翼型
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翼型の風洞実験の様子(失速した時の流れ)

翼型(よくがた、: airfoil, aerofoil, wing section, etc)は、の断面形状のこと。揚力抗力の発生と関係があり、翼の性能を左右する。まれに翼形と記されることもある[1]
形状上面が負圧になり 下面が正圧になる。

翼断面として一般によく挙げられる形状は、前縁が丸く後縁が尖った形状をしている。これは「効率よく揚力を発生させるため」である。単純な板でも揚力は発生するが、抗力すなわち損失が常に大きいため実用に適さない。多くの場合、抗力を減らし揚力を増やす、つまり揚抗比を良くする視点から最適翼型が追及される。航空機の翼に限っても翼型は飛行速度・機体や翼の大きさ・使用方法などの違いによりそれぞれに最適な形状がある。

製造の際はミリ単位(あるいは0.1ミリ単位)で厳密に翼型を再現しなければ性能が一定しないといった繊細なものである。また表面の滑らかさも重要で、低い翼型再現度では簡単に境界層剥離が起こり、効力および失速性能が著しく低下する可能性がある。操縦性や安定性にも大きな影響を与えるため、翼型の選定と再現度は航空機の安全性においても大変重要な項目である。

また、レイノルズ数マッハ数によって理想的な翼型は異なる。前述の「一般的な翼型」は、一般的な航空機において最もよく使われる速度領域、つまり亜音速領域(マッハ数 M < 0.8 程度)においてのレイノルズ数(Re > 106程度)の範囲に適した翼型と言える。

昆虫の飛行のような低レイノルズ数領域では、翼は薄ければ薄いほど、そして反りとギザギザがついた形状が優れた翼型と言なる[2]。レイノルズ数は粘性と慣性力の比であり、値が小さいほど粘性の影響が大きいことを示す[3]。低レイノルズ数ほど剥離が起きづらいため、前縁部を丸くしたり翼全体を凸形状にする必要が無く、また、反りを大きくできる。

衝撃波による造波抵抗が生じる超音速の領域においては前縁が鋭角的なレンズ翼やダイヤモンド翼が有利である。
用語
翼型各部の名称前縁 (leading edge, L.E.)
翼前方の最大極率部となることが多い。
後縁 (trailing edge, T.E.)
翼後方の最大極率部となることが多い。
翼弦(chord, コード)
前縁 (leading edge, L.E.) と後縁 (trailing edge, T.E.) とを結ぶ線分。翼弦の長さは翼弦長(chord length, コード長)という。
迎角、迎え角 (angle of attack, AoA)
主流の方向と翼弦とのなす角のこと。揚力ゼロとなる角度を基準とする場合がある。文字 α(アルファ)で表すことが多い。
キャンバー (camber)
翼弦と中心線の差。一般的にキャンバーといえば最大キャンバーのことをいう。キャンバーを大きくすると揚力が大きくなるが、抗力も大きくなる。
前縁半径
前縁に接するような円の半径のこと。前縁半径が過小の場合翼上面で気流の?離が発生し性能低下する。
揚抗比 (lift-to-drag ratio, L/D)
揚力を抗力で割った値。理論的には揚力係数/抗力係数 (CL/CD) で求めることも多い。この値が大きいほど滑空性能が良く航続距離が長くなる特性があり、優れた翼型であるといえる。しばしば L/D(エルバイディー、エルパーディー、エルオーバーディー)とも呼ばれる。
風圧中心 (center of pressure)
翼に働く揚力分布による風圧分布により、揚力と抗力の合力が翼弦線と交わる点を風圧中心という。風圧中心は翼に働く力の実質的な作用点であり、迎え角により変化する。風圧中心の変化が大きくなると、飛行機の安定や翼の構造に良くないため、それを最小限におさえる必要があり、最大キャンバーを小さくする、最大キャンバーの位置をなるべく前縁に接近させる、翼の後縁を上方に反らすなどの対策を施す必要がある。
空力中心 (aerodynamic center)
翼弦線上にあって、その点を中心とした空力モーメント(縦に回転する力)が迎角の変化に対しても0となるような点を空力中心という。風圧中心がこの点を境に前に移動すると前縁周りの縦のモーメントが働き、風圧中心がこの点を境に後ろに移動すると後縁周りの縦のモーメントが働くようになる。
翼型と揚力の関係

前述の通り、レイノルズ数が小さい領域では薄板状の翼型が最適となる。翼型に対してレイノルズ数の影響が大きく[3]、紙飛行機に適した翼型は昆虫の場合とほぼ同じ薄板状になる。

シュミッツの実験によると、レイノルズ数104では、厚みのある翼型よりは薄い平板、さらにそれらよりも薄い板を曲げたもののほうが揚抗比に優れる[4]。翼のサイズによっては、涙滴形状よりも単なる平板の方が大きな揚力を発生させることがあるという[5]

レイノルズ数が少し大きくなると、鳥の飛行の領域になる[3]。前縁が丸く、全体に湾曲した薄い翼型が最適なものとなる。初期の飛行機は鳥によく似た翼型を持っていたが、これは初期に作られた小型風洞で扱えるレイノルズ数が鳥の領域とほぼ同等であったためである。

さらに、レイノルズ数が大きくなると、飛行機の領域になり[3]、後に示すような曲がった涙滴型が最適となる。

後述するように、翼は上面が重要な意味を持ち、クローズホールドからウィンドアビームの状態のヨット等の帆、ハンググライダーの翼は、「風をはらんだ」時に、通常の翼型の上面と同じような形状になる。平板になるのは無風の時と使用していない時である。さらに、最適な翼型に近づけるため、上下2枚の布からなり、前から間に空気を入れてふくらむ構造を持つハンググライダーの翼もある。


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