細胞診断
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細胞診断(さいぼうしんだん)とは、細胞診検体を顕微鏡で観察し、異常細胞(異型細胞)等を検出することにより、病変の有無や病変部の病理学的診断や臨床診断を求めるもの。臨床検査の1分野であり、病理診断のひとつ。

細胞診(さいぼうしん)や細胞診検査(さいぼうしんけんさ)とも呼ばれるが、この場合は細胞検査士が行う検体検査病理学的検査という意味が含まれている。細胞診検査の結果に基づいて臨床医が判断する。異常細胞が見つかった場合は細胞診専門医病理専門医病理診断として報告する施設もある。

細胞診検体は採取が比較的容易、患者負担が少ない、特徴所見がある場合は病理組織診断に匹敵する確定診断を得ることができるなどの利点がある。がん検診や腫瘍診断等を目的に頻繁に行われている。

細胞診(cytology)は剥離細胞診(exofoliative cytology)と穿刺吸引細胞診(aspiration cytology)に大別されている。剥離細胞診は子宮頸部、膀胱など臓器表面から剥離した細胞を採取して調べるものであり腫瘍性病変有無のふるい分け(screening)等に用いられる。穿刺吸引細胞診は病変部に針を刺して吸引して得られた細胞を調べるもので、針先が病変部に達し新鮮な細胞が得られた場合は病変部の良性悪性等について推定することができる。

細胞診断の判定基準

細胞診検査結果を表すために従来はClass分類(パパニコロウ分類)が用いられてきた。近年は臓器毎に細かく定義された判定基準が用いられるようになってきており、Class分類は用いられない傾向にある。日本では細胞診検査または細胞診断の判定基準は各臓器の癌取扱い規約(金原出版)で定義されたものが用いられることが多い。臓器の特性や過去の症例を研究・解析した上で、臓器ごとに細胞診断の判定基準が決められ、利用されている。

子宮体癌取扱い規約(1996年3月 改訂第2版)
子宮腔内からの細胞採取法について記載があるのみで、判定基準の記載はない。

子宮頚癌取扱い規約(1997年10月 改訂第2版)
日母分類とベセスダシステムが記載されている。日母分類ではクラスI、II、III、IIIa、IIIb、IV、Vが定義されている。クラスIVは上皮内癌、クラスVは浸潤癌(微小浸潤癌を含む)を想定する、となっている。ベセスダシステムは標本の適否、総括診断、記述的診断の3つのパートから構成されている。

胃癌取扱い規約(1999年6月 第13版)
腹腔細胞診について記載がある。結果はCY0(陰性)、CY1(陽性)またはCYX(実施せず)として記載される。suspicious malignancy(悪性疑いの意味)はCY0(陰性)。

膀胱癌取扱い規約(2001年11月 第3版)、腎盂・尿管癌取扱い規約(2002年10月第2版)
評価は陰性、疑陽性、陽性の3段階を用いる。ClassI、IIを「陰性」、IIIを「疑陽性」、IV、Vを「陽性」と評価することになっている。

肺癌取扱い規約(2003年10月 改訂第6版)
(1)「陰性」 (2)「疑陽性」 (3)「陽性」の3つの区分を用い、Class分類は使用しない。標本上に組織球が認められない場合は「判定不能材料」とされる。

乳癌取扱い規約(2004年6月 第15版)、甲状腺癌取扱い規約(2005年9月 第6版)
判定区分と所見の2項目から構成されている。判定区分は検体が検査するために適しているかどうかの区分を含み、検体適正の場合にさらに「正常あるいは良性」「鑑別困難」「悪性の疑い」「悪性」の4つに区分される。各区分に対応する組織型または細胞所見などの基準が設けられている。

大腸癌取扱い規約(2006年3月 第7版)
腹水細胞診はI陰性 III疑陽性 V陽性と診断し陽性(V)のみをCy1とする。癌細胞を認めた場合がCy1、認めない場合はCy0である。Cy1の予後への影響は不明でありStageの因子には加えないとなっている。

このように臓器それぞれの癌取扱い規約により、クラス,Class,CY,Cy,陰性・疑陽性・陽性などが用いられ、細胞診結果の記載法は臓器ごとに異なっている。また、細胞診検体の適正や不適正などの標本の評価を判定区分に含む場合と含まない場合がある。

