著作者人格権 (ちょさくしゃじんかくけん、英語: Moral rights) とは著作権の一部であり、著作物の創作者である著作者が精神的に傷つけられないよう保護する権利の総称である。美術・文芸・楽曲・映像といった著作物には、著作者の思想や感情が色濃く反映されているため、第三者による著作物の利用態様によっては著作者の人格的利益を侵害する恐れがある。しかし、国際条約や各国の著作権法によって、どこまでを具体的に著作者人格権侵害として認めるかは異なる。@media all and (max-width:719px){body.skin-minerva .mw-parser-output .tocright{display:none}}.mw-parser-output .tocright{float:right;clear:right;width:auto;background:none;padding:.5em 0 .8em 1.4em;margin-bottom:.5em}.mw-parser-output .tocright-clear-left{clear:left}.mw-parser-output .tocright-clear-both{clear:both}.mw-parser-output .tocright-clear-none{clear:none} 著作権における著作者人格権は以下のように位置付けられている[1][2]。.mw-parser-output .treeview ul{padding:0;margin:0}.mw-parser-output .treeview li{padding:0;margin:0;list-style-type:none;list-style-image:none}.mw-parser-output .treeview li li{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f2/Treeview-grey-line.png")no-repeat 0 -2981px;padding-left:21px;text-indent:0.3em}.mw-parser-output .treeview li li:last-child{background-position:0 -5971px}.mw-parser-output .treeview li.emptyline>ul>.mw-empty-elt:first-child+.emptyline,.mw-parser-output .treeview li.emptyline>ul>li:first-child{background-position:0 9px} 著作者本人の人格権以外に、著作隣接者である実演家人格権などもあるが、本項での解説は著作者本人に限定する。 一般的には、著作者の「心」を守るのが著作者人格権であるのに対し、「財布」を守るのが著作財産権だと分類される。とは言え、第三者による著作物の利用が、著作者人格権と著作財産権の両方を侵害することもあり、両者は密接に関係している。たとえば、個人的に綴っていた非公開の日記を第三者が無断でコピーして配れば、著作者人格権の公表権と、著作財産権の複製権の両方を侵害したことになる[3]。また、著作者人格権の同一性保持権 (著作物を改変されない権利) と、著作物の翻案権や二次的著作物の利用権 (著作物を改変する権利) など両立の困難な領域もある[4]。 誰が権利を持てるかについても、著作者人格権と著作財産権では異なる。著作財産権は土地や建物のように権利を譲渡、相続、貸与できるが、一方で著作者人格権は一般的に譲渡が認められていない。これは、著作者人格権が著作者本人の心を保護することを目的としているためである。換言すると、複製権や出版権などの著作財産権を第三者に売却した後でも、著作者人格権だけは消滅せず著作者本人を守り続ける。これを「一身専属性」と呼ぶ。 ただし、この一身専属性を著作者本人の意志で否定する、つまり著作者人格権を自ら放棄したり、不行使にする契約を結べるのかについては、一部の国で認められている。著作者人格権を守ることを優先しすぎた結果、著作財産権の面で著作者が経済的に不利な立場に追い込まれてしまうリスクを回避する必要性があるためである。たとえば、著作物利用のライセンス契約を締結する際に、著作者人格権をライセンス先に譲渡できないとなると、著作者人格権侵害による訴訟リスクを考慮して、契約そのものが破談になってしまったり、リスク分を加味して著作者が不利な契約の立場に追い込まれるといった副作用が考えうる[5]。 さらに原著作物だけでなく、それを用いて創作された二次的著作物に対しても、原著作物の著作者は著作者人格権を有していることになる[6]。たとえば、イギリス人作家が執筆した「未発表」の英語の小説を基に、翻訳出版権を正式に獲得した日本人翻訳家が日本語化したとする。このように著作財産権的には何ら問題ないケースでも、仮にイギリス人作家から承諾を得ずに日本語版小説のみ出版すると、著作者人格権のうちの公表権を侵害したことになる。 国によっては著作者人格権の譲渡は認めないが、相続は認めることがある (詳細は#各国の対応を参照)。生前に名誉棄損などの行為が禁止されて人格が守られてきたように、安心して死ねる権利が著作者には必要だとの考えである[7]。