自動列車運転装置
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首都圏新都市鉄道TX-2000系のATO/ATC装置

自動列車運転装置(じどうれっしゃうんてんそうち、ATO : Automatic Train Operation)とは、列車の運転を自動化する運転保安システムである。主に、人に対する安全性が確保しやすい地下鉄新交通システムに使われている。
概要ATOの地上子(中央の大きな地上子は定位置停止地上子、前後の地上子は位置補正用地上子)横浜市営地下鉄ブルーラインATOの車上子(首都圏新都市鉄道TX-1000系)鉄輪式リニアモーターカー方式でリアクションプレートの横にATOの地上子を設置した方式(横浜市営地下鉄グリーンライン

システムは大きく分けて、車両に搭載した車上装置で演算制御を行う車上パターン方式ならびに地上パターン方式と、地上装置で車両の演算制御を全て行う全地上方式がある[1][2](厳密にはこのほか、車上パターン方式と全地上方式の中間となる半地上方式がある[1])。

日本国内で初めて使用された名古屋市交通局名古屋市営地下鉄)の自動列車運転装置(ATO)は、車上装置による地上パターン方式(地上プログラム方式)が使用された[3][4]

乗務員(路線により呼び方は異なる)が乗務するタイプと、無人運転のタイプに大きく分けられる。出発条件の成立後、自動的に目標速度まで加速した後に定速運転または惰行を行い、停車駅に接近すれば自動的に停止位置に停止させるという基本機能は変わらない。また、ATOはATCに自動運転装置としての機能が付加されたものでなければならないので、目標速度の設定及び保安確保のため[注 1]閉塞にATCを使用するケースがほとんどである。

乗務員が乗務するタイプには、ATOをあくまでも運転支援装置と捉え、ATO運転中であっても運転士の運転操作が優先するよう設計されたものと、ATO運転モードでは緊急停止以外の運転操作ができない、無人運転に近い設計のものが存在する。いずれの場合も、一般に戸閉後にメインハンドル付近に設置された出発ボタンを押すことで、次駅までの自動運転が開始される。出発ボタンは、多くが誤操作防止のため、2つを同時に押すことにより作動するようになっている。

また、無人運転に近い設計の車両には、出発ボタンは存在せず、代わりに「扉閉抑止」ボタンがついているものもある。この様な列車の場合、駅に到着後は扉が自動で開くものの、このボタンを押さないままにしておくと、出発時刻になると自動で扉が閉まり、ひとりでに発車してしまう。しかし、このボタンを押しておくと、駅に到着して自動で扉が開いた後は、このボタンを再度押して解除しないと、出発時刻になっても扉は閉まらず、発車しなくなる。再度押して解除することで、扉が閉まり、扉が正常に閉まった場合(ホームドアが設置されている路線ではホームドアも)には、自動で発車することになる。またこの様な列車の場合、扉閉抑止を解除して一旦ドアが閉まった後に、再度ドアを開けることは出来ないため、戸ばさみからの復帰や駆け込み乗車をした乗客を乗せる場合、あるいは降り損ねそうになった乗客からの再開閉の依頼などで、発車せずにドアを再開閉する必要がある場合には、一旦ATOを解除した後マスコンキーを回して手動運転に切り替えた後、手動にてドアを再開閉してから、再度自動運転に戻す必要がある。この方式は、福岡市地下鉄七隈線などで採用されている。

自動列車運転装置(ATO)は駅停車制御機能のみを使用することで、定位置停止装置(TASC)として使用することもできる。東京メトロ南北線及び都営地下鉄三田線各車両のATOは東急目黒線内ではTASCモードに切り換わり、駅発車時の力行操作と駅間の速度制御は運転士が行い、駅停車時の停止操作はATO装置の駅停車制御機能(TASC機能)を使用している。
詳細な解説

自動列車運転装置は、地上側で地点情報を発信する地上子、地上子から地点情報を受信する車上子、車両側で力行・惰行・ブレーキの制御を行う車上装置という3種の装置から構成されている。地上子は、有電源のトランスポンダである定位置停止地上子(P4地上子)と、3つの無電源地上子(P1-P3地上子)の2種類に分けられる。定位置停止地上子は各駅の停車位置に設置されており、列車が定位置に停止したかどうか確認するため、また停止した後諸機器を動作させるために必要となる。P4地上子が車上側のATO車上子の位置を一定の範囲内[注 2]で検知すると、車上子との間でホームドアの開閉指令やホームドアの開閉状態の情報、運行管理情報がやり取りされる。その手前に設置されているのが無電源地上子で、駅で決められた位置に停車するために必要となるものである。列車が無電源地上子を通過すると、地上子に組み込まれた固定位置情報が車両側のATO車上子を介して車上装置に送信される。この情報をもとに、列車は停止位置までの距離を把握することになる。P1地上子は、列車側にブレーキ制御用パターンを生成させる地点に設置される。P2・P3地上子は、P4地上子とP1地上子との間[注 3]に設置され、後述する車上装置に停車位置までの距離を伝達する。車両側に設置された車上装置は、列車が停止位置に止まるために必要なブレーキ出力を決定して指令する役割を担っている。車上装置には各駅間の距離情報と運転パターンが予め記録されており、地上側での位置補正用地上子から受信された地点情報と列車からの速度情報とを照合して適切なブレーキ出力を演算することにより、運転士の操作を必要としない定位置への停車を可能にしている。

