聖書の誤記
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歴史を通して、聖書は世界中の様々な言語に訳され、出版されてきた。その中には誤記誤植や、現代から見れば奇異に思われる翻訳を含むものが数多く存在する。本項目ではその事例を挙げる。

以下、文中における聖書の日本語訳は口語旧約聖書(日本聖書協会、1955年)と口語新約聖書(日本聖書協会、1954年)を引用し、誤植に応じて一部改変している。
目次

1 手稿本

1.1 ケルズの書(800年頃)

1.2 ディアの書(10世紀)


2 活版印刷

2.1 カヴァデール聖書

2.2 Edmund Beckの聖書

2.3 大聖書

2.4 ジュネーヴ聖書

2.5 ドゥアイ聖書

2.6 欽定訳聖書

2.7 エルサレム聖書


3 参考

4 外部リンク

5 関連項目

手稿本 ケルズの書
ケルズの書(800年頃)

ケルズの書におけるルカによる福音書、イエスの系図(英語版)には、第3章第26節において一人余分に先祖を数えている(画像、上から2番目の名前 "IAE")。これは転写者が"QUI FUIT MAHTATHIAE"を"QUI FUIT MATHATH 。IAE"と解釈し、IAEという人物が別にいると考えたため(そうして別にQUI FUITを付け加えたため)である。[1]マタイによる福音書、第10章第34節は、「平和ではなく、つるぎ(gladium)を投げ込むためにきたのである。」という文である。しかし、ケルズの書には"gladium(つるぎ)ではなくgaudium(よろこび)と書かれている。そのため、この文は「平和(だけ)ではなく、よろこびを(も)投げ込むためにきたのである。」という意味になる。[2]
ディアの書(10世紀)

ディアの書(英語版)には数多くの誤りがある。ルカによる福音書の中のイエスの系図では、セトが第一の人間にしてアダムの祖父とされている。[3]
活版印刷
カヴァデール聖書
"Bug Bible" (虫の聖書)
マイルズ・カヴァデール
(英語版)版の1535年刊行(出版者、刊行年に異説あり[4])の聖書には詩篇第91篇第5節(Psalm 91:5)において「あなたは夜の虫(bugges)をも恐れることはない」と書かれていることから、「虫の聖書」として知られる。ただし、この聖書は中英語で書かれており、"bugge"は"boggart"(ボガート)に通じる、「さまよう亡霊」や「幽霊」を意味する言葉であるため、必ずしも誤訳ではない[5]欽定訳聖書ではterror(恐ろしい物)の語を用いる。実際はその用語はGeorge Joyeが最初に用いたものであり、Joyeが翻訳した詩篇は旧約聖書を訳す前のカヴァデールによる版に見られる[6]。"bug"の語は1539年の大聖書や、1551年のマタイの聖書にも用いられている。
Edmund Beckの聖書
"Wife-Beater's Bible" (妻叩きの聖書)
Edmund Becke版の1549年および1551年刊行の聖書中、
ペトロの手紙一第3章第7節(1 Peter 3:7)においてBeckeにより次の脚注が付けられている。「そしてもし妻が夫に対し従順でなく、役に立たない者ならば、敬虔の念を妻の頭に叩きこんでやらねばならない。無理矢理にでも妻としてのつとめを分からせて、その通りにさせるために。」[7]
大聖書 糖蜜聖書。イギリスオックスフォードシャーバンベリー、聖メアリー教会。
"Treacle Bible" (糖蜜聖書)
1549年刊行の大聖書(英語版)では、エレミヤ書第8章第22節(Jeremiah 8:22)が「ギレアデに糖蜜(tryacle [treacle])があるではないか。……」と訳されている。現代の訳では通常"balm"(乳香)や"medicine"(薬)を用いる。初期近代英語において、"treacle"は「糖蜜」の他に、「万能薬」の意味も持っていた。
ジュネーヴ聖書
"Breeches Bible" (猿股聖書、半ズボン聖書)
1579年にWhittingham、 GilbyおよびSampsonにより出版された
ジュネーヴ聖書の版では、創世記第3章第7節(Genesis 3:7)が「(自分たちが裸であるとわかったアダムとイブは)いちじくの葉をつづり合わせて、猿股(breeches)を作った。」と訳されている。当該部分の意味は"coverings"(腰を覆う物)と解釈するのが一般的であり、欽定訳聖書では"aprons"(前掛け)と訳している。
"Place-maker's Bible" (場所つくりの聖書)
1562年刊行の第2版では、マタイによる福音書第5章第9節(Matthew 5:9)(真福九端の一節)が「場所をつくり出す人たち(placemakers)は、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう。」と書かれている。正しくは"peacemakers"(平和をつくり出す人たち)とするべきである。同聖書ではルカによる福音書第21章の表題を「キリストは貧しいやもめを強く非難する(condemneth)」としている。正しくは"commendeth"(称賛する)である。
ドゥアイ聖書
"Rosin Bible" (松脂聖書)
1610年の
ドゥアイ聖書において、エレミヤ書第8章22節は「ギレアデに松脂(rosen [rosin])があるではないか。……」と訳されている。
"Machester edition" (マンチェスター版)
1793年。レビ記第3章表題と第1節において"beeves"("beef"(牛肉)の複数形)とすべきところを"bees"(蜂)と誤って、「酬恩祭の犠牲として蜂、羊、子羊、山羊はいかにささげられるべきか」と書かれている。[8]
欽定訳聖書 姦淫聖書。第14節が"thou shalt commit adultery"とある。 ユダの聖書。イギリス、デヴォン、トトネス、聖メアリ教会所蔵。1613年、ジェームズ1世の命でロバート・バーカーにより印刷された欽定訳聖書の二つ折り版。トトネス市長が用いる為に教会に与えられた。 この版はマタイ26章36節に、イエスではなくユダの名が現れることから「ユダの聖書」として知られる。赤丸で示された誤植箇所は上から紙を貼り付けて訂正してある。[9]

