出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2017年10月)
緑膿菌(りょくのうきん、学名、Pseudomonas aeruginosa)は、細菌に分類される、グラム陰性で好気性の桿菌の1種であり、地球上の環境中に広く分布している代表的な常在菌の1つでもある。ヒトに対しても病原性を持つが、健常者に感染しても発病させることは無い。ただし免疫力の低下した者に感染すると、日和見感染症のうちの1つである緑膿菌感染症を起こす。
元々、緑膿菌は消毒薬や抗菌薬に対する抵抗性が高い上に、ヒトが抗菌薬を使用したことにより薬剤に対する耐性を獲得したものも多いため、緑膿菌感染症を発症すると治療が困難である。このため緑膿菌は、日和見感染症や院内感染の原因菌として医学上重要視されている。 「緑膿菌」という和名は、本菌が傷口に感染(創傷感染)したときに、しばしば緑色の膿が見られることから名付けられた。学名であるPseudomonas aeruginosaの種形容語のaeruginosaも「緑青に満ちた」を意味するギリシア語に由来し、本菌が作る緑色色素(ピオシアニン。後述)に因んだ名称である。なお、属名のPseudomonasは、それぞれギリシア語のpseudo-(偽の)とmonas(鞭毛を持った単細胞原生生物の総称)に由来する。 シュードモナス属に属する、0.7 x 2 µm程度の大きさのグラム陰性桿菌である。芽胞は形成せず、菌体の一端に1本の鞭毛(まれに2-3本)を持ち活発に運動する。また菌体の一端には線毛を有する。 緑膿菌は、土壌、淡水、海水中など、自然環境のいたるところに生息する環境中の常在微生物の一種であり、湿潤な環境を特に好む。またヒトや動物の消化管内部にも少数ながら存在する腸内細菌の一種であり、健康な成人の約15%、病院内では30-60%が本菌を保有していると言われる。 偏性好気性 緑膿菌は、熱に対する抵抗性は他の細菌と同程度で比較的弱い部類に属する(55℃1時間処理で死滅)が、消毒薬や抗生物質などに対しては、広範かつ強い抵抗性を有している(薬剤抵抗性の節に詳述)。このため、長期間放置されている手洗い用の消毒液などの中からも分離されることがあり、院内感染などとの関連から特に医療分野で注目されている。 緑膿菌は、色素やムコイド
名称の由来
細菌学的特徴
緑膿菌の物質産生クオラムセンシング
左図:細菌密度が低い状態では、オートインデューサー(青)の濃度も低く、物質の産生があまり起こらない。
右図:細菌密度が高くなると、オートインデューサーの濃度が上がって、クオラムセンシング特有の物質(赤)が産生される。
これら緑膿菌の物質産生の多くは、その生育環境での菌数を感知する、クオラムセンシングと呼ばれる機構で制御されている。緑膿菌は、N-アシル-L-ホモセリンラクトン (AHL) と呼ばれる、菌体の内外を自由に行き来することが可能な低分子物質(オートインデューサー)を産生しており、環境中での生育密度が上がると、この物質の濃度も上昇する。この物質は、緑膿菌のさまざまな遺伝子に対して転写因子として働き、さまざまな物質産生を誘導する。AHL自身もまたAHLによってその産生が誘導されるため、この機構は正のフィードバックによる制御を受けている。これらの機構を巨視的に見ると、緑膿菌が自らの生育密度を感知して、その上昇に伴って、さまざまな物質産生を行うことになる。クオラムセンシングは、緑膿菌同士が細胞間で行う1種の情報伝達機構と考えることができる。
色素産生
緑膿菌は複数の色素を産生する性質を持つ。非蛍光緑色色素であるピオシアニン、蛍光性の黄緑色のピオベルジン(フルオレシン)とフルオレセイン[1]、赤色のピオルビン、黒褐色のピオメラニンなど、少なくとも5種類の色素を産生する(中には一部の色素を産生しない変異株も存在する)。このうち、ピオシアニンとピオベルジンの二つは特に研究が進んでいる。
緑膿菌によるピオシアニン(非蛍光緑色色素)の産生。
左は緑膿菌を培養した培地。偏性好気性菌であるため培地の表面近くだけに増殖して(バイオフィルムの形成、白い部分)、そこから培地下方に向けて産生したピオシアニンが拡散している。右は緑膿菌培養前の培地。緑膿菌によるピオベルジン(黄緑色の蛍光色素)の産生。
紫外線下で観察すると培地の表面に増殖した緑膿菌から培地下方に向けて、産生されたピオベルジン(紫外線下のため青白く見える)が拡散しているのがわかる。
ピオシアニンはクロロホルムに可溶性の緑色色素である。ピオシアニンを産生するのは緑膿菌しかいないため、この性質を利用した「ピオシアニン検出用シュードモナス寒天培地」という寒天培地も販売されており[2]、緑膿菌の鑑別同定や研究等に用いられている[3]。 菌体外に分泌され、緑膿菌を培養した培地や、感染した傷口などを緑色に着色する。緑膿菌の発見のきっかけになった包帯の緑変や、学名および和名は、このピオシアニンによる緑色に由来する。またピオシアニンという名称自体、膿を意味する接頭語 pyo-と、シアン(藍緑色)を表すcyanに由来しており、1900年前後に緑膿菌の学名として付けられたシノニム(同種異名)であるBacillus pyocyaneousなどの種小名にちなんでいる。ピオシアニンは、哺乳動物細胞のミトコンドリアによる呼吸機能や気道粘膜の繊毛運動を阻害する毒性を持っており、緑膿菌の病原性の一端を担っている。