薬物乱用
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薬物乱用

依存症専門の精神科医による、精神に作用する薬物の有害性についての投票[1]
概要
診療科精神医学, 麻薬学[*]
分類および外部参照情報
ICD-10F10.1 - F19.1
ICD-9-CM305
DiseasesDB3961
MeSHD019966
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薬物乱用(やくぶつらんよう)とは、繰り返して、著しく有害な結果が生じているが、耐性離脱、強迫的な使用といった薬物依存症の定義に満たないという、薬物の使用状態における精神障害である。薬物に対する効果が薄れる耐性の形成や、身体的依存が形成され離脱における離脱症状を呈する状態となった場合も含む薬物依存症とは異なる。世界保健機関は、薬物乱用の用語は曖昧であるため用いず[2]、精神や身体に実際に害がある有害な使用の診断名を用いている[3][4]。その研究用の診断基準では1か月以上持続していることを要求している[5]

経過としては、乱用をしなくなるか、あるいは薬物依存症に移行する[6]

向精神薬に関する条約における薬物乱用とは、精神的依存と身体的依存のどちらか、あるい薬物が用いられることである[7]。1961年の麻薬に関する単一条約と1971年の向精神薬に関する条約によってこれらの乱用薬物の多くを、国際的に規制してあると思われる。
薬物による乱用と依存の傾向

アンフェタミン、コカイン、ある種の抗不安薬のように、短時間作用型の薬物は依存や乱用を発現させる可能性が特に高い[8]アルコール鎮静剤覚醒剤のように身体依存を引き起こす傾向のある薬物が存在する[6]

1980年のDSMの3版では大麻や、幻覚剤のように不快な離脱症状を回避するための摂取というものが起きない薬物もあり、治療を求めるのはまれであり、幻覚剤ではほとんどが短い乱用及び依存のあと、元の生活様式に復帰する[8]。2013年のDSM-5において、大麻離脱の診断名が追加され、大量で長期の大麻の使用後に、使用の中止や相当な減量によって生じるとし、通常、症状の程度は臨床的な関与が必要となるほどではないと記されている。
診断基準
アメリカ精神医学会

アメリカ精神医学会(APA)による診断基準では、害があることを認識しているにもかかわらず物質の使用を止めることができない状態で、かつ耐性身体的依存の形成が診断基準に含まれる薬物依存症の診断基準を満たしていないものである[6]。週末など非持続的に、過剰摂取などによって薬物に関するトラブルを起こす状態で、薬物の使用が管理できる時期も存在する[6]。経過としては、乱用をしなくなるか、あるいは依存症に移行する[6]

どの診断基準にも、反復的であるという記述が含まれる。物質乱用は、耐性、離脱、強迫的な使用のないもので、また単なる使用、誤った使用、危険な使用の同義語ではない[9]

DSMには重症度の概念が存在するため[10]、臨床的に著しい苦痛や機能の障害を引き起こしていない場合は除外され、大量摂取されていてもそれは単に娯楽的な使用である[6]

DSM-5において、物質乱用と物質依存症を廃止・統一し、新しく物質使用障害を用意したが、以下のような論争があり、DSM-IVの編集委員長のアレン・フランセスは、ICDによる依存と乱用を区別した診断コードの使用を推奨している[6]。以前のDSMで用意した物質乱用は一過性のものだが、新しい診断名を使うことによって常用者のようなレッテルを張り、当人が不利益を被る可能性がある。一時的な乱用者とすでに依存症が進んだ者とでは、予後、治療の必要性などが異なり、そのような区別をもたらす臨床上の重要な情報が失われる。
世界保健機関

ICD-10(『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』)においては、F1x.1有害な使用(Harmful use)の診断名が存在し、これは精神的または肉体的な健康に実際に害があるような物質の使用パターンである[3]。これは、社会的に否定的な結果が生じたり、文化的に承認されないといったものは含まない[3]。乱用(abuse)の用語は、どのような使用も不可であるという意味として、たまに用いられるため、その曖昧さゆえに依存を生じない物質(下記)の場合を除いて用いられていない[2]。ICD-10の研究用診断基準では、1か月以上持続していることを要求している[5]

依存を形成しない向精神物質以外の誤用(Misuse)には、F55依存を生じない物質の乱用を用いることができる。依存症や離脱症状が生じない物質である[3]。F55.0抗うつ薬、F55.1緩下剤、F55.2鎮痛剤、F55.3制酸剤、F55.4ビタミン剤、F55.5ステロイドあるいはホルモン剤、F55.6特定の薬草あるいは民間治療薬、F55.8他の依存を生じない物質、F55.9特定不能のものである。

つまり、世界保健機関は1994年の『アルコールと薬物の用語集』においては、抗うつ薬による依存症や離脱症状が生じるかは不明確だとしているためである[11]

しかしながら、2003年には世界保健機関は、SSRI系の抗うつ薬による離脱症状や依存症の報告が増加していることに言及した[12]
鑑別診断

DSM-IVにおいてもICD-10においても、物質依存症など、他の形態をとっている場合には、この診断の使用は推奨できない[3][9]
乱用の否認

向精神作用を持つ物質などの嗜癖を持つ場合、否認という病的な自己防衛機制が働く。この防衛機制のため、たばこのような一部の薬物は、長期的影響(特に認知能力や記憶力などの高次脳機能)を無視し、実際よりも害が少ないと言われる傾向がある。[要出典]
乱用される主な薬物

精神活性物質の特徴の概要(世界保健機関、2004年[13])物質主な作用機序行動的影響耐性離脱長期使用による影響
エタノールGABA-A受容体の活性の増加鎮静、記憶障害、運動失調、抗不安酵素誘導により代謝耐性が生じる。学習により行動耐性を得る。耐性はGABA-A受容体を変化させることで形成される。震え、発汗、脱力、興奮、頭痛、吐き気、嘔吐、発作、振戦せん妄脳の機能と形態の変化。認識機能障害。脳容積の減少。
睡眠薬と鎮静剤ベンゾジアゼピン系:GABAによるGABA-Aクロライド・チャネルの開口を促す。バルビツール酸系:GABAイオノフォアの特異的部位に結合し、クロライド伝導性を増加する。鎮静、麻酔、運動失調、認識障害、記憶障害GABA-A受容体の変化により、(抗けいれんを除き)多くの作用に対して急速に形成される不安、覚醒、落ち着かない、不眠症、興奮、発作記憶障害
ニコチンニコチン様コリン作動性受容体作動薬。脱分極を誘発しチャンネルを介してナトリウムの流入を増加する。覚醒、注意、集中や記憶を増す;不安や食欲を減少させる;覚醒剤に似た作用耐性は代謝因子を介して形成され、受容体の変化は食欲を増加させる易刺激性、敵愾心、不安、不快、気分の落ち込み、心拍数の減少、食欲の増加喫煙による健康への影響は十分に実証されている。タバコの他の化合物からニコチンの影響を分離するのは困難である。
オピオイドミューおよびデルタ・オピオイド受容体作動薬陶酔、鎮痛、鎮静、呼吸器の抑制短期間および長期間の受容体の脱感作。細胞内伝達機構における順応。流涙、鼻漏、あくび、発汗、落ち着きのなさ、寒気、腹痛、筋肉痛オピオイド受容体とペプチドにおける長期間の変化。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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