没後の著作者に対する名誉棄損がその遺族にまで影響を及ぼす場合には、遺族分の人格権侵害に限定して、損害賠償や差止などの具体的な法的措置が取られることがある[8]。 著作者人格権は全ての著作者や著作物を等しく保護するわけではなく、例外も存在する。ここでの「著作者」だが、職務著作 (法人著作) のように個人以外に著作権が帰属する場合、氏名表示権を除く著作者人格権は認める必要がないとされる。またコンピュータ・プログラムも特許権ではなく著作権の範疇で保護されることがあるが、感情を表現した芸術的な著作物とは扱いが異なる。実用的なコンピュータ・プログラムの場合、中身を改変してもプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いことから、同一性保持権には大幅な制限がかかるとされる[9]。 また世界の著作権法は大陸法と英米法のいずれかの流れを汲んでおり、英米法の国では伝統的に著作財産権のみを重視していることから、著作者人格権の保護範囲がそもそも非常に狭いアメリカ合衆国のような国も存在する。 もともと公表を予定していない著作物 (私的な手紙・日記、企業の機密資料など) や、公表を予定しているが未完成の著作物 (セリフを推敲中の映画の脚本、描きかけの絵画など) がある。これらの著作物を、著作者以外の第三者によって無断で公表されない権利が公表権である[10]。ここでの「公表」 (英: publish) にどのような手段が具体的に含まれるのかは各国の法律により異なるが、上演、展示、口述、インターネット上での掲示も含む[10]。アメリカ合衆国における公表の定義については「著作権法 (アメリカ合衆国)#著作物の発表の定義」を参照 著作物を公表する場合、どのように著作者名を表記するか決定できるのが氏名表示権である。これには実名以外に変名 (ペンネームなど) または無名 (匿名) の使用も含む。たとえば、ジャーナリストが報道記事を執筆し、実名で公表を希望しているにもかかわらず、寄稿先の雑誌が著作者名を表示せずに発行すれば、氏名表示権侵害になる。また、本来の著作者以外の名前で著作物を公表しても氏名表示権侵害に当たる。報道記事を執筆したジャーナリストの実名ではなく、雑誌社名であったり、編集長の名前に書き換えてしまう行為は禁じられる。さらに「盗作」も著作者名を書き換えているに等しいため、著作財産権の侵害だけでなく、著作者人格権の氏名表示権侵害である[11]。 著作権法19条1項では「著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。」と規定されており[12]、氏名表示権は二次的著作物にも及ぶ[13]。著作者人格権は他人に譲渡できない権利であり、動画の場合には動画中に共著者名を表示しなければならない[13]。共著者の一人が氏名表示権を侵害された場合、損害賠償請求できる[14]。また、動画は映画の著作物に該当し、フリー素材であっても氏名表示義務のある場合がある[15]。氏名表示を怠り、許諾を得ずにゲーム実況動画等を配信すると権利侵害となる[16]。なお、「著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる」(著作権法19条2項)[12]。 ただし、公表に使用する名前を実名にするか、変名や無名にするかで著作権の保護期間に差が出るため注意が必要である。一般的には実名の場合、存命期間および死後70年間を著作物の保護期間だとする国が多いが、変名や無名著作物の場合は著作者の死亡日を確定できないため、著作者の生死にかかわらず、作品の公表から一定年数を保護期間と定めることが多い。「著作権の保護期間」も参照 著作物を無断で改変されない権利を同一性保持権と呼ぶが、どこからが改変にあたるのかが問題となる。たとえば雑誌の紙面上の都合で修正したり、別の文章を足したり、写真の一部をカットしたり、映画に一部別のシーンを挿入したりすることである。また、小説や映画などの中身だけでなくタイトルにも同一性保持はおよぶ。さらに原著作物だけでなく、小説の映画化や楽曲の編曲といった二次著作物であっても、原著作者の主観的な意志を尊重しなければならない[17]。 ただし、利用者側の観点でやむをえないと判断される場合や、改変によって著作者を精神的に傷つけるおそれがない著作物の場合は、改変が認められる。たとえば学校教育に利用される著作物にフリガナを振る、旧字体を常用漢字に変えるといった利用は認められている。ソフトウェアの場合は、バグ (不具合) を改修したり利便性を増すためにバージョンアップすることが想定されるため、同一性保持権は制限される[18]。 いわゆる「パロディ」については、国によって扱いが異なる。パロディが著作権侵害に当たらないと明記している希な国がフランスである (L122条-5)[19]。著作者人格権の保護範囲が狭い米国においては、パロディを含む変形的利用 たとえ著作物を改変していなくとも、著作物の利用方法次第では著作者の名誉を傷つけることがある。たとえば、名画を風俗店の看板に利用する行為が名誉声望保持権の侵害にあたるとされている。社会的な評判が傷つけられたかどうかが問われるため、著作物の公表方法が実名ではなく変名や無名であっても、著作者は名誉声望保持権を有していると考えられる[21]。 なお、著作者の名誉を守る法的手段として、著作権法上の名誉声望侵害を訴えるだけでなく、一般的な民法上の名誉毀損で損害賠償や差止などを提訴できる。また刑事上の名誉毀損罪での告訴もありうる[22]。 