肥料
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有機肥料

肥料(ひりょう、肥糧)とは、植物を生育させるための栄養分として人間が施すものである。土壌から栄養を吸って生育した植物を持ち去って利用する農業は、植物の生育に伴い土壌から減少する窒素リンなどを補給しなければ持続困難である。そこで、減少分を補給するために用いるのが肥料であり、特に窒素リン酸カリウム肥料の三要素と呼ばれる。
概説

植物の正常な生育のためには、炭素水素酸素、窒素、リン、カリウム、カルシウムマグネシウム硫黄ホウ素塩素マンガンモリブデン亜鉛の16元素が必要である[1]。これにニッケルを加えた17元素を必須元素とする場合もあるが[2]、これは後述の有用元素に分類される場合もある[3]

このうち炭素・水素・酸素は、自然界の大気や水から吸収できるので、人為的に外部から供給する必要はない[1]。それ以外の元素も、自然界では土壌から根を通して吸収されるが、特に野菜などの作物を栽培する場合では窒素・リン・カリウムは不足しやすいため、肥料として供給する必要がある[1][4]。窒素は「葉肥」、リンは「実肥」、カリウムは「根肥」ともいわれ、これを「肥料の三要素」とよんでいる。そのほか、わりあい多く必要とするカルシウム、マグネシウム、硫黄を「二次要素」または「中量要素」といい、少しあればよいものを「微量要素」とよんでいる[4]。中量要素や微量要素は、堆肥などの有機物を土壌に十分入れておけば不足することはないが、化学肥料に頼りすぎると不足してきて、植物にさまざまな障害が現れてくる[4]

また、植物の生存に必須ではないが、ナトリウムケイ素セレンコバルトアルミニウムバナジウムは、しばしば特定の植物種にとって成長を助ける有用元素となる。

日本の肥料の品質の確保等に関する法律第2条第1項にて「植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため、土壌に化学的変化をもたらすことを目的として、土地に施される物、及び植物の栄養に供することを目的として、植物に施される物をいう」と定義されている。したがって、土壌に施されるものだけではなく、葉面散布の形で施されるものも肥料と呼ぶ。

反面、養分としてではなく土壌の改質のみを目的としたもの(土壌改良剤)は、肥料とは呼ばない。また人間が施したものではなく、元々土壌中に含まれていた栄養分については、一般に「肥料分」などと言い分けることが多い。「栄養素 (植物)」も参照
肥料成分

必須元素の一部は肥料で与える必要はない。水を構成する水素や酸素、空気中二酸化炭素に含まれる炭素は肥料で与えない。日本では塩素と硫黄は、農耕土壌に何も与えずとも不足することはないため、一般に肥料で施すことはない。鉄、亜鉛、銅などは植物の成長には微量で十分であり、通常の土壌で不足することは少ない。ただし、強いアルカリ性の石灰質土壌や貝化石土壌では、これらの金属イオンが水に溶けにくく、植物に利用されにくいため、植物が不足症状を受けることがある。この場合、不足した金属元素を肥料として与えることで、生育を改善できる。

養液栽培の場合は、土壌からの供給がないため、栄養素を全て与えてやる必要がある。
肥料の三要素(一次要素)詳細は「肥料の三要素」を参照

窒素 (N) 、リン酸 (P) 、カリウム (K) を、「肥料の三要素」という[4]。特に植物が空気、水から摂取できる酸素・炭素・水素を除いて、最も多く必要とする多量要素で、肥料として与えるべきものである[4]。一次要素ともいう[5]
窒素

主に植物を大きく生長させる作用があり、タンパク質や葉緑素の合成に関わる[5]。特に葉や茎を大きくさせることから葉肥(はごえ)と言われる[6]。過剰に与えると、植物体が徒長し、軟弱になるため病虫害に侵されやすくなる。逆に、軟らかい植物体を作りたいときは窒素を多用するとよい。窒素が不足すると、生育や樹勢が衰えて葉は淡黄色になり、面積が狭くなって早くに落葉する[4]