欽定訳聖書は様々なところから出版されており、誤植も多様に存在する。有名な例には特有の通称が付けられている。
The Blasphemous Comma (冒涜的なコンマ)
複数の版において見られる。ルカによる福音書第23章第32節(Luke 23:32)、"And there were also two others, malefactors, led with him to be put to death."(さて、(イエスと共に刑を受けるために、)ほかにふたりの犯罪人も引かれていった。)という文において、"others,"のsとコンマが脱落し、"... two other malefactors, ..."となる部分が現れた。"two other malefactors"という表現は、ふたりの他にも別の犯罪人がいることを示唆している。文脈上、イエスがその「別の犯罪人」であるとも解釈できてしまう。
"Printers Bible" (印刷屋の聖書)
1612年。いくつかの聖書では詩篇第119篇第161節(Psalm 119:161)「もろもろの君(Princes)はゆえなくわたしをしえたげます。しかしわが心はみ言葉をおそれます。」という文が、「もろもろの印刷屋(Printers)は……。」と誤植されている。
"Judas Bible" (ユダの聖書)
1613年。マタイによる福音書第26章第36節(Matthew 26:32)において、本来はイエス(Jesus)が弟子たちに語りかける場面だが、発言者の名前がユダ(Judas)と誤植されている。
"Wicked Bible" (邪悪聖書)
1631年、ロバート・バーカーとマーティン・ルーカスにより刊行。"Adulterous Bible"(姦淫聖書)、"Sinner's Bible"(罪人の聖書)とも称される。出エジプト記第20章第14節(Exodus 20:14)において欠けてはならない"not"が欠落し、第七戒が"Thou shalt commit adultery."(あなたは姦淫しなくてはならない)となった。
"More Sea Bible"
1641年。ヨハネの黙示録第21章第1節(Revelation 21:1)、"...the first heaven and the first earth were passed away and there was no more sea."、「わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった。」とするべき文から"no"が欠落した。
"Unrighteous Bible" (不義の聖書)
1653年、ケンブリッジ・プレス。"Wicked Bible"(邪悪聖書)とも称される。コリントの信徒への手紙一第6章第9節(1 Corinthians 6:9)"から、"inherit"の前の"not"が除かれ、"Know ye not that the unrighteous shall inherit the kingdom of God?"(正しくない者が神の国をつぐのを、知らないのか。


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