色覚異常
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色覚異常(しきかくいじょう)とは、ヒト色覚が正常色覚ではない事を示す診断名である。別の呼び方として小数色覚(しょうすうしきかく)や、1990年代に眼科医の高柳泰世らが提唱した色覚特性(しきかくとくせい)、またはカラーユニバーサルデザイン機構が提唱する色弱者(しきじゃくしゃ)などがある。なお、日本では2004年以前は眼科の診断名として「色盲」「色弱」という呼称が使われていたが、2005年に日本眼科学会によって正式に廃止され、これらの用語は現在では基本的に歴史的な文脈でのみ使われる用語となっている[1]
概要

2017年には日本遺伝学会が、ヒトが持つ多様な色覚に着目した「色覚多様性」という概念を提唱し、色の見え方はヒトによって多様であり、色覚異常は「異常」ではなく、ヒトにおける色覚の「多様性」の1つであるとした[2][3]

一方で、正常色覚とされる範囲は、眼科学によって定義される。要因が先天性である場合を先天性色覚異常、後天性である場合を後天性色覚異常と分類する。先天性色覚異常を持つヒトの割合は、日本においては男性で約5%[4]、女性で約0.2%の割合である[5][6]。しかし、地域によって割合は異なり、例えば、フランスや北欧では、男性で約10%、女性で約0.4%である[5]。また、アフリカ系のヒトでは、2 - 4%程度である[7]。なお、ヒトの色覚は、女性が持つX染色体と関連性が強いため、X染色体のスペアを有する女性の方が、先天性色覚異常は少ない傾向が見られる[8]
分類
先天色覚異常ヒトの錐体細胞(S、M、L)と桿体細胞(R)が含む、視物質の光の吸収スペクトル。黒の破線が桿体細胞のスペクトル。青の線は、短波長側(short)に吸光極大を有するS錐体のスペクトル。赤の線は、長波長側(long)に吸光極大を有するL錐体のスペクトル。緑の線は、この2種類の錐体細胞の中間(middle)に吸光極大を有するM錐体のスペクトルである。例えば、S錐体は、俗に「青錐体」などと呼ばれる事例も見られるものの、青色の光のみを吸収するわけではない。いずれの視細胞も、単一の波長、つまり、単一の色にだけ反応するわけではない点に、注意を要する。
1色覚

錐体細胞を全く持たない場合、または、S・M・Lのいずれか1つしか錐体細胞を持たない場合に発生する。発症は数万人に1人と少ない。

錐体細胞を全く持たない場合は、弱い光を感知するために主に利用される桿体細胞のみに[注 1]、光の検知を頼る形になる。暗い場所では正常色覚者でも色が判別不能になり、細かい形状もわかりにくくなる(視力が低下する)が、錐体細胞が全くない場合は、明るい環境でもこの状態になる。つまり、色が全く識別できないだけでなく、弱視などの症状が現れる。視力は0.1程度に留まる。近視などと違い網膜の問題であるため、眼鏡では色覚も視力も改善しない。また、明る過ぎる環境では桿体細胞が正常に働かず、さらに視力が低下する。これに対してはサングラスや遮光眼鏡で対処する。

S錐体のみを持つ場合、ヒトも場合は元来のS錐体自体の数が、M錐体・L錐体に比して約10分の1しかないため、錐体細胞を全く持たない場合とあまり変わらない症状になる。視力は0.3程度。

M錐体またはL錐体のみを持つ場合は、色の識別はできなくとも、視力は比較的良好に保たれる。ただし、このような事例は、極めて稀である。

ミクロネシア連邦ピンゲラップ島は、12人に1人を1色覚者(錐体を持たない)が占める島である。これは、1775年頃に島を襲ったレンキエキ台風によって人口が20数人にまで減ってしまい、その生き残りに1色覚者がいたため、孤立した環境で近親婚を繰り返した結果、1色覚者の割合が高くなった結果である。1色覚者は、暗い場所で微妙な明かりを見分けられるとされている。このため、ピンゲラップ島において1色覚者の人々の多くは、夜釣りの漁師として働いている[9]
赤緑色覚異常

先天色覚異常の中で最も多く存在し、赤系統や緑系統の色の弁別に困難が生じるヒトが多いとされる。色の弁別に困難が生じるだけで、視力は正常である。日本人では男性の約5%、女性の0.2%が先天赤緑色覚異常で[10]、日本全体では約290万人が存在する。北欧にルーツを持つ男性では約8%、女性では約0.4%で先天赤緑色覚異常が見られる[11]

