臍帯血
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母体のなかの子宮と胎児。図中で胎盤と胎児をつないでいるものが臍帯である。臍帯の中で絡み合う赤が臍帯動脈、青が臍帯静脈。臍帯動脈血と臍帯静脈血が臍帯血である。臍帯血の採取は出産後、赤ちゃんと臍帯が切り離されてから行う胎盤の拡大図。胎盤で母体側と胎児側との栄養や酸素、老廃物の交換が行われるが、母の血液と胎児血が直接交じり合うことは無い。出生直後の新生児。まだ臍帯がつながっている。半透明のひも状のものが臍帯で、なかで黒く見えているのが臍帯血である。臍帯はクリップされた位置から母体側で切られる。臍帯血の採取では臍帯は2ヶ所でクリップされ2つのクリップの中間で切り離し、表面を消毒後、臍帯に注射針を刺して採取される。クリップで止めて針を刺して採取するのは細菌などの混入を防ぐためである。

臍帯血(さいたいけつ、英名:Umbilical cord blood)とは、胎児と母体を繋ぐ胎児側の組織であるへその緒(臍帯:さいたい)の中に含まれる胎児血。「臍(さい・へそのお)」は常用漢字ではないため、さい帯血とも表記される。1993年以降は白血病などの血液疾患患者への移植医療に広く用いられるようになっている。
概要

胎児は胎盤を通して母側から酸素や栄養分を受け取り、老廃物を母体側に渡すが、胎児と胎盤をつないでいるのが臍帯である。出生時の臍帯は太さが2cm,長さが50-60cmほどで、臍帯には2本の臍帯動脈と1本の臍帯静脈が流れているが、その血管内の血液が臍帯血で[1]40ml-100ml程度の量がある[2]。移植に使われる臍帯血は出産後に胎盤や臍帯内に取り残された胎児血を採取保存したものである[3][4]。以前には出産後に臍帯や胎盤とともに破棄されるものだったが、1980年代前半に臍帯血には造血幹細胞が含まれることがわかり、1988年、臍帯血を使った最初の移植医療(Gluckman博士らによるFnconi貧血児への移植)が行われ、その後各地で臍帯血バンクが設立され1993年以降バンクを通して白血病などの疾患への移植医療が各国で行われている[5][6]

出産後、臍帯は新生児からは切り離され、胎盤もまもなく娩出(後産)される。そのため出産後、新生児から切り離された後の臍帯から血液を採取しても、新生児や母体にはなんら影響はない[7]

臍帯血に含まれる造血幹細胞移植は骨髄移植や末梢血幹細胞移植と並ぶ造血細胞の移植術であるが、臍帯血は骨髄や動員末梢血幹細胞に比べると造血幹細胞の数が少なく、生着率は約 85% とされ[8]HLA 適合度が低いと造血の回復が遅いデメリット(移植初期の失敗が多い)はあるが、適切に保存された臍帯血は短期間で移植が可能で、造血幹細胞が一旦生着し安定した造血が始まると骨髄や動員末梢血幹細胞による造血よりも移植片対宿主病(GVHD)が少ないメリットがある。移植片対宿主病(GVHD)が少ない為にHLAが完全一致でなくても移植が可能でありより少ないドナープールでドナーを見つけられる。造血細胞数が少ないために、臍帯血移植が始まった当初は、移植先は小児が多かったが、近年では大人への移植も多く行われている[5]

2006年には秋篠宮妃紀子悠仁親王を出産した際に、悠仁親王の臍帯血を公的バンクの一つである東京都赤十字血液センターさい帯血バンク(2012年現在の日本赤十字社関東甲信越さい帯血バンクの前身)に提供している[9][10]
性質

出生時に臍帯に取り残された胎児/新生児血である臍帯血は、個体差は大きいものの平均値で成人の末梢血と比べると赤血球がやや大きめで血液の濃さはやや濃い目である。白血球も成人の末梢血中の白血球より多く、成人の末梢血ではほとんど見られない造血細胞も臍帯血では見られる特徴がある。

個体差があるため検査施設の報告により数字に差はあるが、一つの信頼できるデータでは臍帯血の平均値として赤血球数470万/μl、ヘモグロビン(Hb)16.5g/dL、ヘマトクリット(Ht)51%、平均赤血球容積(MCV)108fL、白血球数1.8万/μl、好中球数1.1万/μl、リンパ球数5500/μlであり、体積あたりの赤血球の数は成人とあまり変わらないものの、赤血球一つ一つの大きさが108fLであり、それは成人の90fLより大きい。そのために臍帯血はヘモグロビン(Hb)値やヘマトクリット(Ht)値が成人の末梢血より大きく、つまり臍帯血は成人の末梢血よりやや濃い目の血液といえる。(ただし、それは正常な時期に出産された新生児の数字であり、早産児では赤血球は大きいが、数は少なく貧血の早産児が多い)白血球も成人の基準値上限のおよそ2倍程度の数である。血小板数は個人差が大きいものの成人と同じ範囲内におさまる。従って、新生児は多血気味が多く、取り残されるはずの臍帯血が取り残されずに新生児に流れ込むとさらに多血気味になりうる[11][12]。出生時の臍帯血の赤血球中のヘモグロビンの60-80%は胎児型ヘモグロビンFであり、成人型のヘモグロビンAは少ない[13]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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