薬物相互作用
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薬物相互作用(やくぶつそうごさよう、: Drug Interaction)は、血中に複数種類の薬物が存在することにより、薬物の作用に対して影響を与えることである。薬物相互作用により薬物の作用が増強する場合や減弱化する場合、新たな副作用が生じる場合がある。薬物相互作用は一般に薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用に分類される。また、食品なども薬物の作用に影響を及ぼすこと(合食禁)があり、これらも薬物相互作用の一種である。単に体外で薬物同士を混合した場合にその形状が変化する現象は薬物配合変化と称され、薬物相互作用とは区別される。
薬物動態学的相互作用

薬物の体内動態は吸収、分布、代謝、排泄の段階からなると考えられている[1]。薬物動態学的相互作用 (英:Pharmacokinetic Drug Interaction) とはこれらの過程に影響を及ぼし作用部位における薬物濃度の変化を生じさせる形式の相互作用である。
吸収過程

吸収とは血中に薬物が取り込まれる過程を指しており、小腸を始め、胃や大腸、皮膚、目、鼻などにおいて生じる。
小腸の酵素あるいはP-糖タンパク質を介した相互作用
小腸上皮には薬物代謝酵素である
シトクロムP450 (CYP) の一種であるCYP3A4が発現している。シトクロムP450にはさまざまな種類があるが、中でもCYP3A4は基質となる薬剤が非常に多い。ある種の薬剤あるいは食物がCYP3A4の活性を変化させることで相互作用が生じることが知られており、代表的なものとしてグレープフルーツジュースが挙げられる。グレープフルーツの中にはフラノクマリン類と呼ばれる化合物が含まれており、これが小腸上皮のCYP3A4の機能を阻害する。CYP3A4の基質としてカルシウム拮抗薬免疫抑制剤であるシクロスポリン、ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるトリアゾラムなどが挙げられる。CYP3A4阻害によりこれらの基質薬物の血中移行量は増大し、作用の増強や副作用が生じる原因となる可能性がある。グレープフルーツジュースによるCYP3A4阻害作用は長時間にわたって示されるので、水の代わりにグレープフルーツジュースで薬を飲むようなことをしなければよいというものではなく、これらの基質薬物内服中はグレープフルーツジュースの摂取を避けなければならない。グレープフルーツジュースによる代謝酵素阻害は経口投与した場合に限り発現するため、静脈内注射により直接血中に入れられた薬物に関してはこの相互作用は考えなくて良い。逆に抗結核薬リファンピシン健康食品であるセント・ジョーンズ・ワートはCYP3A4の発現誘導を引き起こすことが知られている。この場合、併用した基質薬物の血中濃度は減少し、薬効が十分に得られないことになる。また、小腸にはP-糖タンパク質と呼ばれる輸送タンパク質が存在している。これは小腸に限定して発現しているものではなく、血液脳関門や腎尿細管、癌細胞などにも見られる。小腸のP-糖タンパク質は一度吸収された薬物を小腸側に排出する役割を有するが、P-糖タンパク質の阻害により血中の基質薬物濃度は上昇することになる。P-糖タンパク質の基質薬物としてシクロスポリンや強心薬ジゴキシンがある。前述したグレープフルーツジュースはCYP3A4のみならずP-糖タンパク質の機能をも阻害することが知られており、一方リファンピシンやセント・ジョーンズ・ワートはP-糖タンパク質の発現を誘導する。
金属イオンとの相互作用
金属イオン、特にアルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウムなどの多価陽イオンはある種の薬物と化学的な結合(キレート形成と呼ぶ)をすることにより難溶性の複合体をつくることがある。これらの金属イオンは下剤の酸化マグネシウムや貧血の治療に用いられる鉄剤、牛乳などに含まれており、ニューキノロン系あるいはテトラサイクリン系抗菌薬などと結合して両者の薬効低下を招く。これらの薬物を併用する必要がある時には先に吸収阻害を受ける薬物(ニューキノロン系など)を内服し、その後2-4時間経過してから金属含有製剤を内服すると効果的であるとされる。
吸着剤による薬効低下
吸着剤にはコレスチラミンなどの陰イオン交換樹脂や活性炭は消化管中において他の薬物を吸着し、その吸収を妨げることがある。特に活性炭はほとんどの薬物を吸着してしまうため、基本的に他の薬剤との同時併用を避ける。
胃内容排出速度の変化
薬物の吸収には胃内容排出速度 (GER) が影響する。一般に食事によりGERは減少し、それにより多くの薬物は消化管吸収速度が減少する。消化管の運動もGERに影響を与える一因であり、ドパミン受容体拮抗薬であるメトクロプラミド蠕動運動を促進するため、GERを増大させる。
分布過程

分布過程に影響を与える因子として血中タンパク質との結合がある。タンパク質との結合自体は特に異常なことではなく、酸性薬物はアルブミンに、塩基性薬物はα1-酸性糖タンパク質に結合する。アルブミン上には薬物結合部位が存在し、サイト1(ワルファリンサイト)、サイト2(ジアゼパムサイト)、サイト3(ジギトキシンサイト)がある。これらの部位にはそれぞれ複数種の薬物が結合しうるため、同一部位に結合する薬物、特にタンパク質との結合率が高い薬物同士を併用した際に競合が起こり、しばしば問題となることがある。これにより薬物のタンパク質結合率が変動し、タンパク質と結合していない遊離型薬物が増加する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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