著作権の保護期間における相互主義
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著作権の保護期間における相互主義では、内国民待遇の下で外国の著作物に与えられる著作権の保護期間を、最長でもその本国で認められる著作権の保護期間に限定することを加盟国に許容する、国際著作権条約の規定について解説する。
目次

1 内国民待遇と相互主義

1.1 内国民待遇の原則

1.2 例外としての相互主義


2 ベルヌ条約

3 万国著作権条約

4 二国間著作権条約

5 各国の相互主義採用状況

6 アメリカ合衆国の状況

6.1 判例

6.2 二国間条約


7 欧州連合の状況

7.1 判例


8 日本の状況

8.1 相互主義の採用

8.2 アメリカ合衆国との関係


9 脚注

10 関連項目

11 外部リンク

内国民待遇と相互主義
内国民待遇の原則

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)や万国著作権条約などの著作権の保護に関する諸条約は、いずれも当該加盟国たる外国の著作物の保護に関して内国民待遇を定めている(ベルヌ条約5条1項、万国著作権条約2条1項・2項)。著作権保護における内国民待遇とは、外国著作物の著作権の保護について、内国著作物と同等の保護を保障することをいう。
例外としての相互主義

以上の原則に対し、著作権の保護期間については、内国民待遇の原則が貫徹されておらず、相互主義の採用が許容されている。

ベルヌ条約も万国著作権条約も著作権に対してすべての加盟国が満たさなければならない最低限の要件しか定めていないが、条約上の最低限の保護を超える保護を自国の法律で与えるのは、加盟国の自由である。これは特に著作権の保護期間に関して顕著であり、ベルヌ条約が定める一般的な著作権の最短の保護期間は著作者の死後50年であるが(ベルヌ条約7条1項)、それより長い期間を定めることも許容されており(ベルヌ条約7条6項)、過半の国では、条約に合わせて著作者の死後50年とするが、より長く、著作者の死後70年や、著作者の死後100年まで保護する国もある。そのため、同一の著作物の保護期間が国により異なる結果を生み、ある国では既に著作権の保護期間が終了しているのに対し、別の国では未だ保護期間内であることもあり得る。

このような場合、通常の内国民待遇の例外として、著作物の本国である外国法の保護期間の方が自国の法より短い場合には、その短い保護期間を適用する相互主義が認められる(ベルヌ条約7条8項、万国著作権条約4条4項(a))。長い保護期間を持つ国はこのような短い保護期間を持つ外国の著作物に、より短い保護期間を適用することができる。例えば、コートジボワールの保護期間は著作者個人の死後または法人の公表後99年、ホンジュラスは同75年であるが両国の著作権法では相互主義に基づきより短い方の保護期間を適用することが定められているため、これらの国において、日本の著作物が70年[1]を越えて保護されることはない。

なお、相互主義により外国の保護期間を適用するということは、著作権の保護期間の準拠法が外国法になるという趣旨ではない。著作権の保護に関する準拠法は、あくまでも著作物の利用地法である。相互主義は、準拠法として指定された法、すなわち利用地法の下における外国著作物の保護の程度に関する問題である。
ベルヌ条約

ベルヌ条約7条8項には、著作権の保護期間に関して相互主義の採用を許容する規定が存在する。[2]
第7条〔保護期間〕
(8) いずれの場合にも、保護期間は、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。ただし、その国の法令に別段の定めがない限り、保護期間は、著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない。

ここにいう本国の定義は5条4項による。
第5条〔保護の原則〕
(4) 次の著作物については、次の国を本国とする。(a) いずれかの同盟国において最初に発行された著作物については、その同盟国。もつとも、異なる保護期間を認める二以上の同盟国において同時に発行された著作物については、これらの国のうち法令の許与する保護期間が最も短い国とする。(b) 同盟に属しない国及びいずれかの同盟国において同時に発行された著作物については、その同盟国(c) 発行されていない著作物又は同盟に属しない国において最初に発行された著作物でいずれの同盟国においても同時に発行されなかつたものについては、その著作者が国民である同盟国。ただし、次の著作物については、次の国を本国とする。(i) いずれかの同盟国に主たる事務所又は常居所を有する者が製作者である映画の著作物については、その同盟国(ii) いずれかの同盟国において建設された建築の著作物又はいずれかの同盟国に所在する不動産と一体となつている絵画的及び彫塑的美術の著作物については、その同盟国

もっとも、相互主義の採用は必須ではない[3]。あらゆる国は自国の法律に「別段の定め」をおくことができる。そうするために、国内の著作権法に明文の例外を含める必要はない[4]。例えば、中国(著作者個人の死後または法人の公表後50年)やアメリカ合衆国(著作者個人の死後70年または法人の公表後95年)、メキシコ(100年)、コロンビア(80年)、グアテマラセントビンセント・グレナディーンサモア独立国(各75年)は例外を明文化していない。

なお、ベルヌ条約では、著作物の本国において著作権が発生しない場合について、加盟国で著作権の保護期間をゼロの著作物として相互主義の対象にしうるかについては、後述する万国著作権条約の場合と異なり、公式の解釈が存在しない。
万国著作権条約

万国著作権条約においても、著作権の保護期間における相互主義の採用は第4条4(a)において明記されている[5]
第4条〔保護期間〕
4 (a) いずれの締約国も、発行されていない著作物についてはその著作者が国民である締約国の法令により、発行された著作物についてはその著作物が最初に発行された締約国の法令により、それらの著作物の種類について定められている期間よりも長い期間保護を与える義務を負わない。

この条約の締結過程で日本政府は、著作者の本国や著作物の最初の発行地において当該著作物が全く保護されない場合(つまり、著作権が発生しない場合)の扱いについて疑義を提示した。この懸念を解消するため、議長は、この場合は著作権の保護期間がゼロの著作物とみなし、他国は著作物の保護義務を追わないことを明確にした。このため他国は、たとえ国内の類似の著作物に保護を与えていても、このような外国著作物を保護する義務はないと解釈される[6]

加盟国は、第4条(4)(a)に根拠を有する相互主義の採用を義務づけられている訳ではなく、内国の著作物と同様の保護期間を保障することも認められる。
二国間著作権条約

既存のもしくは新たな二国間条約の条項は、その条約が国際著作権条約の最小要件を満たす限り、国際著作権条約に優越することもありうる。これはベルヌ条約の第20条[7]および万国著作権条約の第18条と第19条[8]で規定されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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