航空管制
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アムステルダム・スキポール空港管制塔 (Air Traffic Control Towers. 略称:ATCT) ボルドー(フランス)

航空交通管制(こうくうこうつうかんせい、Air traffic control, ATC)とは、航空機の安全かつ円滑な運航を行うために、主に地上から航空交通の指示や情報を航空機に与える業務のことである。航空管制とも。
概要

航空交通管制は、「航空機相互間及び走行地域における航空機と障害物との間の衝突予防並びに航空交通の秩序ある流れを維持促進するための業務」をいい、管制業務を行う資格を有し、かつ当該業務に従事している者を航空管制官(Air traffic controller)という。また、航空管制が実施されている空域を管制空域(: Controlled airspace)[1]と呼ぶ。航空交通管制に使用される無線電話における電波変調方式は、全世界振幅変調が用いられている。

管制業務は航空交通業務のうちの1つとして位置付けられており、航空交通業務は以下の業務の総称をいう。
管制業務(Air traffic control service)
航空機と航空機、または航空機と障害物の衝突の予防や、航空交通の秩序ある流れの維持促進のための業務
飛行情報業務(Flight information service)
航空機の安全かつ円滑な運航に必要な情報を提供する業務
警急業務(Alerting service)
捜索救難を必要とする航空機に関する情報を関係機関に通報し、また当該機関を援助する業務

管制業務を行う機関を管制所といい、管制所で行う管制業務には6つの業務(技能試験を行う対象としての業務は8つ)がある。カッコ内は各管制所の無線呼出符号。各管制所は管制業務の他に上記に掲げた飛行情報業務と警急業務も行う。

航空交通管理センター(呼出符号はない)の業務

航空交通管理管制業務

空域の適切な利用及び安全かつ円滑な航空交通の確保のための業務



管制区管制所(CONTROL)の業務

航空路管制業務

レーダーを用いない航空路管制業務

レーダーを用いる航空路管制業務


進入管制業務(航空交通管制部において行うものに限る)


ターミナル管制所(APPROACH/DEPARTURE/RADAR)の業務

進入管制業務(航空交通管制部において行うものを除く)

ターミナル・レーダー管制業務

ターミナルコントロールエリア(TCA)が指定されているところではTCAアドバイザリー業務(呼出符号はTCA)


飛行場管制所(TOWER/GROUND/DELIVERY)の業務

飛行場管制業務


着陸誘導管制所(GCA)の業務

着陸誘導管制業務

飛行場管制所は、一般的に空港内に設置されている管制塔の最上階(VFRルームともいう)において、またターミナル管制所は管制塔内VFRルーム階下にあるIFRルーム(レーダールーム)で業務を行っている。日本では管轄する空域(福岡飛行情報区)を大きく5つに分割し、札幌東京福岡神戸の各航空交通管制部航空交通管理センターで航空路管制業務を行っている。レーダー管制業務を開始するためには航空機をレーダー識別しなければならず、レーダー識別されるまでの間についてはレーダーを用いない航空路管制業務が実施される。従って、レーダーを用いる航空路管制業務の技能試験を受験する際には、予めレーダーを用いない航空路管制業務の技能証明を取得する必要がある[2]
管制業務の例

東京国際空港(羽田空港)から大阪国際空港(伊丹空港)までのIFR(計器飛行方式)による飛行を例にとると、出発から到着までの管制業務の流れは概ね次のようになる:
航空機はあらかじめ管制機関に、呼出符号・航空機の型式・予定経路・予定高度などを記載した飛行計画を提出する。

