航空交通管制(こうくうこうつうかんせい、Air traffic control, ATC)とは、航空機の安全かつ円滑な運航を行うために、主に地上から航空交通の指示や情報を航空機に与える業務のことである。航空管制とも。 航空交通管制は、「航空機相互間及び走行地域における航空機と障害物との間の衝突予防並びに航空交通の秩序ある流れを維持促進するための業務」をいい、管制業務を行う資格を有し、かつ当該業務に従事している者を航空管制官(Air traffic controller)という。また、航空管制が実施されている空域を管制空域(英: Controlled airspace)[1]と呼ぶ。航空交通管制に使用される無線電話における電波の変調方式は、全世界で振幅変調が用いられている。 管制業務は航空交通業務のうちの1つとして位置付けられており、航空交通業務は以下の業務の総称をいう。 管制業務を行う機関を管制所といい、管制所で行う管制業務には6つの業務(技能試験を行う対象としての業務は8つ)がある。カッコ内は各管制所の無線呼出符号。各管制所は管制業務の他に上記に掲げた飛行情報業務と警急業務も行う。 飛行場管制所は、一般的に空港内に設置されている管制塔の最上階(VFRルームともいう)において、またターミナル管制所は管制塔内VFRルーム階下にあるIFRルーム(レーダールーム)で業務を行っている。日本では管轄する空域(福岡飛行情報区)を大きく5つに分割し、札幌、東京、福岡、神戸の各航空交通管制部と航空交通管理センターで航空路管制業務を行っている。レーダー管制業務を開始するためには航空機をレーダー識別しなければならず、レーダー識別されるまでの間についてはレーダーを用いない航空路管制業務が実施される。従って、レーダーを用いる航空路管制業務の技能試験を受験する際には、予めレーダーを用いない航空路管制業務の技能証明を取得する必要がある[2]。 東京国際空港(羽田空港)から大阪国際空港(伊丹空港)までのIFR(計器飛行方式)による飛行を例にとると、出発から到着までの管制業務の流れは概ね次のようになる: 国際民間航空機関(ICAO)の規定に基づき、英語(航空英語)もしくは母語で交信する。実際は国籍にかかわらず英語を使用することがほとんどだが、緊急事態の場合はパイロットの負担を考慮して母語に切り替えることがある。実際、日本航空123便墜落事故ではパイロットの負担を考慮し航空管制官が母国語である日本語の使用を許可し、その後は殆ど日本語での交信となった。 無線の故障や非搭載[注釈 1]により交信が出来ない航空機(NORDO 管制機能が喪失した場合、機長が自ら判断して離着陸を行う[5][6]。 無管制空港でも同様に決められた手順に従って離着陸を行う。一部ではパイロット・コントロールド・ライティングを併用する。 航空機が航空局などと航空管制以外の連絡をする場合、管制塔を経由せず直接交信するシステム(カンパニーラジオ、航空エアバンド)を使用する[7]。空港付近と航空路では周波数が異なり、便数の多い大手航空会社には複数の周波数が割り当てられている。航空交通管制と異なり設置は使用者の自費となるため、自社で無線局を開設する[8]か民間企業のサービスを利用する[7]。 旅客機では乗客の体調不良など、着陸後に対処を必要とする事態の連絡に使用されている[9]。 航空管制とは独立しているため、航空英語ではなく所属先の公用語か母語での会話となる。 即座に空港もしくは飛行場の環境をコントロールする第一の方法は管制塔(コントロール・タワー、TWR)からの目視による監視である。管制塔にいる管制官は、飛行場周辺(航空交通管制圏
概要
管制業務(Air traffic control service)
航空機と航空機、または航空機と障害物の衝突の予防や、航空交通の秩序ある流れの維持促進のための業務
飛行情報業務(Flight information service)
航空機の安全かつ円滑な運航に必要な情報を提供する業務
警急業務(Alerting service)
