腰椎穿刺
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腰椎穿刺
治療法
座位での腰椎穿刺。患者の背中にある赤茶色の渦巻きは、ヨードチンキ消毒薬)である。
シノニム脊椎穿刺
ICD-9-CM ⇒03.31
MeSHD013129
eMedicine80773
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腰椎穿刺(ようついせんし)は脊椎穿刺(英語: Lumbar puncture又はspinal tap [注釈 1])とも呼ばれ、診断・検査のために脳脊髄液(または髄液)を採取するために、脊柱管に針を挿入する医療処置である。腰椎穿刺の主な理由は、脳や脊髄を含む中枢神経系の病気の診断に役立てることである。これらの状態の例には、髄膜炎およびくも膜下出血などがある。条件によっては疾患の治療目的に行われることもある。頭蓋内圧(頭蓋骨内の圧力)が既に上昇している場合は、脳実質が圧力により脊髄に向かって押し出される(脳ヘルニア)リスクがあるため、禁忌である。場合によっては、腰椎穿刺を安全に実施できないことがある(たとえば、重度の出血傾向)。安全な処置と見なされているが、硬膜穿刺後頭痛(Post Dural Puncture Headache: PDPH)(英語版)は、細い非カッティング針[注釈 2]を使用しない場合によく起こる副作用である[1]

この手順は通常、無菌的に局所麻酔下で行われる。専用の注射針脊椎針)を使用してくも膜下腔を穿刺し、髄液を採集する。髄液は、生化学的微生物学的、および細胞学的分析のために検査室に送られる場合がある。穿刺の位置決めに超音波を使用すると、成功率が高まる可能性がある[2]

腰椎穿刺は、1891年にドイツの医師ハインリヒ・クインケ(英語版)によって初めて行われた。
適応

診断[3][4][5]または疾患の治療[4]を適応として、腰椎穿刺を行って良い。
診断

腰椎穿刺の主な診断適応症は、脳脊髄液(髄液)の採取である。髄液を分析すれば、中枢神経系に影響を及ぼす感染症[4][6]、炎症性疾患[4]および腫瘍性疾患[4]を除外できる可能性がある。最も一般的な目的は、髄膜炎が疑われる場合である[7]。これは、生命を脅かすが高度な治療が可能な状態である髄膜炎を除外できる信頼できる手段が他にないためである。腰椎穿刺は、第1期または第2期のトリパノソーマ ブルーセイアフリカ睡眠病の病原体)に感染しているかどうかを検出するためにも行われる。乳幼児は、通常、原因不明の発熱に対するルーチン精査の一環として、腰椎穿刺が必要である。これは、高齢者よりも髄膜炎の発生率が高いためである。また乳児は、成人のように首のこわばりや頭痛などの髄膜刺激(髄膜炎)の古典的な症状を確実に示すとは限らない[7]。あらゆる年齢層において、くも膜下出血水頭症、良性頭蓋内圧亢進症(英語版)、および他の多くの診断が、この検査で支持または除外される可能性がある。また、癌性髄膜炎(英語版)や髄芽腫など、髄液中の悪性細胞の存在を検出するためにも行って良い。たとえば、赤血球(RBC)が10個/mm3未満の髄液は、くも膜下出血の精密検査の状況では「陰性」タップと判定される。「陽性」のタップは、RBC数が100/mm3以上である[8]
治療

腰椎穿刺は、特に脊髄くも膜下麻酔[9]または化学療法のために、薬剤を脳脊髄液に(髄腔内(英語版))注入するためにも行われる。

複数回の腰椎穿刺は、良性頭蓋内圧亢進症(英語版)(IIH) の一時的な治療に役立つ場合がある。この疾患は、頭痛や永久的な視力喪失を引き起こす可能性がある 髄液 の圧力上昇を特徴としている。治療は投薬が中心だが、腰椎穿刺を複数回行うことで症状が改善する場合もある。不快感と処置のリスク、および効果の持続時間が短いため、主要な治療法としては推奨されない[10][11]

さらに、正常圧水頭症尿失禁、歩行能力の悪化、および認知症を特徴とする)の一部の患者は、髄液の除去後に症状がいくらか緩和される[12]
禁忌

腰椎穿刺は、次の状況では実行するべきではない。

特発性(原因不明)の
頭蓋内圧(ICP)上昇

理論的根拠: 頭蓋内圧上昇時の腰椎穿刺は、鉤ヘルニアを引き起こす可能性がある

例外: 頭蓋内圧を下げるための腰椎穿刺の治療的施行。ただし、閉塞機転(例:第3脳室)が除外されている場合に限る。

注意事項

脳CT、特に次の状況で

年齢>65

Glasgow Coma Scale悪化

最近のてんかん発作

神経学的巣症状

異常な呼吸パターン

徐脈と意識低下を伴う高血圧


眼底検査時の視神経乳頭浮腫(英語版)



出血素因(相対的禁忌)

凝固障害

血小板数の減少(<50x109/L)


感染症

穿刺部位の皮膚感染症


脊椎変形(脊柱側弯症または脊柱後弯症)(非熟練医師は行うべきでない)[13][14]

副作用
頭痛

吐き気を伴う硬膜穿刺後頭痛は、最も一般的な合併症である。多くの場合、鎮痛剤や輸液が症状を軽減する。この合併症は、穿刺成功後2時間は厳密に仰臥位を維持することで防ぐことができると長い間教えられてきた。これは、多数の人々を対象とした現代の研究では証明されていない。坐位では無く側臥位で穿刺を行うと、リスクが軽減される可能性がある[15]。静脈内カフェイン注射は、これらの脊髄性頭痛に非常に効果的である。長時間寝ていても持続し、起きているときだけ起こる頭痛は、腰椎穿刺部位からの髄液漏出を示している可能性がある。それは、より長時間安静にするか、硬膜外血液パッチによって治療可能である。この場合、患者自身の血液が漏出部位に注入され、血栓が形成されて硬膜の漏出が封鎖される[16]

「非外傷性(英語: atraumatic)」針を使用すれば、頭痛のリスクと鎮痛および血液パッチの必要性が大幅に減少する。これは、手技の成功率に影響を与えない[17][18]。コストと難易度は似たようなものだが、採用率は低く、2014年時点で約16%に過ぎないと報告されている[19]

頭痛は、硬膜の偶発的穿刺によって引き起こされる可能性がある[20]

腰椎穿刺針の側面と脊髄神経根の間の接触は、処置中に脚に異常な感覚(パレステジア(英語版))を引き起こす可能性がある。これは無害であり、万一の場合の不安を最小限に抑えるために、事前に患者に警告しておいてもよい。

適切に実施された腰椎穿刺の深刻な合併症は非常にまれである[4]。それらには、脊髄または硬膜外出血、癒着性クモ膜炎(英語版)、および脊髄[9]または脊髄神経根への外傷が含まれ、筋力低下または感覚の喪失、果ては対麻痺さえも引き起こし得る。後者は非常にまれである。なぜなら、脊髄が終了するレベル(通常は第1腰椎の下縁だが、乳児ではわずかに低い)は、腰椎穿刺の適切な位置(第3、4腰椎間)よりも数椎間上である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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