脊椎動物の色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類両生類爬虫類鳥類には4タイプの錐体細胞(4色型色覚)を持つ種が多い。よってこれらの生物は、長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できると考えられている。一方で、ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ(2色型色覚)しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は、4タイプ全ての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われるアデロバシレウスが生息し始め、初期の哺乳類は主に夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは、赤と緑を十分に区別できない、いわゆる「赤緑色盲」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれていった[12]画像提供依頼:緑色の葉を付けた果樹に、赤く熟した果実が実っている状態を、正常色覚と赤緑色覚異常で見比べた画像。の画像提供をお願いします。(2023年12月)

ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前に、X染色体にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、ヘテロ接合体の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異が起こり、同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されるようになり、X染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は、植物の緑色の葉と、熟して葉とは別な色に変色した果実を、見分けて発見する際などに有利だったと考えられる[12][13]

時代を下ってヒトの色覚の研究成果により、ヒトが属する狭鼻下目のマカクザルに色盲がヒトよりも非常に少ない点を考慮すると、ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が低下したと考えられる[12]。色盲の出現頻度は狭鼻下目のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である[13]。新世界ザル(広鼻下目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスは全ての個体が色盲である。これは狭鼻下目のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである[13]。ヒトは上記のような狭鼻下目の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が、伴性遺伝の形式で遺伝し、劣性遺伝の形式で発現する。したがって、男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いだ場合に色盲が発現するのに対して、女性では2本のX染色体が、いすれも赤緑色盲の遺伝子を受け継いだ場合に色盲が発現する[8]
青黄色覚異常

錐体神経のうち、S錐体の異常(第3色覚異常)により発生する。先天的な青黄色覚異常は、非常に稀である。正常色覚者でもS錐体の数は少なく、そこからの情報は補助的にしか利用していない[注 2]ため、生活上の不便は特になく、本人も周囲の者も気付かない場合が多い。日本の学校でかつて全員に行われていた色覚検査でも、赤緑色覚異常の検出に主眼を置いていたため、発見される機会も少なかった。

強度の青黄色覚異常の場合、かすかに緑がかった黄色と青紫色が中性点(無彩色に見える点)となる。しかし、赤緑色覚異常での中性点[注 3]が、日常的に同明度で区別を要する状況が頻出するのに対し、黄色と青紫が同明度で使われることは、まずあり得ない[注 4]。また、緑と青の区別も難しいが、正常者でも青と緑は区別しない傾向にあるため、周囲の者も気付かないだけである。逆に赤緑色覚異常の者にとっては、青と緑は違う色に見え、正常者が区別しない傾向にあることを不思議に感じる場合が多い。逆に言えば「正常色覚」は、青と緑の判別力が相対的に弱いと言える。また、青黄色覚異常のヒトは、赤から緑にかけての色の識別は問題が出ないものの、緑から青にかけての色の識別は正常色覚よりも劣る。S錐体が欠損しているため波長410 nm前後の光を吸収できず、厳密には紫みを帯びた青は黒く見え、黄色は白く見えるようになる。
まとめ正常色覚RGBW1型2色覚RGBW2型2色覚RGBW3型2色覚RGBW

実際の患者によるヒアリングによると、3型は絵のように青がここまで黒くなく、もう少し青く見えると判明した。錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係を表にまとめると、下記の通りである。

錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係錐体細胞名称症状発生頻度
SML
○○○正常色覚正常(無症状)ヒトの大多数の色覚。
○○×1型色覚赤系統 - 緑系統の色弁別に困難が生じるが、
正常色覚とほぼ同程度の弁別能を持つ者も多い。日本では男性約20人に1人。
女性約500人に1人。
○×○2型色覚
×○○3型色覚正常色覚とほとんど変わらないが、
正常色覚と比べて全体的に色がくすんで暗く見える。日本では数万人に1人[注 5]
××○1色覚色は識別できないが、視力は正常。日本では数万人に1人。
×○×
○××色が識別できず、視力も低い。
×××


日本眼科学会が2005年に更新した色覚関連用語は以下の通りである[14]