原則として移動開始の5分前に航空機が東京飛行場管制所管制承認伝達席(TOKYO DELIVERY)と通信設定を行い、管制承認を要求する。

TOKYO DELIVERYの管制官は副管制席の管制官に航空機から管制承認の要求があった旨を告げる。

副管制席の管制官は当該飛行を管轄する東京管制区管制所(TOKYO CONTROL)の地区(セクター)席の管制官に管制承認の要求をする。

地区(セクター)席の管制官は自管轄空域の交通流を検討しながら東京飛行場管制所からの要求に対して管制承認を発出する。

TOKYO DELIVERYは東京管制区管制所から受領した管制承認を航空機に伝達し、飛行場管制所地上管制席(TOKYO GROUND)に業務を移管する。

TOKYO GROUNDは地上の交通流を考慮して、滑走路手前までの走行経路を指示する。

航空機は飛行場管制席(TOKYO TOWER)と通信設定を行う。飛行場管制席の管制官は滑走路の交通を考慮して離陸許可を発出する。

離陸後、航空機は東京ターミナル管制所出域管制席(TOKYO DEPARTURE)と通信設定を行う。TOKYO DEPARTUREはレーダー画面上で航空機のターゲットを識別する。識別後、当該機に対するレーダー管制業務が開始される。

TOKYO DEPARTUREから東京管制区管制所(TOKYO CONTROL)に業務が移管され、航空機はTOKYO CONTROLと通信設定を行う。

TOKYO CONTROL内ではいくつかの管轄空域(セクター)を飛行し、航空路管制業務が行われ、必要に応じてレーダー誘導並びに高度変更等や降下の指示が発出される。

TOKYO CONTROLから関西ターミナル管制所入域管制席(KANSAI APPROACH)に業務が移管され、航空機はKANSAI APPROACHと通信設定を行う。

KANSAI APPROACHは他の大阪国際空港到着便を考慮しつつ到着順位の決定を行い、必要なレーダー誘導や降下の指示や速度の調整を行い、大阪国際空港への進入許可を発出し、大阪飛行場管制所(OSAKA TOWER)に業務を移管する。航空機はOSAKA TOWERと通信設定を行う。

OSAKA TOWERの管制官は滑走路上に航空機がいないことを確認した(滑走路上の管制間隔を設定)後に着陸許可を発出する。着陸後、大阪飛行場管制所地上管制席(OSAKA GROUND)と通信設定を行う。

OSAKA GROUNDは駐機場(スポット)までの走行経路を指示する。エプロンに入るまでが管制業務の対象であり、エプロン以降は各運航者の所掌となる。

公用語

国際民間航空機関(ICAO)の規定に基づき、英語航空英語)もしくは母語で交信する。実際は国籍にかかわらず英語を使用することがほとんどだが、緊急事態の場合はパイロットの負担を考慮して母語に切り替えることがある。実際、日本航空123便墜落事故ではパイロットの負担を考慮し航空管制官が母国語である日本語の使用を許可し、その後は殆ど日本語での交信となった。
無線故障時地上の車両に対し指向指示灯を向けるアメリカ海兵隊の管制官

無線の故障や非搭載[注釈 1]により交信が出来ない航空機(NORDO:ノード)に対してはライトガン(指向指示灯。赤・緑・白の点滅光または不動光を出せる強力灯)を、航空機は機体の傾き、夜間は位置灯やランディング・ライトを使用して交信する[3]。複雑な指示は出来ないが離陸、着陸、タキシングなど基本的な指示(Aviation light signals)が可能である[4]。航空機以外にも飛行場内を走行する車両に対して使うことがある[注釈 2]
機能喪失時

管制機能が喪失した場合、機長が自ら判断して離着陸を行う[5][6]

無管制空港でも同様に決められた手順に従って離着陸を行う。一部ではパイロット・コントロールド・ライティングを併用する。
カンパニーラジオ

航空機が航空局などと航空管制以外の連絡をする場合、管制塔を経由せず直接交信するシステム(カンパニーラジオ、航空エアバンド)を使用する[7]。空港付近と航空路では周波数が異なり、便数の多い大手航空会社には複数の周波数が割り当てられている。航空交通管制と異なり設置は使用者の自費となるため、自社で無線局を開設する[8]か民間企業のサービスを利用する[7]

