ぜる場合でも同じ薬効がある薬草を選ぶべきとされる[7]。薬草は必ずしも万人に同じように有効であるとは言えず、いろいろ試して患者に適合したものを見つける方法が採られる[7]
薬用植物及びその関連品のカテゴリー


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