自然災害
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スマトラ島沖地震(2004年)の津波で破壊されたスマトラ島西部の街

自然災害(しぜんさいがい、: natural disaster)とは、危機的な自然現象(natural hazard, 例えば火山噴火地震地すべりなど)によって、人の命や人間の社会的活動に被害が生じる現象を言う。

日本の法令上では自然災害は「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害」と定義されている(被災者生活再建支援法2条1号)。

単なる自然現象が、人的被害を伴う自然災害に発展したり、災害が拡大したりするには、現地の社会条件が大きな影響を及ぼす[1]
ディザスターとハザードハリケーン・カトリーナの衛星写真。

自然災害がなぜ起こるかについては、次の公式に帰結している。Disasters occur when hazards meet vulnerability.[2]「災害は、危機が脆弱性と出会うことで起こる」

社会の持つ脆弱性(災害に対する弱さ)は、防災計画が無かったり、適切な危機管理がなされなかったりすることでさらに大きくなり、人的被害、経済的被害、環境に対する被害を大きくする。最終的な被害の大きさは、被害者を支援し災害拡大を抑えるための人員の数や、災害からの回復力の大きさに依存する[3]

「disaster」(「災害」)と 「hazard」(「危機」、「現象」)は意味が異なる。ユネスコの地球科学プログラム ⇒[1] では、「ナチュラル・ハザード」(Natural Hazard、自然現象)と「ナチュラル・ディザスター」(Natural Disaster, 自然災害)を次のように定義している[4]。「ナチュラル・ハザード」とは、大気・地質学水文学的原因で、太陽系規模・地球規模・地域規模・国家規模あるいは地方規模の範囲を、急速または緩慢に襲う事象により引き起こされる、自然に発生する物理的現象である。地震、火山噴火、地すべり、津波、洪水、干ばつが含まれる。「ナチュラル・ディザスター」(自然災害)とは、ナチュラル・ハザードの結果または影響である。社会の持続可能性の崩壊と、経済的・社会的発展の混乱を意味する。

もし天変地異などの「自然現象」(ナチュラル・ハザード)が起こったとしても、その場所に脆弱性が無ければ(例えば異変の起こった一帯にだれも住んでいない場合)、「自然災害」(ナチュラル・ディザスター)が起こることはない。その環境に人間活動も社会も無ければ、自然現象は単なる現象であり、誰も被害を受ける可能性はないため「危機」にも「災害」にもならない。このため、「自然災害」の「自然」(natural)という部分に対する異議も一部にある[5]

自然災害は、人為的な原因による災害(「人災」)に対して、天災とも呼ばれる。しかし実際に「天災」と呼ばれているものは、社会の脆弱性など人為的な原因により人的被害が拡大されている側面が大きいため、「天災」という呼び方は適切なものではない。地震は自然現象だが、脆い建物が崩れたり救援の手が届かなかったりすることによって地震災害は拡大する。自然現象である大雨は、森林の乱伐などによって土砂災害の危険性を拡大させたり、低地への居住などによって浸水による被害を拡大させたりする。大雨とは逆の自然現象である干ばつは、社会の不平等や政府の失策により、都市や軍隊には食物が確保される一方で農村の貧しい人々に食物が行き届かなくなることで、飢饉という災害へと拡大する。干ばつのため食糧不足にさらされる人達に食物や雇用を供給する政策が、民主主義のインセンティブによって実行に移されきちんと機能する場合、飢饉という災害は発生しないが、貧しい人々の声を聴く必要の無い権威主義的体制や無政府状態では、干ばつは容易に飢饉へと拡大する[6]
自然現象

「ナチュラル・ハザード」(自然現象による危機)は、人間社会や環境に対して否定的な影響を持つ現象が起こる脅威を指す。ナチュラル・ハザードの多くは連続的に起こる。例えば、地震は津波を起こし、干ばつは飢餓や疾病を起こす。

