肺梗塞
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静脈血栓塞栓症

発症した右足
概要
診療科循環器学
分類および外部参照情報
ICD-10I80-I82
ICD-9-CM453
MeSHD020246
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静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう, Venous thrombosis; VTE)とは、肺血栓塞栓症 (英語: Pulmonary embolism; PE) と深部静脈血栓症 (英語: Deep vein thrombosis; DVT) を併せた疾患概念である。

DVTは、下肢や上腕その他の静脈(大腿静脈など)において血栓(凝固した血のかたまり)が生じ、静脈での狭窄・閉塞・炎症が生ずる疾患[1]。しばし無症状性であることが多い[1]

飛行機内などで、長時間同じ姿勢を取り続けて発症することがよく知られており、エコノミークラス症候群と呼ばれることもあるが、この呼称はエコノミークラス利用者に限定し発生する疾患との誤解を与える事から、欧米での呼称を訳した呼称の旅行者血栓症も提言されている[2]が、バスなどでの発生はまれだとしてロングフライト血栓症も用いられている[3][4]

VTEは入院患者の主な死因の一つである[1]。脂肪、腫瘍[5]、羊水、空気、造影剤、寄生虫、異物など血栓以外[6]が原因となる事もあるが、多くの場合、血栓の全部または一部が、血流に乗って下大静脈・右心房右心室を経由し、へ流れつき、肺動脈が詰まると肺塞栓症となる。肺動脈が詰まるとその先の肺胞には血液が流れず、ガス交換ができなくなる。その結果、換気血流不均衡が生じ動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難と脈拍数の上昇が起きる。典型的な症状は息苦しさや息を吸うときの鋭い痛みで、失神、ショックが起きる事もあり、時に死亡する。
分類血栓
肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)
詳細は「肺血栓塞栓症」を参照死亡危険性が高い疾患である。塞栓を生じた血栓が大きい場合は即死をきたすことがあり、原因も不明な場合が多い。欧米では循環器疾患による死亡原因として3番目に多い。肺組織が壊死に陥ること(肺梗塞、Pulmonary Infarction:PI)が10%?15%に認められる。肺梗塞は比較的末梢の肺動脈閉塞や、基礎疾患として心疾患や呼吸器疾患を有している場合に生じやすい。一方、高血圧、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)などの生活習慣病や喫煙、飲酒習慣との関連性は不明である[7]。肺動脈血栓塞栓症の原因となる血栓は深部静脈血栓が最も多くヒラメ筋静脈血栓がしばしばみられる[8][9]
深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう、DVT)
詳細は「深部静脈血栓症」を参照深部静脈(大腿静脈・膝窩静脈など、体の深部にある静脈)に血栓ができる病気。肺血栓塞栓症の主な原因である。肝静脈に血栓ができると門脈圧亢進症(バッド・キアリ症候群)を起こす。
症状

しばしば無症状性である[1]

深部に血栓ができた場合は下肢の腫れ (47%)、下肢痛 (26%)、下肢の色調変化 (7%) で血栓より遠位の浮腫などといった症状がでるが無症状のこともある。特に下肢静脈血栓は左に起きやすい。これは左の総腸骨静脈と右の総腸骨動脈が交差しているため、後者によって前者が圧迫されやすいためである[10]

体の深部静脈に血栓ができた場合はその静脈と周囲の皮膚に炎症を起こし、血栓性静脈炎を引き起こすことがある。

血栓が飛んで肺塞栓を引き起こすと呼吸困難 (73%)、胸痛 (42%)、冷や汗 (24%)、失神 (22%)、動悸 (21%)、せき(咳)(11%)、血痰 (5%) 等の症状が起きる。また、静脈怒脹、血圧低下、意識消失なども生じ、急激かつ広範囲に肺塞栓を生じた場合は心肺停止となり、突然死する。

原因

静脈血の鬱滞(うったい)や血液凝固の亢進が最大の原因となる。血流鬱滞(血液の流れが滞ること)の原因としては長時間同じ姿勢で居続けることや鬱血(うっけつ)性心不全、下肢静脈瘤の存在が挙げられる。血液凝固の亢進(血が固まりやすくなること)は様々な病態において生じるが、例えば脱水がん手術後の長時間臥床、拘束衣による身体拘束エストロゲン製剤の使用などが挙げられる。先天性素因としてはプロテインC欠損症、プロテインS欠損症、アンチトロンビンIII欠損症などがある[11][12]

後天的な血栓性素因としては、ループス・エリテマトーデスを含む抗リン脂質抗体症候群ベーチェット病などを含む血管炎症候群などが原因となる[13]

欧米では、凝固系第V因子の変異 (factor V Leiden) が見かけられるが、日本では見つかっていない[14]

特に湿度が20%以下になって乾燥している飛行機、とりわけ座席の狭いエコノミークラスで発病する確率が高いと思われているため、エコノミークラス症候群と呼ばれるが、ファーストクラスビジネスクラス、さらに列車バスなどでも発生の可能性はある。タクシー運転手や長距離トラック運転手の発症も報告されている。長時間同じ体勢でいることが原因である。
有名な発生事例

2002年に、サッカー日本代表選手の高原直泰旅客機での移動中に発病[15]。エコノミークラスより座席の広いビジネスクラスを利用して発病したため[4]、「エコノミークラス以外なら安全」というわけではない。結果として、有力視されていた日韓ワールドカップの代表入りが見送られた[15]。なお、高原選手の2006年のワールドカップドイツ大会の代表選出に関連して、ドイツへの移動に際しては高原選手のみは日本サッカー協会からファーストクラスがあてがわれた(ジーコ監督以下他のスタッフはビジネスクラスを利用)。

2015年、NBAプレイヤーのクリス・ボッシュNBAオールスターゲーム終了後に診断された。治療のためシーズンを全休し、復帰したものの、2015-2016シーズンに再発し、NBA引退を表明している。

自動車での車中泊でも発生する。2004年新潟県中越地震で車中泊で避難生活を送る人たちの中に、エコノミークラス症候群による死亡者が多数報告され、災害関連死のほうが直接の死者よりも多い事態になったことから注目された。2011年東北地方太平洋沖地震、2016年熊本地震などでも多数発生している[16]
予防

静脈血栓塞栓症は突然死をきたす重篤な疾患である。そのため発症する前に予防することが非常に重要である。一般的に推奨されている予防法を示す。

長時間にわたって同じ姿勢を取らない。時々下肢を動かす。飛行機内では、着席中に足を少しでも動かしたりすることなどが推奨されている
[17]。ただし、乱気流により負傷する事故もあることから、飛行中にむやみに席を立って歩いたりすることは忌避される。航空会社によっては、座席でできる簡便な下肢の運動法を記したパンフレットが各座席に備え付けられている場合もある。

麻痺や療養のため長期臥床を余儀なくされる場合、長時間の手術を行う場合は弾性ストッキングや空気式圧迫装置を用いて血液の鬱滞を防ぐ必要がある。特に弾性ストッキングはリスクのある例全てに行なわれるべきである[18]。長期臥床への利用は、外科手術後は抑制・予防効果が認められるが、脳卒中後の深部静脈血栓症には効果がないと報告されている[19][20]


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