旅客機では乗客の体調不良など、着陸後に対処を必要とする事態の連絡に使用されている[9]

航空管制とは独立しているため、航空英語ではなく所属先の公用語か母語での会話となる。
飛行場管制詳細は「飛行場管制」を参照

即座に空港もしくは飛行場の環境をコントロールする第一の方法は管制塔(コントロール・タワー、TWR)からの目視による監視である。管制塔にいる管制官は、飛行場周辺(航空交通管制圏)を航行する航空機、飛行場内の誘導路と滑走路上で移動する航空機や業務車両などの交通整理の責任を負っており、原則として目視により管制する。空港によっては、地上の航空機などを表示するレーダーを備えるところもある。この管制塔は飛行場敷地内に建てられており、飛行場面や周辺を飛行する航空機が見渡せるように高く、風に強い構造である。飛行場管制の基本は、飛行機や車両との無線交信を担当する席と、直通電話等を使用して他の管制機関や外部との調整を行う席の2席のみであるが、交通量の多い空港においては2席のみではトラフィック(航空交通)を捌ききれないため、いくつかの席に分けて行われている。
ローカル・コントロール(飛行場管制席)

基本的には、管制圏内を飛行する航空機の管制と、滑走路への離着陸の許可を発する管制部門である。一般的なコールサインは「タワー」。規模が小さくグラウンドやクリアランス・デリバリーが設置されていない空港では、これらの役割も担当する。

出発の場合は、グラウンド(地上管制席)から管制を引き継ぎ、離陸の許可を出し、#ディパーチャー(出域管制)へ管制業務を移管する。

到着の場合は、#アプローチ(入域管制)から管制を引き継ぎ、着陸の許可を出し、グラウンド・コントロールへ管制業務を移管する。

交信例
Japan Air 501, hold short of runway 34R. Number 3.日本航空501便、滑走路34R手前で待機してください。順序は3番目です。Japan Air 501, runway 34R. Line up and wait[注釈 3].日本航空501便、滑走路34Rに入って待機してください。Japan Air 501, wind 010 at 5. Runway 34R. Cleared for take off. Arrival traffic 4-mile on final.日本航空501便。風向010度・風速5ノット。滑走路34R離陸支障ありません。後続到着機が最終進入コース上4マイルにいます。
グラウンド(地上管制席)

グラウンド(GND)は航空機などの地上走行(タキシング)・移動に指示を与える管制部門である。比較的交通量の多い空港に設置されている。正しくはgrand(雄大な・立派な)ではなく「グラウンド」(ground、地上)なのだが転訛発音が定着して「グランド」ともいう。

出発の場合は、管制承認を受けたのち(計器飛行方式により飛行する場合のみ)、グラウンドと交信して、滑走路停止位置までの走行経路を指示される。その後、タワーとの交信が指示され、離陸の許可を待つ。

到着の場合は、滑走路への着陸後、タワーからグラウンドに引き継がれ、空港内のスポット(駐機場)への走行経路を指示される。

グラウンドは、滑走路とエプロン内を除く空港内での航空機や業務用車両(牽引車、除雪車、路面点検車両など)の移動を管制業務の対象とする。このため、出発機や到着機はもちろん、夜間のスポットチェンジなど牽引車が航空機を移動させる場合にも、許可や指示を与える。走行経路や、誘導路の交差点で「止まれ」「走行支障なし」を指示する、道路交通における交通信号機と同じような役割である。一般的に航空無線の公用語英語であるが、航空機以外の業務用車両と交信する場合は、現地の言語で行われる事もある。なお、滑走路に係る地上移動(滑走路の横断など)はローカル・コントロールが管轄する。