列車が停車駅に接近すると、車上子がP1地上子から停止位置までの距離情報を受信する。それをもとに、車上装置が停止目標位置までの停止制御用パターンを生成する。列車側がP2・P3地上子から残りの距離情報を受信すると、列車が記録している残りの距離情報の食い違いの補正を行い、列車速度と正確な残距離に合わせてフィードバックによるブレーキ制御を行い、停車目標位置までに列車を自動的に減速させる。列車が停車目標位置にあるP4地上子の位置に停車した後は、列車の停止位置がショート(定位置手前)かジャスト(定位置停止)かオーバー(定位置超過)かを判断する停止位置測定を行い、許容範囲以上に位置がずれた場合には、インチングにより列車位置の修正を行う。目標位置に停車したことが確認されると、車両側で転動防止ブレーキを掛ける。また、車上側から地上側に列車の運行番号・行き先などの情報が送信され、地上側の運行管理システムが送信されたこれらの情報を基に列車の運行管理を行う。その後、車上側からの指令で地上側のホームドアが開けられると、車上側に車両ドア開情報が送信されて、車両側のドアが開けられる。停車中においては、運行管理システムが停車時間の管理を行い、出発時には、運行管理システムからの出発指示情報・ホームドア閉・車両側のドア閉などの条件が揃えば、列車は駅から出発できるようになっている。また、ホームドアまたは車両のドアの開閉は、車両側の運転席にあるドア開閉ボタンを操作することにより行う[5]

地上子は鉄輪式リニアモーターカー方式の地下鉄(例 : 都営地下鉄大江戸線)では軌条間にリアクションプレートがあり、通常形地上子の設置ができないことからループコイル方式を採用している。これは2本の軌条の外側に「8の字形」のループコイルを設置し、撚架点(ねんかてん)を設けることで地上子としての機能を持たせている[6]が、最近ではリアクションプレートの横に地上子を設置する方式もある。

また、地上子を設置した方式の場合には導入の手間が大きくなることから、東京メトロ千代田線北綾瀬支線(旧式の5000系6000系ハイフン車)では地上子を使用しない方式を採用している。これは2駅間の折返し運転という性格上、両駅に設置しているATC装置の過走防護信号 (ORP・Over Run Protector) を基にして、地上子の代わりに残存距離の補正を行っている[7]。ただし、2014年度より同線に導入された05系改修車では地上子・車上子方式となっている。
ATO装置のシステム構成

一例として東京メトロ南北線のATO装置のシステム構成について示す。同線用のATO装置は以下の装置と連動して車両を制御する。

運転台

ATO表示灯

ATO出発ボタン(2個一組で配置され、2個同時に押さないと発車出来ない)

マスコンハンドル

運転切換スイッチ(手動運転 - ATO運転)

ATO運転モード切換スイッチ(平常運転 - 回復運転 - 遅速運転)


ATC装置(ATC信号判別器・ATC論理照査器)

ATC信号コードとATCブレーキ情報をATO装置に送信


速度発電機からの速度情報

ATO送受信器(トランスポンダ)からの地点情報(車上子 - 地上子)


ATO運転に対応した東京地下鉄10000系の運転台

マスコンハンドルの右下にある2個一組のATO出発ボタン

東京メトロ南北線9000系のATO運転モード切換スイッチ(右端のハンドル)

ATOには列車速度の調整用に運転モードがある。東京メトロ南北線では「平常」・「回復」・「遅速」の3つのモードがあり、平常運転モードではATC制限速度の5km/h下の速度で走行、回復運転モード(列車遅れを回復させる場合)には平常運転より+2km/hで走行(ATC制限速度の3km/h下)、遅速(列車を遅らせる場合)には平常運転より-10km/hで走行(ATC制限速度の15km/h下)させることができる。
実際のATO運転の車両制御

以下はOsaka Metro千日前線での例である。
出発制御


安全のため、以下の条件が成立した場合のみ、列車を出発させることができる。

「戸閉」「戸閉保安」「母線引通」「非常ユルメ」「断流器入」点灯。「非常ユルメ」は停止後も点灯。「可動柵開」は駅停止後、ホーム柵と車両の扉が開いてから点灯。出発時は消灯。「定点停止」は停止後点灯、出発時消灯。「ATO」は常時点灯。ATOは千日前線では回送、手動のハンドル訓練時は消灯し、手動が点灯する。

ATC常用ブレーキが緩解状態

ブレーキ圧力0:車両速度0km/h


運転取扱の流れ


始発駅では、運転士は乗務員室の扉の鍵を開け、マスコンハンドルを非常ブレーキ位置にした状態で運転キーを差し込む。続いてレバーサ(逆転器)を"前"位置にし、非常ブレーキ位置からブレーキ動作確認してNブレーキ位置へ戻した後、直予備ブレーキを一旦引いて、押してからブレーキ圧力を確認する。


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