1995年1月17日に起こった「兵庫県南部地震」は「ナチュラル・ハザード」(自然現象)であるが、その結果引き起こされ、数年にわたり大規模な人的被害や経済的被害などが続いた「阪神・淡路大震災」は「ナチュラル・ディザスター」(自然災害)である。

また「ナチュラル・ハザード」という言葉は将来起きる可能性のある脅威(例えば発生が予想される地震や、大雨が降った場合の洪水)を指す場合に使われるが、「ナチュラル・ディザスター」(自然災害)は過去に起こった、あるいは現時点で起こっている社会的出来事に関連付けて使われる。
自然災害の例
地質
火山ハワイで家を襲う溶岩流。

火山噴火は、それに付随してさまざまな自然災害を引き起こす。噴火そのものによる空振のほか、火山灰火山弾軽石スコリアなどの火山砕屑物は周辺に降り積もって農作物や建物に被害を与え、大気を汚染する。また大気中の火山灰は飛行機の運行を困難にするなど交通や経済に重大な損害をもたらす。2010年アイスランドエイヤフィヤトラヨークトルで起こった噴火の場合、ヨーロッパ大陸の広い範囲において飛行が禁止され、数十万人の足に影響が出た(2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火による交通麻痺[7]。非常に大規模な、いわゆる破局噴火の場合、火山灰が大気圏に広がって太陽光を遮り、日傘効果による火山の冬と呼ばれる低温期を数年にわたってもたらすこともある。例としては、今から7万年前から7万5千年前に起きたと考えられているインドネシア・トバ火山の噴火は気温を平均5度も下げ、人類を一時絶滅寸前にまで追い込んだとする理論も存在する[8]

溶岩流は流速が遅く人が直接飲み込まれることはそれほど多くないが、周囲の土地を飲み込んだ場合そのまま固化して岩石となるため、農地や住宅地が呑み込まれた場合使用不能となる[9]。火山ガスは高温の上二酸化炭素二酸化硫黄硫化水素などの有毒な気体が多く含まれ、また酸素が少ないため、有毒成分の吸入や酸欠によって人間が死亡することも珍しくない。火砕流は高温の上非常に速度が速く、発生した場合多数の人々が死亡することが多い。積もった灰が雨などと一緒に一気に流れる火山泥流も同様に直接的な被害が大きく、火砕流と並んで非常に危険である[10]

こうした直接の噴出物のほか、噴火によって山体崩壊が起こった場合、多数の人命が失われることが多い。さらに山体崩壊が海の近くで起こった場合には大量の土砂がそのまま津波を起こし、対岸にも巨大な被害を与える。この山体崩壊による津波としては、1792年雲仙岳の噴火によって眉山が山体崩壊を起こし、対岸の肥後を大津波が襲った島原大変肥後迷惑などが知られている[11]
地震

地震による災害は震災と呼ばれる。まず地震そのものの揺れによって巨大な被害をもたらすほか、地形そのものが隆起沈降したり、地割れを起こしたり、あるいは地盤沈下液状化現象などを起こして建造物などを破損する[12]。地震発生時にはこの衝撃に伴う火災もしばしば発生する。しかしなによりも、地震に付随する災害として最も大きなものは津波である。地震に伴う津波は大被害をもたらすことが多く、2011年に起きた東日本大震災においては死亡者の約9割以上が津波による死者であったとされる[13]。津波は建造物や人命の直接被害の他、津波の去った土地に塩害をもたらす[14]
土砂災害

土砂災害の多くは地震や大雨などによって引き起こされ、地すべりがけ崩れなどの斜面崩壊土石流などが含まれる[15]。斜面崩壊は崩壊部分の深さによって深層崩壊表層崩壊にさらに分けられる。大規模な土砂災害の場合、山そのものが山体崩壊を起こすことや、大量の土砂によって河道が閉塞し天然ダムを形成することもある[16]


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