薬害
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薬害(やくがい)とは、明らかな投薬ミスを含まず[1]医薬品の「不適切な使用による医学的な有害事象のうち社会問題となるまでに規模が拡大したもの」と「不適切な医療行政の関与が疑われるものを指す」とする見解があるが、明確な定義は定まっていない[2]
解説

薬害(薬剤や医療用具による障害)の分類に関して、1970年代には以下の考え方があった[3]が、現在でも体系的な研究は不足していると指摘する専門家もいる[4]
研究目的(例:治験薬 - Xenalamine)。

治療目的(例:ペニシリンサリドマイド、アンプル入り風邪薬血液製剤など)。

当時は予見できなかった問題や、危険性を過小評価していた副作用


既知の副作用。

薬剤の副作用のなかで危険なものが見過ごされていて死傷者が多発した場合のほか、重大な薬物相互作用(飲み合わせ)。

このほかにはウイルスや意図しない蛋白質など病原物質の混入などによるものがこれまで知られている。また発売時点では未知の病原体による感染が後に見つかることもある。

医薬品の開発に際して通常は治験が行われ、その有効性・安全性が検証される。治験では有効性・安全性がまだ充分に確立されていない治験薬(医薬品の候補)をボランティアに投与するため、必要以上に多くの人間に漫然と投与することは倫理的に問題となる。そのため、治験では有効性を検証するために最低限必要な患者数を事前に算出し、その限られた患者のみを対象に臨床成績を評価する。

その一方で、副作用は薬物の効能ほどには頻繁に現れないため、安全性を正確に評価するためには、有効性を評価するのとは比較にならないほど多くの患者数が必要となる。そのため、安全性が完全に確認された医薬品のみに製造販売承認を与えるシステムにしてしまうと、それだけ発売が遅れ(1万人に1人の割合で発生する副作用を検出できる治験を実施すると、終わるまでに90年間かかる計算になる[5])、治療を待ち望む患者の不利益となる(ドラッグ・ラグ)。また薬物相互作用の組合せは多岐にわたるため、モデル化したモンテカルロシミュレーション法により柔軟で高度な薬物相互作用の予測が行えるソフトウェアも開発されているが、予測限界があると指摘されている[6]

これらのことから実際には、非臨床試験(動物実験など)および治験のデータの範囲内で有効性・安全性が認められれば製造販売承認が下り、より詳細な安全性情報は市販後調査(第IV相試験)と呼ばれる副作用データの蓄積によって評価されている。

このように医薬品が発売される時点では、その薬剤の安全性はいわば仮免許の状態であるため、実際の臨床現場での使用を経て、安全性情報を蓄積してゆくことが非常に重要となる。また、安全性の追求と患者の利便性は時に相反するため、患者の利便性を担保しつつ安全性を追求するためには、有害事象を確実に把握できる報告システムと、偶然を超えるレベルで有害事象が生じた場合に警告する体制の構築が必要である。

例えば、臨床試験で有効性は認められたものの、承認されたなかった使用法、日本医師会は、このようなケースに否定的な見解を示している[7][8]
日本国内での主な薬害事件

年代については、それが明らかに「薬害」として報じられ、和解などで決着された順に厚生労働省の資料[9]をもとに掲載。
昭和時代
ジフテリア予防接種(1948年から1949年)ワクチンメーカーの製造ミスによりジフテリアワクチンの無毒化が不完全で毒素が残留[9]。詳細は「京都・島根ジフテリア予防接種事件」を参照
グアノフラシン白斑グアノフラシンはフラシンの一種で抗菌物質である。目薬に使用して周りに白斑が生じる報告が多く、発売は1950年4月であるが、1951年1月31日自主回収、厚生省の禁止は1951年6月26日である。厚生省が禁止したが、第二次世界大戦後最も早い禁止である[10][11]
ペニシリンアナフィラキシーショックによる死亡。1953年から1975年に1276名死亡[4]
サリドマイド(1960年代)睡眠薬つわりの治療薬。強い催奇性のため世界中で多数の奇形児を生み出し薬害史上有数の悲劇となった。世界的に治験制度の改革が促された。詳細は「サリドマイド」を参照
スモン(1960年代)1955年から出てきたスモン(亜急性脊髄視神経症)という奇病のため、1964年に厚生省研究班が発足、スモン罹患者が服用していた殺菌剤クリオキノールキノホルム)を1972年に中止すると罹患者は激減したが、罹患者が目立ったのは日本だけであり、拡大した使用法による薬の長期連用が原因とされる[12]。1979年の薬事法の改正につながり、副作用救済制度、承認基準、副作用収集制度、品質管理、添付文書への副作用の記載、誇大広告の禁止など大きな改革をもたらした[12]キノホルムは本来は殺菌剤として開発されたが、日本では整腸剤として広く使われ、服用者に脊髄炎末梢神経障害のため下肢対麻痺に陥る例(スモン)が多発した。


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