考古資料(こうこしりょう)とは歴史を考察する一次資料(実物又は現象に関する資料)[注釈 1]のうち、遺構・遺物など考古学的発見によって得られた資料、また考古学が対象として取り扱う資料の総称で、物質のうえにとどめられた人間活動の痕跡のすべてをさす[1]。
概略ツタンカーメン王の「黄金のマスク」
考古資料の代表例としては、土器や石器、金属器などの遺物、竪穴建物や土坑墓などの遺構など、人間の積極的な製作活動により残されたものが掲げられるが、これらのほかに、廃棄された獣骨や魚骨、石器製作に伴う石屑、無意識のうちに期せずして残された人間の足跡や車輪痕跡なども含み、これらの総体である遺跡全体が考古資料として扱われる[1]。考古学における考古資料は、文献史学における文献資料に対応する。
考古資料は、時間的な位置づけとともに空間的な位置づけが研究においてきわめて重要視される点で美術品とは大きく異なり、むしろ古生物学における化石資料との共通点が多い。ともに出土した土層の層序や出土地点、出土状況が重視されるだけでなく、ともに発掘調査によって得られ、当該学問において根底となる基本資料であり、また、その資料には遺存しやすいものとしにくいものがあり、遺存状況としてもさまざまなレベルや様態があること、さらに、資料に依拠した復元的思考によって検討ないし追究されることなど、資料の入手方法や資料特性、分析方法などの諸点で、考古学・考古資料と古生物学・地質学・化石資料では共通点が少なくない。
このことを利用し、たとえば、地質学における「地層累重の法則」などは、考古学にも応用されて多大な成果をあげている。
歴史資料としての考古資料東北地方北部出土の円筒下層式土器
歴史資料の分類方法にはさまざまなものがあり、また、吟味し考察する人間の姿勢しだいでどのようなものでも歴史資料となりうるから、いくらでも細分が可能であるが、ごく大まかには以下の5つに大別することができる。
新聞・雑誌・文学などもふくめ、文字によって記録された文献資料
絵画・写真・漫画・地図などの図像資料
映画・ビデオ・録音などの映像資料・音声資料
考古資料
風俗・習慣・伝説・民話・歌謡など伝承された民俗資料
これはあくまでも分類の一例である。このなかで、考古資料は人間活動の営為の痕跡を示す実物資料といえるが、そのいっぽうで資料としては、特に層位学的研究においては、堆積物としての性格を併せもっている。
なお、それぞれの歴史資料の詳細については、各項目を参照されたい。
考古資料の種類大仙陵古墳(大阪府堺市、国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成
考古学では、過去の人が、主として土の中に残した活動のあとを資料として彼らの活動を追究する[2]。これが考古資料である[2]。考古資料には、以下のものがある[2]。 文化財保護法第2条(文化財の定義)の第1項に、「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料(以下「有形文化財」という。)」とあり、法的には有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群を「文化財」としたうちの「有形文化財」にあたる。また、同法27条によれば、有形文化財のうち重要なものを「重要文化財」、重要文化財のうち「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」を国宝に指定することができる、としている。考古資料(考古遺物)で国宝に指定されているものは国宝一覧#考古資料の部にリストアップされている。 遺跡(および遺構)に関しては、「記念物」の扱いであり、第109条から第133条の(第7章)史跡名勝天然記念物で扱われる。特に重要な遺跡は「史跡」さらには「特別史跡」に指定され、保存の対象となる。しかしながら、考古学研究においては、本来的には、遺構・遺跡と遺物とを切り離すことはできないはずである。したがって、ここではもっぱら文化財の保護と活用に際しての便宜に供した区分になっているともいえる。詳細は「埋蔵文化財」を参照 なお、同法の第92条から第108条まで(第6章)は、埋蔵文化財(土地に埋蔵されている文化財)の取り扱いに関する規定であるが、これは、発掘調査の対象となる遺跡ないしは考古学研究における考古資料とほぼ同義である。 認定規準を満たし、あるいは、法的手続きを経た考古資料が埋蔵文化財である。
遺跡…過去の人の活動の場。人間が住んでいた場所(集落遺跡・都市遺跡・貝塚)、人が祈り祭った場所(祭祀遺跡)、寺や神社、神殿のあと(宗教遺跡)、人がものをつくった場所(製塩遺跡・製鉄遺跡・水田遺跡など。生産遺跡と総称)、道や港あと(交通遺跡)、死者を葬ったあと(墓地遺跡・古墳)、墓以外で意図的に何かを埋めた遺跡(経塚、銅鐸埋納遺跡など)などがある[2]。不動産的価値を有する「遺構」と動産的価値を有する「遺物」とを有機的につなげている環境もふくめて「遺跡」と称する[3]。なお、同一遺跡エリア(日本では埋蔵文化財包蔵地ともいう)内に、複数時期にまたがる複数種類の遺構が重層的に存在する遺跡を「複合遺跡」[4][5]、単一の年代・種類の遺構で構成される遺跡を「単純遺跡」という[6]。
遺構…遺跡を構成する不動産的要素[3]。竪穴建物の掘り込みや柱穴、土坑、集落を囲む環濠の跡など[2]。
遺物…遺跡を構成する動産的要素[3]。土器や石器・木器などの各種道具、道具をつくるための道具、燃料、さらに食用や道具を作る材料としてもちこんだ動植物の遺体、廃棄された貝殻・魚骨・獣骨、糞石(人のフン)なども遺物に含まれる[2][3]。
遺跡に堆積した土層…遺物を含む自然堆積土層(遺物包含層)、遺構内に溜まった土層(遺構覆土)、掘削や廃棄・盛土・整地などにより人が築いた土層(古墳の墳丘盛土、貝塚の貝層、版築など)[2]。
人の遺体(人骨)…化石化したものは化石人骨と称する[2]。
文化財保護法における位置づけ
考古資料の特質京都市内の発掘調査風景(江戸時代の層の下に秀吉時代の盛土整地層、室町、平安、古墳、弥生など各時代の遺物包含層がつづく)