捜索救難を必要とする航空機に関する情報を関係機関に通報し、また当該機関を援助する業務
航空交通管理センター(呼出符号はない)の業務
航空交通管理管制業務
空域の適切な利用及び安全かつ円滑な航空交通の確保のための業務
管制区管制所(CONTROL)の業務
航空路管制業務
レーダーを用いない航空路管制業務
レーダーを用いる航空路管制業務
進入管制業務(航空交通管制部において行うものに限る)
ターミナル管制所(APPROACH/DEPARTURE/RADAR)の業務
進入管制業務(航空交通管制部において行うものを除く)
ターミナル・レーダー管制業務
ターミナルコントロールエリア(TCA)が指定されているところではTCAアドバイザリー業務(呼出符号はTCA)
飛行場管制所(TOWER/GROUND/DELIVERY)の業務
飛行場管制業務
着陸誘導管制所(GCA)の業務
着陸誘導管制業務
管制業務の例
航空機はあらかじめ管制機関に、呼出符号・航空機の型式・予定経路・予定高度などを記載した飛行計画を提出する。
原則として移動開始の5分前に航空機が東京飛行場管制所管制承認伝達席(TOKYO DELIVERY)と通信設定を行い、管制承認を要求する。
TOKYO DELIVERYの管制官は副管制席の管制官に航空機から管制承認の要求があった旨を告げる。
副管制席の管制官は当該飛行を管轄する東京管制区管制所(TOKYO CONTROL)の地区(セクター)席の管制官に管制承認の要求をする。
地区(セクター)席の管制官は自管轄空域の交通流を検討しながら東京飛行場管制所からの要求に対して管制承認を発出する。
TOKYO DELIVERYは東京管制区管制所から受領した管制承認を航空機に伝達し、飛行場管制所地上管制席(TOKYO GROUND)に業務を移管する。
TOKYO GROUNDは地上の交通流を考慮して、滑走路手前までの走行経路を指示する。
航空機は飛行場管制席(TOKYO TOWER)と通信設定を行う。飛行場管制席の管制官は滑走路の交通を考慮して離陸許可を発出する。
離陸後、航空機は東京ターミナル管制所出域管制席(TOKYO DEPARTURE)と通信設定を行う。TOKYO DEPARTUREはレーダー画面上で航空機のターゲットを識別する。識別後、当該機に対するレーダー管制業務が開始される。
TOKYO DEPARTUREから東京管制区管制所(TOKYO CONTROL)に業務が移管され、航空機はTOKYO CONTROLと通信設定を行う。
TOKYO CONTROL内ではいくつかの管轄空域(セクター)を飛行し、航空路管制業務が行われ、必要に応じてレーダー誘導並びに高度変更等や降下の指示が発出される。
TOKYO CONTROLから関西ターミナル管制所入域管制席(KANSAI APPROACH)に業務が移管され、航空機はKANSAI APPROACHと通信設定を行う。
KANSAI APPROACHは他の大阪国際空港到着便を考慮しつつ到着順位の決定を行い、必要なレーダー誘導や降下の指示や速度の調整を行い、大阪国際空港への進入許可を発出し、大阪飛行場管制所(OSAKA TOWER)に業務を移管する。航空機はOSAKA TOWERと通信設定を行う。
OSAKA TOWERの管制官は滑走路上に航空機がいないことを確認した(滑走路上の管制間隔を設定)後に着陸許可を発出する。着陸後、大阪飛行場管制所地上管制席(OSAKA GROUND)と通信設定を行う。
OSAKA GROUNDは駐機場(スポット)までの走行経路を指示する。エプロンに入るまでが管制業務の対象であり、エプロン以降は各運航者の所掌となる。
公用語
無線故障時地上の車両に対し指向指示灯を向けるアメリカ海兵隊の管制官
機能喪失時
カンパニーラジオ
飛行場管制詳細は「飛行場管制」を参照
ローカル・コントロール(飛行場管制席)
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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