絵手本（えでほん）は、江戸時代から明治時代に描かれた絵本の一種である。絵の描き方を習うために、手本の絵が描かれた本。浮世絵諸派にも大きく影響を与えた。

従来、江戸時代に日本の日本画の狩野派では手本となる粉本の絵を模写し技法を取得した[1]。中国では画譜があり、著名で早期のものに1603年の『万暦三十一年』があり、明末から清の康煕年間（1662年 ? 1722年）に画譜の刊行が盛んとなり、日本へも多く輸入され絵手本の制作につながったとされ、実際に絵が転用されている例がある[1]。日本では初期には、絵手本の制作は狩野派の絵師が行い、橘守国による正徳4年（1714年）の『絵本故事談』、大岡春卜による享保5年（1720年）の『画本手鑑』などがあるが、両者の制作した絵手本は明治になっても再版されたものがあり需要は高かった[1]。同じく林守篤による享保6年（1721年）の『畫筌』全六巻は初期の流れを作る代表的なものとなった[1]。

享保年間（1716年 - 1735年）には、絵手本として刊行され、粉本に代わって絵手本を使っての技法を研鑽することは、浮世絵も含めた多くの諸派に広く普及することになる[1]。貿易の中継点であった大坂が刊行の中心となり、京都、江戸でも出版された[1]。絵手本に登場する絵が、実際の作品に転用されていることもあるが、分析していくと狩野派の描法が浮世絵師まで普及していることが分かる[1]。

守国は江戸時代中期に絵師が増え粉本の需要が高まったことに応じ、絵手本を制作したが、刊行された絵手本は絵を描くために粉本を使うという狩野派の影響がありながら、一部は狩野派ではない構図も見られる[2]。

主に画家諸派の門人のための教育本として製作したものであったが、実際には鑑賞用とされることが多かった。代表作として北斎による『北斎漫画』があげられる。このような木版による絵手本は明治時代に入っても描かれており、明治20年代になると大倉孫兵衛の大倉書店から河鍋暁斎による『暁斎画談』、幸野楳嶺の『梅嶺百鳥画譜』、『楳嶺花鳥画譜』、『楳嶺菊百種』、渡辺省亭の『省亭花鳥画譜』などが出版されているが、明治30年代以降には彩色木版による絵手本出版は減少していった。
出典^ a b c d e f g 中山創太「 ⇒浮世絵師にみる絵手本利用の一考察 中国画譜を源流とする歌川派の作品を中心に」『東アジア文化交渉研究』0第5号、2012年2月、 389-405頁。
^ 古明地「 ⇒『絵本通宝志』にみる橘守国の作画法 巻五上「太公望」を中心に」『総研大文化科学研究』第15号、2019年3月31日、 47-64頁。

参考文献

小林忠 大久保純一 『浮世絵の鑑賞基礎知識』 至文堂、1994年

町田市立国際版画美術館編 『浮世絵モダーン 深水・五葉・巴水…伝統木版画の隆盛』 町田市立国際版画美術館、2005年

外部リンク

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更新日時:2019年5月29日(水)10:43
取得日時:2019/07/26 19:37