たとえば、尿細胞診で「陽性」であるとはClass IVを含む概念であり、したがって癌でない場合が含まれている。また、子宮頚癌では日母のクラスVは浸潤癌を想定しているのであって、陽性という意味ではない。一方、喀痰細胞診では「陽性」は悪性細胞を認めると定義されており、細胞診成績が「陽性」であるとは当該患者にとっては悪性腫瘍の診断となる。胃癌では腹腔細胞診での「陽性」は癌であることが確実でありCY1は腹膜転移ありと同等である。

したがって、細胞診結果または細胞診診断書を読む場合には、従来のClass分類を「陰性(ClassI,II)」「疑陽性(ClassIII,IIIa,IIIb)」「陽性(ClassIV,V)」に単純に置き換えたものか、臓器毎に定義された判定基準なのか、区別する必要がある。しかし、報告書紙面上ではどういった判定基準に基づいているかの記載はないことが多い。

患者が細胞診結果について医師から説明を受ける場合には、どのような判定基準にもとづく結果であるのかも説明を受ける必要がある。別の言い方をすれば、「細胞診が陽性です」と説明を受けても、臓器によって癌であることもあるし癌でないこともあるということになる。細胞診は検体採取が容易であり、精度が高い臨床検査ではあるが、患者にとって細胞診の結果はわかりにくいのである。似たような分類として組織診(生検)で用いられるGroup分類やCategory分類、マンモグラフィーのカテゴリ分類等もある。腫瘍についての検査の分類はひとつではなく、臓器ごと、検査ごとに結果の表現方法や意味が違うことを理解する必要がある。
Class判定 の例

細胞診検査報告書に記載されるClass判定については、施設ごとに定義されているといえるが、ここでは大手検査センターの総合検査案内(2004年度第1版第1刷、非売品)に掲載されているClass判定を紹介する。この分類はその検査センターで実施されている婦人科細胞診、一般細胞診(喀痰、擦過物、穿刺吸引物、捺印標本等)で用いられている判定基準である。I,IIを陰性、III,IIIa,IIIbを疑陽性、IIV,Vを陽性と読み換えることが可能であるとしている。カッコ内は投稿者による邦訳。ClassI:Abscence of atypical or abnormal cells.(異型または異常細胞がない)ClassII:Atypical cytology but no evidence of malignancy.(異型細胞があるが悪性所見はない)ClassIII:Cytology suggestive of, but not conclusive for malignancy.(細胞学的に悪性を疑うが確定的ではない)ClassIIIa:Probaby benign atypia.(おそらく良性異型)ClassIIIb:Malignacy suspected.(悪性を疑う)ClassIV:Cytology strongly suggestive of malignacy.(細胞学的に強く悪性を疑う)ClassV:Cytology conclusive for malignancy.(細胞学的に悪性が確定的である)

子宮頚部の細胞診で用いられている日母分類(日本母性保護産婦人科医会の分類)ではクラスIIIaは「軽度dysplasiaを想定する」、クラスIIIbは「高度dysplasiaを想定する」、クラスIVは「上皮内癌を想定する」などが定義されている。同じIIIbであってもClassIIIbとクラスIIIbでは意味が異なっている。

日本産婦人科医会は第17回記者懇談会(H20.12.10)で子宮頸癌の新しい細胞診報告様式(ベセスダシステムまたは医会分類)を発表した[1]。子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の知見を反映し、標本不適正に対応したものである。クラス分類を廃し記述式用語による細胞診の結果報告となっている。

細胞診検体の評価としてClass0(目的とする細胞が標本上にない)、ClassX(挫滅等のため細胞観察が困難)を判定区分に加え、検査したが細胞診検体が観察するのに適しておらず結果判定に至らなかった場合を表現している施設もある。

陰性、疑陽性、陽性による判定基準の例

陰性、疑陽性、陽性を用いた報告では、たとえば次のような細胞診所見で判定基準が定義されている。細胞診の判定基準は上記の説明にもあるように、施設ごと、臓器ごとに異なるので、各自の健康問題に関しては、医療機関に相談する必要がある。

判定:陰性(negative)細胞診所見:異型細胞を見ない。異型細胞はあるが悪性細胞をみない。

判定:疑陽性(suspicious)細胞診所見:境界病変。異型細胞をみるが悪性の確定はできない。

判定:陽性(positive)細胞診所見:極めて強く悪性を疑う。上皮内癌を推定する。


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