色覚に関する眼科用語(一部)医学用語(現行)医学用語(2004年以前)
1色覚全色盲
2色覚2色型色覚
3色覚・正常色覚正常3色型色覚・正常色覚
異常3色覚異常3色型色覚・色弱
1型色覚第1色覚異常
1型2色覚第1色盲・赤色盲
1型3色覚第1色弱・赤色弱
2型色覚第2色覚異常
2型2色覚第2色盲・緑色盲
2型3色覚第2色弱・緑色弱
3型色覚第3色覚異常
3型2色覚第3色盲・青色盲
3型3色覚第3色弱・青色弱

後天色覚異常.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

この節の加筆が望まれています。

本節は未記述。注を参照のこと[注 6]
検査・評価
仮性同色表石原表の一例

色覚異常を有すると数字などが読めない指標や、色覚異常を有する場合とない場合で異なる物が読める指標、色覚異常者には読め、正常色覚者には読めない指標を読ませる方法で色覚異常を検出する。この方法は感度が高く、ほとんど正常に近い色覚異常でも検出できる[16]。色覚特性に対する高い検出力、検査の簡便さや準備の手軽さ、低費用などの長所を有するため、色覚検査で頻用される方法の1つであり、精密検査の際に、他の色覚検査法に先立って行われる場合も多い。

石原表が有名で世界的に用いられているほか、標準色覚検査表、東京医大表などが作られてきた。カラーセロファンなどの一般的な色フィルターをかざすことで、色覚検査表を判読することができる場合がある。「石原式色覚異常検査表」も参照
アノマロスコープレイリーマッチを使用したアノマロスコープ

赤緑異常の評価に頻用される。緑の光と赤の光を混合すると黄色く見えるが、これを黄色の波長の光を見ながら同じく見えるように混合比を調節させる物である。赤緑異常を持っている場合、正常人に比べて混合比がどちらかに大きく偏る傾向が見られる。「:en:anomaloscope」も参照
パネルD-15テストD15テストセット

連続した色相の15個のチップを、色が連続的に変化するように並べる方法である。ある2色の区別が難しい場合は、それ以外の色の変化のみに着目した配列にしてしまうため、色覚異常の種類・程度を判別できる。

航空業界や船舶業界では、石原表と合わせて検査に使われている(後述)。「:en:Farnsworth?Munsell 100 hue test#D15 test」も参照
症状

色覚異常は、かつて色盲(しきもう)と呼ばれたため[注 7]、「白黒に見える」ような誤解を持つ者も見られるが、それは稀な全色盲の場合だけの話である。先天色覚異常の大多数を占める赤緑色覚異常の当事者は、有彩色を検知している。先天色覚異常者の色弁別能(2つ以上の色が同じか違うかを判別する能力)は、正常色覚者の色弁別能に劣る。しかし、軽度の先天色覚異常者の色弁別能は、日常生活で特に不便は感じない。

以下のような色の組み合わせの例は、正常色覚者と先天色覚異常者とで見分けやすさが異なる場合が多い。正常色覚者にとっては同系色でない色彩の組み合わせを、先天色覚異常者が同系色と認識する、あるいは色相を特定できないなどといったことが生じる場合がある。狭い面積に配色された物(細い線の文字など)は、より判別し難くなるなど、色彩以外の条件も影響する。なお、以下の色彩は、各々のコンピュータやディスプレイの設定・特性に影響されるため、参考程度に考えるべきである。また、これらは先天色覚異常の説明のための物に過ぎず、色覚異常の判定に用いることは不適切である。大雑把に言えば、明度が近い場合に、赤っぽさと緑っぽさを混同しているように見える。

淡赤と淡緑
淡赤と淡灰
淡緑と淡灰
淡青紫と淡青灰
淡青緑と淡青灰
淡青紫と淡青緑
赤味青と緑味青
青紫と暗青
赤味黄と緑味黄
黄赤と黄緑
暗黄と暗緑
暗赤と暗緑(重度の場合)
赤黒と黒(1型色覚の場合)
赤と暗橙(1型色覚の場合)
緑黒と黒(2型色覚の場合)
青緑と灰(2型色覚の場合)

社会生活

色覚異常を有していても「一部の色が区別しづらいだけで日常生活にはほとんど影響がない」と言われる場合も見られる。しかし、信号の色の判別が難しい、肉の焼け具合がわかりにくい、顔色がわかりにくい[注 8])など、非当事者には十分に知られていない部分も多い。また「色盲」「異常」などの言葉の語感ゆえ誤解・理解不足による偏見を招き、社会生活の多くの面で制限を受ける場合が多い。
日本における強制検査


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