自分の著作物の内容に満足して、公表権を行使して著作物をいったん公表した。しかしその後に不備に気付き、そのまま公表され続けることが精神的苦痛につながる場合は、著作物の複製をやめるよう求めることができるという考え方が出版権廃絶請求権である。同様の理由で、修正版への差し替えを要求する権利が修正増減請求権である。しかし、著作者から出版権を獲得した出版社に対し、出版済またはこれから出版予定の著作物を市場から回収する義務や、修正版に差し替える義務を負わせるとなると損害が発生することから、これら請求権を著作権者が行使する際には、出版権者に対する損害補てんが前提となる。また修正増減請求権の場合は、現時点で市場に出回っているものではなく、今後増刷する複製物のみを差し替えの対象としている。なお、日本の著作権法上では廃絶請求権は出版物に限定している[23]。 著作者人格権が、実際の法律上でどのように保護されているか見ていく。著作権者の権利に関する主な国際条約には、発効年の古い順にベルヌ条約、万国著作権条約、TRIPS協定、WIPO著作権条約の4本がある。このうち、著作者人格権の観点からはベルヌ条約とTRIPS協定の2本が特に重要である。なお万国著作権条約は、ベルヌ条約の条件が厳しくて加盟できなかった国々に対する橋渡し的な役割を担っていたものの、その後各国が国内法を整備してベルヌ条約も締結できたことから、21世紀に入ってからは法的な役割を終えている。WIPO著作権条約 (世界知的所有権機関 (WIPO) 主管) は、インターネットの普及に伴うデジタル著作物の技術的保護を重点的に定めており、ベルヌ条約の「2階部分」とも言われている。著作者人格権の観点では今なお、1階部分のベルヌ条約がベースとなっている[24]。以上の理由から、ベルヌ条約とTRIPS協定に絞って解説する。 締結済が187か国 (2019年5月現在) に上り[25]、かつ著作権保護の基本方針をとりまとめたのがベルヌ条約である。ベルヌ条約の第6条では著作者人格権の保護を規定しており、主な特徴は以下の通りである。 ところがベルヌ条約が大陸法をベースにしていることから、英米法を採用する諸国はベルヌ条約を締結できず、アメリカ合衆国にいたっては同条約の発効 (1887年) から約1世紀もの間、著作者人格権が米国著作権法内でまったく規定されてこなかった。さらにベルヌ条約締結後も、著作者人格権が視覚芸術作品に限定して認められていることから、米国はベルヌ条約違反だとの批判もある。「著作権法 (アメリカ合衆国)#著作者人格権」も参照 ベルヌ条約の保護水準を引き上げる目的で採択されたのが、1995年発効のTRIPS協定である。これはベルヌ・プラス方式とも呼ばれ、TRIPS協定の締結国はベルヌ条約も遵守することが求められている。しかしこのベルヌ・プラス方式からは、著作者人格権を規定したベルヌ条約第6条の2が除外されている[27][28]。
概説
著作権
著作者本人の権利 (狭義の著作権)
著作財産権 (最狭義の著作権。著作物を使って富を得る支分権の総称)
複製権 (小説本の印刷や楽曲のCD販売などコピーを作る権利)
翻案権 (翻訳、編曲、映画化) ...など
著作者人格権 (著作者が精神的に傷つけられない権利の総称)
公表権 (無断で著作物そのものを公表されない権利)
氏名表示権 (著作物を公表する際に著作者名の表記を決定する権利で、実名以外に無名または変名使用も含む)
同一性保持権 (無断で著作物を改変されて誤解を受けない権利)
名誉声望保持権 (著作物を適切な場所に展示するなど、著作者の社会的評価を守る権利)
出版権廃絶請求権 (著作物の内容に確信を持てなくなった際に著作物の複製をやめるよう求める権利)
修正増減請求権 (改めて複製する際に修正バージョンを適用するよう求める権利)
著作隣接者の権利 (実演家、放送事業者など著作物を伝える者の権利)
人格権と財産権の関係
著作者の死後の扱い
制限と例外
著作者人格権の内訳
公表権
氏名表示権
同一性保持権「同一性保持権」も参照
名誉声望保持権
出版権廃絶請求権と修正増減請求権
国際条約上の保護
ベルヌ条約.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキソースにベルヌ条約 (1971年パリ改正版)の日本批准時の日本語訳があります。
著作者人格権の種類として、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権を認める (第6条の2第1項)。
公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現せず、ベルヌ条約に規定がない[26]。
著作財産権が他者に移転した後も、著作者人格権は著作者が保有する (第6条の2第1項)。
著作者の死後も著作者人格権は存続する (第6条の2第2項)。
著作者人格権の放棄 (不行使契約の締結) の可能性についてはベルヌ条約に規定がない。
TRIPS協定英語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。TRIPS協定 (1994年署名・1995年発効) の英語原文
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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