蒸発熱
[Wikipedia|▼Menu]

蒸発熱(じょうはつねつ、英語: heat of evaporation)または気化熱(きかねつ、英語: heat of vaporization)とは、液体気体に変化させるために必要なのことである[1][2]。(固体や液体が気体に変化する現象を気化という。)

気化熱は潜熱の一種であるので、蒸発潜熱または気化潜熱ともいう。固体を気体に変化させるために必要なは昇華熱(しょうかねつ、英語: heat of sublimation)または昇華潜熱という[3]。単に気化熱というときは液体の蒸発熱を指すことが多いが、液体の蒸発熱と固体の昇華熱を合わせて気化熱ということもある[4][5]。以下この項目では、便宜上、液体の気化熱を蒸発熱と呼び、液体の蒸発熱と固体の昇華熱を合わせて気化熱と呼ぶ。

気体が液体に変化するときに放出される凝縮熱(ぎょうしゅくねつ、英語: heat of condensation)の値は、同じ温度と同じ圧力の蒸発熱の値に符号も含めて等しい。

物質量(mol)当たりの蒸発熱は、液体中で分子の間に働く引力に、分子が打ち勝つためのエネルギーであると解釈される[6]
気化に必要なエネルギー

液体が気化する場合は、沸騰して気体になる場合と蒸発して気体になる場合がある。どちらの場合でも、気化にはエネルギーが必要である。多くの場合、気化に必要なエネルギーはとして物質に吸収される。
液体の沸騰の場合

液体を沸騰させるのにエネルギーが必要であることは、コンロで湯を沸かすときのことを考えると分かる。このとき、水を沸騰させるのに必要なエネルギーは、コンロから供給されている。強火にしてエネルギーの供給速度を上げると、水が水蒸気に変化する速度も上がる。コンロの火を消すとエネルギーの供給が止まり、沸騰も止む。エネルギーの源になっているのは、ガスコンロでは燃料ガスの化学エネルギー[注 1]である。電気コンロIHクッキングヒーターでは、電力会社から供給される電気エネルギーである。
液体の蒸発の場合

一方、液体が蒸発するときにもエネルギーが必要なことは、沸騰のときと比べると少し実感しにくい。水に濡れた食器や衣服は、乾燥機を使わなくても自然に乾くからである。乾燥機を使ったときのエネルギー源は、先の例と同じように電気エネルギーである。それに対して、自然に水が蒸発して乾くときのエネルギー源は、食器や衣服、そして周りの空気である。食器や衣服や空気のエネルギーがとして水に与えられ、このエネルギーにより水が水蒸気に変化する[注 2]。打ち水などの方法で水の周囲の温度を下げることができるのも、蒸発熱を利用した身近な一例である。液体が蒸発するときに周りから熱を吸収することは、以下の実験により確認できる。

準備: 消毒用アルコールスポイトと料理用のデジタル温度計を用意する。

操作: デジタル温度計の感温部(温度センサー部)に、スポイトで消毒用アルコールを一滴たらす。

観察1: デジタル温度計の表示温度が低くなる。

観察2: 適当に表示温度が低くなったあとは、表示温度はあまり変化しなくなる。

この実験の観察1では温度計の感温部からエネルギーが熱として放出されている。というのは、温度計の表示温度は、感温部が熱を吸収すると上昇し、逆に感温部が熱を放出すると低下するものだからである[注 3]。感温部の周りの空気の温度は、アルコールをたらす前の感温部の温度とほぼ同じと考えられるので、感温部から熱を受け取っているのはアルコールである。温度計の表示温度が変化しなくなるのは感温部に正味の熱の出入りがなくなったときだから、観察2では、周りの空気や温度計のほかの部分から感温部に流れ込んでくる熱量と、アルコールに奪われる熱量とが釣り合っている。したがって、この実験では、温度計と空気がアルコールの蒸発に必要なエネルギーの源になっている。
エネルギーの供給について

この節で挙げた例では、沸騰の場合も、蒸発の場合も、どちらも気化に必要なエネルギーは熱として液体に吸収されている。コンロで湯を沸かす例では、エネルギー源は化学エネルギーまたは電気エネルギーであるが、水はこれらのエネルギーを直接受け取っているわけではない。水を入れているヤカンやナベなどの底を通して、熱としてエネルギーを受け取っている。液体が気化するとき、多くの場合、気化に必要なエネルギーは熱として物質に吸収される。この熱のことも蒸発熱という。

気化に必要なエネルギーは物質により異なる。データ集などでは、物質 1 キログラム当たりの値または物質 1 モル当たりの値が気化熱として記載されている。単位はそれぞれ kJ/kg (キロジュール毎キログラム)および kJ/mol (キロジュール毎モル)である。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:58 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef