経済的自決
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経済的自決(けいざいてきじけつ、英:economic self-determination)・経済的自決権(けいざいてきじけつけん、英:the right to economic self-determination)[1][2]とは、新興諸国の経済的自立と発展の必要性を主張する考えである。

国際連合における自決権の確立過程を経て、西欧列強の植民地であった国々は、独立達成・主権国家との自由な連合・主権国家への統合を通して外的自決を達成した。しかしこれらの新独立国が置かれている経済状態は、植民地時代の経済構造をそのまま引き継いだものが圧倒的に多く、貴重な外貨獲得のための手段である輸出産品の生産の権利を先進資本主義諸国などによって握られている「新植民地主義」的な状況に陥っていた[3][4]

このように途上国は政治的独立を達成したあとも、natonal economic systemへの体制転換が遅れたことを背景として、従来の従属的な経済体制から自律的な経済体制への体制転換を求め、経済的自決権を主張するようになったのである[5]
天然の冨と資源に対する恒久的主権

「経済的自決」の主張の中での中核的概念として提示されてきたのが、「天然の富と資源に対する恒久的主権」(てんねんのとみとしげんにたいするこうきゅうてきしゅけん、英:the permanent sovereignty over natural wealth and resources)[注釈 1]であり、これは自国の天然資源を開発する主権的権利と解される[6]。もしくは、人民や民族はもとから住んでいる地域内に存在する「天然の冨と資源」の「主権者」であって、自己の生存を保持するために、他に妨げられず、それを開発・利用する生来的な権利を持っているという主張と把握されることもある[7]
天然の富と資源を自由に開発する権利決議(1952)

天然の富と資源に対する恒久的主権の問題は、「経済発展及び通商協定」に関する決議にて初めて取り上げられ、低開発諸国は彼らの天然資源の用途を自由の決定する権利を有することが考慮されていた。

経済的自決の問題が主題とされた最初の決議とされているのは、「天然の富と資源を自由に開発する権利」の決議[8]である。討議では、はじめにウルグアイが、天然の富を国有化し、自由に開発する権利を経済的独立の本質的要素として尊重する案を出したものの、スウェーデンやフィンランドから「国際協力を謳う国際連合憲章第55条の精神に反する」「政治経済的相互依存が進みつつある国際社会において、国際協力を阻害するものだ」等の批判を受けた。そこで、ウルグアイ・ボリビアが共同でウルグアイ案から「国有化」という言葉を除き、更には「相互理解や国際協力を害する行動を差し控える」旨の文言を追加した案を提出した。

西側諸国はこの案の採択を妨げようと討議の延期を画策したが、インド案の「自由な開発権の行使にあたって、相互理解と経済的な国際協力の必要性に適切な考慮を払う」が採択され[注釈 2]、初めて開発権を確認した国連の決議となった。1. 全ての加盟国は、自らの進歩と経済発展のために望ましいと思われるときに、その天然の冨と資源を自由に使用し開発する彼らの権利の行使にあたって、諸国家の安全、相互信頼、及び経済協力を条件として。資本流動を維持する必要に、その主権と抵触することなく、適切な考慮を払うことを勧告し、


2. さらに、全ての加盟国は、いかなる国のその天然資源に対する主権の行使をも、直接であれ間接であれ、さまたげることを目的とする行為を差し控えることを勧告する。
国際人権規約草案共通第一条の議論(1952・1955)

1952年と1955年における国際人権規約草案共通第1条の議論では、チリ案を巡って激しい意見の対立が生じた。

チリは人権委員会第8会期(1952)にて、「人民の自決権は天然の富と資源に対する恒久的主権を含み、いかなる理由でも奪われることはない」ことを謳った案を提出し、「ラテンアメリカ諸国の多くは天然資源に対して完全な主権を有しておらず、外国資本は専ら自らの利益を追求している」と主張した。ただこの条項は、外国の私企業と国家の関係を調整することが目的とされていた[注釈 3]

しかし、先進資本主義諸国からは「国際協力を妨げる」、「国家は条約や契約で何らかの制限を受けるので『恒久的主権』という文言は不適当」であるとの非難が相次いだ。一方でAA諸国や社会主義諸国からは「政治的主権は経済的主権を奪われていては無価値になるので、チリの主権解釈は正しい」、「『恒久的主権』はあくまで時間的概念で無限ということ」といった肯定的な意見が見られた。最終的にチリ案は採択され、第1条の3項に付記された。

3年後の第10回国連総会(1955)でも、同様の対立が見られたことから、Working Groupは第1条の再検討を行った。これも先進資本主義諸国からの反対を受けたが、最終的に採択された[注釈 4]。2. 人民は、互恵の原則に基づいた国際経済協力、並びに国際法から生ずる義務を害することなく、自らの目的のためにその天然の富と資源を自由に処分することができる。人民は決してその生存の手段を奪われることはない。

なお、その後「国際人権規約」にて天然の富と資源に対する恒久的主権に関する条項が盛り込まれたものの、上記のチリ案に存在した「恒久的主権」という文言が無くなっていることは、先進資本主義諸国の反対を考慮した結果ということができる。1. 全ての人民は、互恵の原則に基づく国際経済協力から生ずる義務及び国際法上の義務に違反しない限り、自己のためにその天然の富と資源を自由に処分することができる。人民は、いかなる場合にも、その生存のための手段を奪われることはない。
天然資源に対する恒久的主権決議(1962・1966・1973)

天然資源に対する恒久的主権の決議は、経済的自決権のみならず、コンセッション[注釈 5]に関する規定(国有化規律法)までをも含む非常に広範な内容の決議となった。
国際連合総会決議1803(XVII)への道程(1959-1962)

第13回国連総会第3委員会にて決議[9]が採択されたことで、「恒久的主権委員会」(天然資源に対する恒久的主権に関する国連委員会)は、天然の富と資源に対する人民と民族の恒久的主権の現状についての調査を行うことが定まった。
「恒久的主権委員会」第1会期(1959)・第2会期(1960)

国際連合事務局は恒久的主権委員会の研究に資するべく、研究資料を作成していた。第1会期と第2会期ではその資料に対して諸国の意見が戦わされた。

第1会期では、その研究資料に関する予備報告がなされた。国連事務局は、研究資料について天然資源の所有や使用を規制する国内法や国際協定を中心とするという見解を示した。資本主義諸国は、この報告に満足したものの、ソ連アラブ連合等は、法的側面のみならず事実的側面からも研究がなされるべきことを主張した。


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