日本では、航空管制官が管制するほぼすべての空港に設置されている。
交信例
Japan Air 501, Push back approved. Except Runway 34R.日本航空501便、プッシュバック許可します。使用滑走路は34R。Japan Air 501,Push back approved. Heading south.(approvedまで上と同じ)機首は南に向けよ。Japan Air 501, Runway 34R. Taxi to holding point via W-4, A, H.日本航空501便、使用滑走路は34Rです。滑走路停止位置まで誘導路W-4・A・Hを地上走行して下さい。
クリアランス・デリバリー(管制承認伝達席)

航空機の飛行方式には、大別して計器飛行方式 (IFR) と有視界飛行方式 (VFR) の2種類がある。このうちIFRで飛行する航空機が管制空域を飛行する場合は飛行計画の承認を受ける必要があり[10]、クリアランス・デリバリー(または単にデリバリー。CLR)はこの管制承認を航空機に伝達する機関である。

一般航空会社の大型旅客機はほとんどすべてがこのIFRで飛行するので、最初にクリアランス・デリバリーと交信し、目的空港と巡航予定高度を通報して飛行計画の承認を要求する。

飛行経路はあらかじめ提出されている飛行計画(フライト・プラン)にそって管制官によって確認される。管制承認として、目的空港・出発経路(標準計器出発方式(SID)や、それを補足する経路であるトランジション)を含めた飛行経路・離陸後維持する高度・巡航高度・トランスポンダー識別コードが伝達され、パイロットは復唱する。復唱が確認されると、グラウンド(地上管制席)と交信するよう指示される。

クリアランス・デリバリーは、日本では旧第一種空港をはじめとするトラフィックの多い空港に設置されている。地方空港などでは、グラウンドやタワーが役割を代替しているケースが見られる。なお近年では自動音声化されている空港も存在する。
交信例
Japan Air 501, Cleared to New Chitose Airport via Pluto 1 departure flight planned route, maintain Flight level 150, expect flight level 370. Squawk 2146.日本航空501便、新千歳空港への飛行を承認します。経路はプルート1出発方式、その後は飛行計画経路通りに飛行してください。離陸後はフライト・レベル150(≒15,000フィート)を維持、飛行高度についてはフライト・レベル370(37,000フィート)を予期して下さい。トランスポンダーのコードは2146です。Japan Air 501, Read back is correct. Contact ground 121.7 when ready to taxi.日本航空501便、復唱はそのとおりです。地上走行の準備が完了したならばグラウンドと121.7MHzで交信して下さい。
航空管制官配置空港

トラフィックの少ない地方空港などでは航空管制官が配置されておらず、航空管制運航情報官が交通情報・気象情報を提供するレディオ空港 (RDO) や航空管制運航情報官が遠隔地より情報を提供するリモート空港がある。航空管制官が配置されている日本の空港は以下の通り。

空港名とIATA/ICAO空港コード

国土交通省航空局管制官

帯広空港:OBO/RJCB、釧路空港:KUH/RJCK、女満別空港:MMB/RJCM、旭川空港:AKJ/RJEC、函館空港:HKD/RJCH、青森空港:AOJ/RJSA、秋田空港:AXT/RJSK、仙台空港:SDJ/RJSS、成田国際空港:NRT/RJAA、東京国際空港:HND/RJTT、新潟空港:KIJ/RJSN、富山空港:TOY/RJNT、中部国際空港:NGO/RJGG、大阪国際空港:ITM/RJOO、関西国際空港:KIX/RJBB、神戸空港:UKB/RJBE、八尾空港:RJOY、岡山空港:OKJ/RJOB、広島空港:HIJ/RJOA、高松空港:TAK/RJOT、松山空港:MYJ/RJOM、高知空港:KCZ/RJOK、北九州空港:KKJ/RJFR、福岡空港:FUK/RJFF、大分空港:OIT/RJFO、長崎空港:NGS/RJFU、宮崎空港:KMI/RJFM、熊本空港:KMJ/RJFT、鹿児島空港:KOJ/RJFK、那覇空港:OKA/ROAH、宮古空港:MMY/ROMY、新石垣空港:ISG/ROIG、下地島空港:SHI/RORS


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