自撮り棒(じどりぼう)とは、カメラやカメラを内蔵したスマートフォンに取り付けて、自分撮り(自撮り)を行うための長さ数10cmから1 mほどの棒状の器具である[1]。 市販品としての自撮り棒は、1980年代初頭に日本で開発され世界で発売されたがあまり普及せず、1990年代半ばには日本の珍発明の1つとして揶揄された。しかしその後、スマートフォンおよび動画投稿サイトの普及によって知られるようになり、2014年のヒット商品の1つとしてTIME誌が紹介するなど、発明から約30年をかけて世界的に広まった。 ミノルタカメラ(現・コニカミノルタ)が、世界で初めて1983年に発売した時の商品名は「エクステンダー」であった[2]。現在は「自撮り棒」「自分撮りスティック」「自撮り一脚」「手持ち一脚」のほか、英語で自分撮りをセルフィーと言うことから「セルフィースティック」(英: selfie stick)や「セルフィー棒」、韓製英語(コングリッシュ)で自分撮りをセルフカメラ(朝: ?????)と言うことからその略の「セルカ」を用いて「セルカ棒(セルカボン)(朝: ???)」とも呼ばれる。 自撮り棒の歴史は少なくとも1925年まで遡るかも知れない。この年、イギリス中部に住む新婚カップルが自家製の自撮り棒を使って撮影した可能性のある写真が残されている。この頃のカメラは手持ちの距離では自分自身に焦点が合わず、自撮りするにはレリーズなどを使うしかなかったが、件のカップル写真には偶然にも自撮り棒らしきものが写り込んでいたため、世界最古の自撮り棒か?と2014年にBBCニュースによって報じられた。ただしその写真のみでは自撮り棒を使用したのか、単に棒を使ってカメラのシャッター等を操作したのかのを知るのは難しく、写真史に詳しい専門家の意見として、これが確実に自撮り棒であると証明することは困難であるという談話も同ニュース内で紹介されている[3]。 また、フィクションの世界では1969年製作・1970年公開のチェコスロバキアのSFコメディ映画『Zabil jsem Einsteina, panove! 画像外部リンク
概要
歴史
ミノルタDisc-7および自撮り棒のキット(1983年7月発売)
⇒本体とキット
自撮り棒を装着した状態
延ばした状態の自撮り棒
1977年11月30日に小西六写真工業(現コニカミノルタ)が世界初のオートフォーカスカメラコニカC35AF(ジャスピンコニカ)を発売すると、1980年代には全自動撮影可能で重量300 g程度のコンパクトカメラが先進国で普及した。また1982年にコダックが発表したディスク状のフィルムを用いたディスクカメラは、軽量化の1つの方法として数社で取り入れられた。1980年代になるとカメラの軽量化や全自動撮影の技術革新が進み、1983年7月に市販の製品としては世界初となる自撮り棒がミノルタカメラ(現・コニカミノルタ)から「エクステンダー」の名で発売された[5][6]。
これはディスクカメラ「ミノルタ・ディスク7」(重量200 g)のキットとして出されたもので、リモートレリーズ付きの自撮り棒で、カメラ本体中央には自撮りする撮影者を映すための小型の凸面鏡が備えられており、オプションのリモコンによる遠隔撮影も可能な商品であった。同機種の販売台数は少なくなかったとも言われるが[注釈 1][7]、ディスクカメラという分野は販売不振に陥り[注釈 2][7]、また、当時のコンパクトカメラに自撮り棒を取り付けると重心がカメラ側に寄り過ぎて不安定になったり、自分を映す反射鏡がない機種に取り付けた場合には単なる一脚にしかならなかったりなどの問題もあり、広く大衆に普及するには至らなかった。このときの自撮り棒は、1993年にはアメリカ合衆国での特許も失効し[8]、1995年には「役立たず」でもない日本の珍発明の1つとして同国で紹介された[6]。
日本では、1990年代に高校生を中心に自分撮りが広まった。この時期、超広角レンズと反射鏡を持つレンズ付きフィルムも発売されたが、1995年7月にはプリント倶楽部(プリクラ)が、1999年9月には世界初のカメラ付き携帯電話「VP-210」(PHS端末)が発売され、2000年代はプリクラと携帯電話が自分撮りの中心となった。一方で、当時の携帯電話のカメラの画質は低く設定されており、被写体を遠ざけて撮影すると不鮮明となった。そのため自撮り棒を使った撮影は普及しなかった。それでも、専用機であるデジタルカメラにおいて、画質向上、自動撮影技術(手ぶれ補正機構)の向上、軽量化、低廉化が進んだため、2004年から2013年まで自撮り棒に関する特許出願件数は、日本では15件、アメリカ合衆国では13件あった[5]。スマートフォンOS別販売台数推移
2010年代に入って高画質・高機能・軽量のカメラ付きスマートフォン(重量100 g前後)が普及し始めると、同分野のグローバル市場で大きなシェアをとったサムスン電子が本社を置く大韓民国においても、2011年より自撮り棒(セルカ棒)の関連特許の出願が始まった[5]。
2012年、「自分撮り (Selfie)」にあたる日本語のインターネット検索数はアメリカ合衆国の50倍にも上った[9]。台湾語・中国語・韓国語における「自分撮り (Selfie)」にあたる用語も同様に高まりを見せた[9]。2013年11月18日、オックスフォード辞典がWord of the year(今年の単語)として selfie(セルフィー、自分撮り)を選んだ[10]。
2013年末、インドネシアのジャカルタで近年の自撮り棒の流行が始まった[11]。このブームは、マレーシア・フィリピン・日本・韓国などのアジア各国や欧米にまで広がっていった[11]。2014年11月、タイム誌(アメリカ合衆国)が The 25 Best Inventions of 2014[注釈 3]のひとつに自撮り棒を選定した。
年表
1983年(昭和58年)
1月18日 - ミノルタカメラが実用新案として出願[12][13]。