また、窒素はどのような性状の窒素であるかにより肥効が左右される。アンモニア態窒素(硫安、塩安など)は、土壌に吸収・保持されやすいので肥効は高い。しかし、土壌でバクテリアにより硝酸態窒素に変化すると、土壌に吸収・保持されにくいので流亡してしまいやすい。有機質の肥料や尿素は、土壌でアンモニア態窒素に変化し、さらに硝酸態窒素に変化する。アンモニア態窒素は、多用するとアンモニアガスを生じ、植物体に障害を与える。この現象は施設園芸でよりおこりやすい。
リン酸

主に開花結実(実付きや花付きなど)に関係する肥料であり実肥(みごえ)と言われる[6]。水溶性リン酸と可溶性リン酸、く溶性リン酸が植物に吸収される。このうち可溶性リン酸は、アルカリ性クエン酸アンモニウム溶液(ペーテルマン液)に溶けるリン酸であり、水溶性の値を含み、根酸に溶けて肥効をあらわす[7][8]。く溶性リン酸は2%クエン酸溶液に溶けるリン酸であり、より緩やかな肥効をあらわす。なお、化学分野で「P」は、元素のリンを表すが、農業・園芸分野ではリン酸塩類を表し、リン酸と省略される。リン酸が不足すると、生長不良になって出葉や開花が遅れ、実入りが極めて悪くなり品質や収量が著しく低下する[4]

人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されている。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、イギリス硫黄誌 (British Sulphur Publishing) によると、最悪のシナリオとして、過去の消費から年3%の伸びを見込むと、消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまう。

現実的なシナリオでは、2060年代に残存鉱量は50%になるとされている。日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中華人民共和国に依存している。国際肥料工業会 (International Fertilizer Industry Association) によると、リン酸肥料が使用される主な作物とその割合は、小麦が18%、野菜・果物が16%、米、トウモロコシがそれぞれ13%、大豆が8%、サトウキビが3%、綿花4%となっている[9]

アジア、オセアニア地域では利用効率が悪い。土壌にリンが固定されてしまうからだと考えられる。[10]
カリウム

農業ではカリ(加里)と省略している。主に根の発育と細胞内の浸透圧調整に関係するため、根肥(ねごえ)といわれる[6]。水溶性のため流亡しやすいので、追肥で小出しに与えるのがよい。細胞内ではイオンの形で存在するため、細胞が死ぬと細胞外へ流出しやすい。また、植物体内での転流も容易。カリウムが不足すると、根の伸長が不良となり、葉や茎は軟弱になって倒伏しやすくなり、周辺から黄化したり、水分不足のようになって枯れてしまう[4]。果実類は収量や品質が低下して、特にデンプンや甘味が減ってしまう[4]
二次要素(中量要素)

カルシウム (Ca)、マグネシウム (Mg) 、硫黄 (S) を、「二次要素」[1][5]あるいは「中量要素」[4]という。これは一次要素と同じく植物学上の多量要素に分類されるが、肥料としての必要量はより少ない。日本では施用の必要がほとんどない硫黄を除く、一次要素および二次要素の五つ(窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム)を、「肥料の五要素」とも呼ぶ。

なお、カルシウムとマグネシウムについては、そのうち可溶性石灰、または可溶性石灰および可溶性苦土が、アルカリ分の記述で各種肥料に表示されている事がある[11]
カルシウム(石灰)

主に細胞壁を強くし、作物体の耐病性を強化する働きがある。農業・園芸分野では石灰(せっかい)といい、土壌のpH調整に用いられる。生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、炭酸石灰(炭酸カルシウム)またはケイ酸カルシウム(ケイカルと称される事が多い、ケイ酸肥料を兼ねる)などのカルシウム含有の肥料をいう。


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