脊髄小脳変性症
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脊髄小脳変性症

人間の脳における小脳(青の部分)
概要
診療科神経学
分類および外部参照情報
ICD-10G11
ICD-9-CM334
DiseasesDB12339
MeSHD020754
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脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう、英:Spinocerebellar Degeneration (SCD))は、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称である。小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく病気であり、1976年10月1日以降、特定疾患に18番目の疾患として認定されている。また、介護保険における特定疾病でもある。
概要

1863年フリードライヒにより梅毒感染による脊髄癆より分離されるかたちでフリードライヒ運動失調症が記載されることで確立した疾患概念である[1]。1986年の調査では10万人に5?10人の割合で発症すると推定されている。2000年現在で日本では2万人弱の患者がいると考えられている。日本では遺伝性が30%であり、非遺伝性が70%である。欧米と異なり遺伝性のSCAは大部分が優性遺伝である。主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。非常にゆっくりと症状が進行していくのが特徴。10年、20年単位で徐々に進行することが多い。だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。遺伝性のものは孤発性よりも若年発症が多いが、DRPLAを除き孤発性よりも予後はよいとされている。
SCAの分類と歴史的変遷

1863年にフリードライヒは脊髄癆や多発性硬化症と異なり同胞間にみられる遺伝性の脊髄性失調を呈する疾患の存在を初めて報告し「遺伝性運動失調症」の概念を提唱した[1]。これは2014年現在では常染色体劣性遺伝のフリードライヒ運動失調症として知られる疾患であることが明らかになっている。フリードライヒ運動失調症は小児期発症で脊髄性失調、深部反射消失、構音障害、足変形、脊柱彎曲などの臨床的特徴をもち、脊髄後索、錐体路および脊髄小脳路の変性を病理所見の中核とする疾患であると理解されている。

フリードライヒの報告に対してMarieは先行論文の症例報告を総括して1983年にフリードライヒ運動失調症とは異なり発症年齢が遅く、深部反射が亢進し、眼球運動麻痺や視力障害を伴う新しい疾患として「遺伝性小脳失調症」という概念を提唱した[2]。この論文は当時にあってフリードライヒ運動失調症のような脊髄性ではなく、小脳性のしかも常染色体優性遺伝性の運動失調症に注意を向けた点では評価されている。しかしMarieがまとめた症例が病理学的に極めて不均一な疾患の集合であることがDejerineとThomasやSwitalskiやHolmesらによって明らかにされ単一疾患としては確立しなかった。

1891年Menzel(メンツェル)による遺伝性小脳失調症の報告[3]や1900年のDejerineとThomasによるオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)の報告[4]、1907年のHolmes(ホームズ)による小脳限局型の報告[5][6]、さらには1922年のMarie(マリー)らによる晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)の報告[7]などを受けて、次第にSCAの典型像は明らかになってきた。しかし多彩な臨床像や病理学的所見に基づく幾多の分類は次第に複雑なものとなり相互関係やお互いの区別が困難となってきた。

1954年にGreenfieldは病理学的な観点からこのような従来の分類を大別整理し、小脳型、脊髄小脳型、脊髄型の3基本型に分類して臨床所見との整合性をはかり、今日にいたる分類上の基礎を築いた[8]。1982年にはHardingにより成人発症型の常染色体優性遺伝性SCDが4型に分類されておりしばしば引用される[9]

日本では厚生省の運動失調調査研究班によって脊髄小脳変性症の診断基準が作られている。1996年の基準では病型はオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、皮質小脳萎縮症、マチャド・ジョセフ病、遺伝性OPCA、遺伝性皮質小脳萎縮症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、遺伝性痙性対麻痺、フリードライヒ運動失調症、シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質変性症に分類された。皮質小脳萎縮症は晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)に相当する病型であり、遺伝性OPCAはかつてのMenzel型遺伝性運動失調症を拡張した概念である。遺伝性皮質小脳萎縮症はかつてのHolmes型遺伝性運動失調症と同様の概念である。その後原因遺伝子が明らかになるにつれて原因遺伝子による分類がされるようになった。例えば遺伝性OPCAのMenzel型の中からSCA1、SCA2、SCA3、SCA4、SCA5と次々と疾患が命名された。特に遺伝性OPCAのほとんどはSCA1、SCA2、SCA3であると言われている。また分子病態からポリグルタミン病、非翻訳リピート伸長によるSCAといった分類もされることがある。
分類
孤発性

非遺伝性(孤発性)脊髄小脳変性症は大きく多系統萎縮症(MSA)と孤発型皮質小脳変性症(CCA)およびその他の症候性小脳変性症に分類される。多系統萎縮症はかつてはオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、線条体黒質変性症(SND)、シャイ・ドレーガー症候群(SDS)と呼ばれていたものであるが、患者のグリア細胞内にGCIという嗜銀性封入体が共通して認められたため疾患概念が統一された。
孤発性皮質性小脳変性症(皮質性小脳萎縮症 CCA)
皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy、CCA)は成人発症、孤発性脊髄小脳変性症の一病型であり純粋小脳失調症をしめす。単一疾患としては未確立であり病因的にはheterogeneousな症候群である。1922年にMarrieらの報告がCCAのはじまりである。病理像はほぼ小脳皮質に限局する萎縮、全般性のプルキンエ細胞変性脱落、グリオーシスを主徴とする。これに下オリーブ核の変性や分子層、顆粒層の変性が加わることもある。当初は病理学的確立し、対極に位置したのがオリーブ橋小脳変性症であり多系統萎縮症であった。特にMSA-Cは初期はCCAと鑑別が困難な場合もある。CCAは孤発性であるが非遺伝性とは限らず、CCA症例にSCA6やSCA31といった遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子変異が見出されることがある。今後もCCAから新たな遺伝子変異が見出される可能性がある。CCAは除外診断で行うのが原則である。まずは詳細な病歴、生活歴、家族歴の聴取を行う。画像診断では腫瘍性疾患に加え先天性奇形などの構造的疾患を除外する。中毒性、代謝性疾患、傍腫瘍性神経症候群や抗GAD抗体による免疫介在性小脳症候群を除外する、そしてMSAを除外するとい流れになる。発症から4年以内に小脳外症状を示さない場合はMSAの可能性は低いと考えられる。
症候性皮質小脳変性症
症候性の小脳変性症の原因としては、アルコール性、薬剤性(フェニトインなど抗てんかん薬、リチウム、抗うつ薬、5-FUなど)、中毒性(有機水銀、鉛、農薬、溶剤など)、内分泌性(甲状腺機能低下症)、傍腫瘍性小脳変性症、感染症後遺症(急性小脳炎)、ビタミン欠乏症(ビタミンE、B12)、免疫介在性(抗GAD抗体、セリアック病)などが知られている。


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