経口血糖降下薬
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糖尿病治療の全体像については「糖尿病の治療」を参照

経口血糖降下薬(けいこうけっとうこうかやく、oral hypoglycemic agent)は、2型糖尿病において血糖値を正常化させる目的で処方される薬物の総称である。慢性合併症のリスクを軽減させることを目的としている。

比較的古くから用いられてきたスルフォニル尿素薬のようなインスリン分泌促進薬や、α-グルコシダーゼ阻害剤のようなブドウ糖吸収阻害薬、ビグアナイド系チアゾリジン系のブドウ糖吸収阻害薬、インクレチンを増強するDPP-4阻害薬GLP-1受容体作動薬、またSGLT2阻害薬がある。

1998年に、イギリスで UKPDS という大規模比較試験が行われて以来、糖尿病慢性合併症予防目的にてこれらの薬は用いられている。特にインスリン分泌が残存している2型糖尿病のインスリン非依存状態において有効である。2型であっても、重篤な感染症のようにインスリン需要の多い時、清涼飲料水ケトアシドーシス(ペットボトル症候群)のように分泌を上回るブドウ糖摂取がある時、周術期や妊娠などはインスリン治療が必要である。
インスリン分泌促進薬
インスリン分泌促進薬、SU薬とその関連薬

一般名血中半減期(hr)作用時間(hr)一日の使用量(mg)薬効(参考)
グリベンクラミド2.712?241.25?7.5強
グリクラジド6?126?2440?120弱い
グリメピリド1.56?121?6中、インスリン抵抗性改善作用あり

スルフォニル尿素薬(SU薬)には、比較的長い使用の歴史がある。抗生物質の開発中、副作用の低血糖が起きて、薬効が発見された。1950年代から使用されている。開発された順に第一世代、第二世代、第三世代と分類される。第一世代にはトルブタミドなど薬理学的には重要な薬物も含まれているが、近年新規に処方される薬はほとんど第二世代と第三世代なのでそれらを表にまとめた。

作用機序としては、膵臓ランゲルハンス島β細胞のSU受容体のSUR1サブユニットに結合しATP依存性Kチャネルを抑制することによってインスリン分泌を促進させる。SUは経口投与可能であり、肝臓で代謝される。おもな副作用はインスリン過剰分泌による低血糖である。したがって交感神経機能が障害されている患者、意識障害がある患者、低血糖を認識できない高齢者、低血糖に対して適切に対応できない患者は慎重投与する必要がある。また、グリベンクラミドおよびグリメピリドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。したがって、腎臓の機能低下が認められた場合、代謝物の活性が低いグリクラジドやミチグリニドカルシウム水和物、超持続型以外のインスリンの自己注射への変更を考慮していく必要がある。膵臓β細胞にグルコースを取り込んだ際のインスリン分泌機構(DPP-4阻害薬およびGLP-1作動薬については未記載)

SU薬は基本的にはインスリン基礎分泌を促進する薬であるため食前に低血糖を起こしやすく、インスリンの追加分泌を促進しないため、食後高血糖の管理が困難になりやすい。このため、平均血糖値を反映する指標であるHbA1c値のみで効果判定を行うと、コントロール良好であったにも関わらず心筋梗塞といった大血管障害が起こる可能性がある。インスリン分泌を高めることは同化反応を亢進させ、体重増加を起こしインスリン抵抗性を悪化させることもある。これも空腹時低血糖により過食となり食事療法が乱れた場合との区別が難しい。第三世代のグリメピリドは従来のSU薬が持つインスリン分泌作用のほかインスリン抵抗性改善作用があると考えられており、副作用による体重増加が少ない。そのため、空腹時低血糖による食事療法の乱れなども発見しやすく好まれる傾向がある。

2008年現在、SU薬は軽症糖尿病の場合はあまり用いられなくなっている。重症糖尿病の場合は、高血糖の持続がβ細胞の破壊という糖毒性を起こし、またインスリン抵抗性の悪化よりSU薬の効果がなくなる二次無効という現象が知られている。日本の場合、緩徐進行1型糖尿病 (slowly progressive IDDM) が多いため、抗GAD抗体測定といった精査が必要だが、2型糖尿病で二次無効ならば多剤併用療法を考慮する。

空腹時低血糖を起こしやすいため、そのような時間帯に悪心、強い空腹感、倦怠感、発汗、震えを感じたら食事療法関係なく、糖分の補給が必要であることの説明が必要である。α-GI併用時はブドウ糖を補給しなければ低血糖の治療にならないことに注意が必要である。空腹時低血糖は意識障害を招くだけでなく、虚血性心疾患や網膜症を増悪させる可能性がある。

かつての大規模比較試験UGDPではSU薬と虚血性心疾患の危険についての指摘があった。1976年、米国でSU薬のひとつであるトルブタミド(ジアベン)が心血管疾患による死亡率を増大すると報告された。この研究に対して批判も多かったが、その後クロルプロパミド(ダイアビニーズ)、グリベンクラミドなどを用いたいくつかの研究でその結果が確認されている。SU薬が、膵β細胞だけでなく心臓の動脈(冠動脈)にも作用し、心筋梗塞などの経過に悪影響を与えることが原因とする説がある。この考えに基づくと、グリメピリドやグリニド系の薬剤は心臓に作用し難いことが判っているので、これらはこの観点からは安全な薬剤と考えることもできる。あまり知られていないが、UKPDS34[注 1]ではメトホルミンとSU薬を併用することによって心血管イベントのリスクが増加するという指摘がある。大血管障害は食後血糖値が増加するといった血糖値の大きな振れが影響しているという説もあり、決着はついておらず次の大規模比較試験の報告によって解釈は変わり得ることに注意が必要である。糖尿病患者が心筋梗塞といった大血管障害を起こした場合、その原因が原疾患のコントロールの悪さによるものか、薬の副作用によるかは厳密には区別ができず、少なくとも医療過誤ではない。ガイドライン上も積極的に血糖値をコントロールすることが合併症の予防には効果があるとされている。
速効型インスリン分泌促進薬、フェニルアラニン誘導体(グリニド系

一般名血中半減期(hr)作用時間(hr)一日の使用量(mg)
ナテグリニド0.83270?360
ミチグリニドカルシウム水和物1.2330?60
レパグリニド1.05?80.75?3.0

フェニルアラニン誘導体(グリニド系)はSU構造は持たないものの、SU薬と同様に膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体(SUR1)に作用し、インスリン分泌を促進させる。食後は吸収が悪くなるので食直前に内服する。5-15分で薬効を発現し数時間で作用消失する。この、早く効いて早く効果が無くなるという点が、SU薬と大きく異なるところである。


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