移植(いしょく)とは、提供者(ドナー)から受給者(レシピエント)に組織や臓器を移し植える医療行為のこと。移植で用いられる組織や臓器を「移植片」という。以下に示すように様々な移植の形態が存在するが、一般には臓器を移植する場合が話題となるため臓器移植(ぞうきいしょく)として知られている。 ヒトの臓器移植は病気や事故により臓器が機能しなくなった人に対して他の人の健康な臓器を移植して機能の回復を図る医療をいう[1]。 臓器移植は難病治療などとともに生命科学の発展によって人類が恩恵を受けてきた分野である[2]。一部の疾病に対して現時点での医学レベルでは臓器移植が唯一の治療法である場合がある[3]。脳死後の臓器移植が可能となり、免疫抑制剤も進歩したことで臓器移植の成績も向上している[4]。ただし、免疫抑制剤は一生投与しなければならないうえ、免疫が低下しているため、生の肉や魚など細菌や真菌、ウイルスを含む可能性がある食物が摂取できなくなるというデメリットがある[5]。 一方で臓器移植については臓器提供者の脳死判定のあり方などに議論がある。死生観は国民性のほか宗教や時代によって大きく異なり臓器移植等の捉え方にも難しい問題が存在する[6]。思想的・宗教的立場から臓器の移植を否定する主張[7]もある。なおカトリック教会では臓器移植は道徳的に認められ、死後の臓器提供を崇高なものとしている[8]。 移植可能な臓器は次のように様々であるが、ドナーの心停止後(心停止移植)は臓器の機能が急速に衰えることから移植の対象は膵臓・腎臓・眼球といった一部の臓器に限られる[4]。
概説
分類
ドナーとレシピエントの関係による分類
自家移植 (autograft):自己の組織を自己の他の場所に移し変えること。
他家移植:自己以外の組織を移し変えること。
同種移植 (allograft):レシピエントと同一種の組織を用いる。
同系移植 (isograft):免疫的に同一である個体 (一卵性双生児や近交系動物) の組織を用いる。
異種移植 (xenograft):レシピエントと異なる種の組織を用いる。
人工移植:形成術ともいい、人工材料を用いて臓器修復することをいう。主に人工血管や皮膚、心臓弁置換術において行われる。
ドナーの状態による分類
生体移植:生きているドナーから提供されること。
死体移植:死亡したドナーから提供されること
脳死移植:ドナーが脳死と判断された後に臓器等を取り出すこと。
心臓死移植(心停止移植):ドナーの心停止後に臓器等を取り出すこと。
対象
輸血
心臓移植
肺移植
腎移植
肝移植
膵移植
小腸移植
造血幹細胞移植
骨髄移植
角膜移植
皮膚移植
治療法としては一般的ではないが、研究的に以下のような移植手術も実施された事例がある。 ヒトの移植医療は1950年代から1960年代にかけて始まった。1956年、日本の新潟大学で急性腎不全の患者に対して一時的に腎臓を移植する手術が行われた[1]。 1963年には米国で世界初の肝臓移植及び肺移植が行われた[1]。また、1967年には南アフリカ共和国で世界初の心臓移植が行われた[1]。 先進国を中心とした富裕者が発展途上国の貧困層から臓器を買う臓器取引(臓器売買)[13]、および、移植のための渡航の一種である移植ツーリズム[14]は、公平、正義、人間の尊厳の尊重といった原則を踏みにじるものであるとして世界的に問題視されており、国際移植学会[15]やWHOで規制の方針が打ち出されている。 先進国などでは、臓器移植はドナーの順番待ち制度に基づいて行われる。国外から来た順番待ちリストの上位に載せられた患者を受け入れた分だけ、その患者よりも下位に載せられた自国の患者が、臓器移植を受けられずに亡くなる事も有り得る。そのため、臓器売買とは異なるものだとしても、同様に外国から渡航移植を拒否や制限されたりするのは当然であるという主張がある[16]。 2008年5月の国際移植学会において、必要な臓器は各国内で確保する努力を求める指針である「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言[15]」が採択され、海外渡航移植の原則禁止が提言された。これを受けて2010年5月の世界保健機関(WHO)総会で、臓器移植手術を受けるための海外渡航が原則禁止となる、臓器移植に関する新指針が採択された[17]。 一方、渡航移植が移植ツーリズムと見なされないように移植の透明性を確保する仕組みを整え、自国でのケアが受けられない人々に対する公共の観点から渡航移植を受けれている国もある[18]。 この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。 日本では1956年に、新潟大学で急性腎不全の患者に対して、一時的に腎臓移植が行われた[1]。 本格的な臓器移植は、1964年に東京大学で慢性腎不全の患者に対して、生体腎移植が行われたのが最初である[1]。また同年には千葉大学で肝臓の移植が初めて行われた[1]。 1968年には、札幌医科大学の和田寿郎教授によって、世界で30例目の心臓移植が行われ、移植患者は83日間生存した[19]。いわゆる和田心臓移植事件である。移植患者の生存中は賞賛されたが、死後に提供者の救命治療が十分に行われたかどうか、脳死判定が適切に行われたかどうか、レシピエントは本当に移植が必要だったかどうかなど、厳密な脳死判定基準のなかった当時の脳死移植は多くの議論を呼んだ。
頭部移植(2016年時点で、ネズミとサルで頭部移植手術が成功している。2019年には、筋萎縮症という難病に苦しんでいるロシア人男性のワレリー・スピリドノフ氏に世界初の人間の頭部移植手術が行われる予定だったがワレリー・スピリドノフ氏が申し入れを撤回したことで計画は中止された。)
四肢移植(1998年にフランスで初めて腕の移植が行われ、世界で10数例の報告がある。)
陰茎移植(中華人民共和国で1例が学会報告され、[9]2例目は南アフリカ3例目、4例目がアメリカで行われ、その中の一例は陰嚢や下腹壁を含む精巣以外の完全移植に成功した。[10])
顔面移植(フランスで初の移植が行われ[11]、他にも数例の報告がある。救命目的の顔面移植はポーランドが初。[12])
子宮移植(数例の報告がある。)
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