細胞核
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細胞生物学
典型的な動物細胞の構成要素:
核小体

細胞核

リボソーム (5の一部として点で示す)

小胞

粗面小胞体

ゴルジ体 (またはゴルジ装置)

細胞骨格 (微小管, アクチンフィラメント, 中間径フィラメント)

滑面小胞体

ミトコンドリア

液胞

細胞質基質 (細胞小器官を含む液体。これを元に細胞質は構成される)

リソソーム

中心体

典型的な細胞核の構成要素:
核膜

リボソーム

核膜孔

核小体

クロマチン

細胞核

小胞体

核質

細胞核(さいぼうかく、: cell nucleus)とは、真核生物細胞を構成する細胞小器官のひとつ。細胞の遺伝情報の保存と伝達を行い、ほぼすべての細胞に存在する。通常は単にということが多い。

細胞核は細胞の遺伝物質の大部分を含んでおり、複数の長い直鎖状のDNA分子がさまざまな種類のタンパク質 (ヒストンなど) と複合体を形成することで、染色体が形成されている。これらの染色体の内部の遺伝子が核ゲノムを構成しており、細胞の機能を促進するよう構造化されている。核は遺伝子の完全性を維持し、遺伝子発現の調節により細胞の活動を制御する。すなわち、核は細胞のコントロールセンターである。核を作り上げている主要な構造は核膜と核マトリックス(英語版)である。核膜は核全体を包む2層の脂質二重膜で、その内容物を細胞質から分離している。核マトリックス (核ラミナもこれに含まれる) は核内部のネットワーク構造で、細胞を支える細胞骨格のように、核構造の機械的支持を行っている。

巨大な分子は核膜を透過できないので、核膜を越える輸送の調節には核膜孔が必要とされる。孔は二重膜を貫通しており、膜輸送体による能動輸送を必要とする巨大分子が通過するためのチャネルとなっている一方、低分子やイオンは自由に移動する。タンパク質やRNAなどの巨大分子の孔を通っての移動は、遺伝子発現と染色体の維持の両方のプロセスに必要とされる。核の内部には膜結合性の小区画は存在しないが、その内容物が一様であるわけではなく、特定のタンパク質、RNA分子、染色体の特定の部分から構成される、多数の核内構造体が存在する。最もよく知られているのは核小体で、主にリボソームの組み立てに関与している。リボソームは核小体で合成された後、細胞質へ輸送されてmRNA翻訳を行う。
歴史細胞と細胞核を描いた最古の例とされるアントニ・ファン・レーウェンフックによる描画、1719年。1882年に出版された、ヴァルター・フレミングによるユスリカ唾液腺細胞の描画。核には多糸染色体が含まれている。

核は最初に発見された細胞小器官である。現存する最古の描画はおそらく、初期の顕微鏡学者であったアントニ・ファン・レーウェンフック (1632?1723) によるものである。彼はサケ赤血球細胞の中に lumen を観察した[1]。哺乳類とは異なり、他の脊椎動物の赤血球は核を持っている。

また、核はオーストリアの植物画家フランツ・バウアーによって1802年[2]または1804年[3]に記載された。イギリス植物学者ロバート・ブラウン(Robert Brown、1773年12月21日 - 1858年6月10日)により1831年に再発見され、ロンドン・リンネ協会で発表された。ブラウンは顕微鏡下でランの研究をしている際、花の外層の細胞に不透明な領域を発見し、それをareolaまたはnucleusと名付けた[4]

ブラウンはその領域の機能については示唆しなかったが、1838年にマティアス・ヤーコプ・シュライデンは、核が細胞を生成する役割を持つと提唱し、"cytoblast"という名称を導入した。彼は、新しい細胞が"cytoblast"の周辺に集まっているのを観察したと信じていた。フランツ・ユリウス・フェルディナント・マイエンはこの見方の強固な反対者で、細胞が分裂によって増殖することをすでに記述しており、多くの細胞は核を持たないと信じていた。"cytoblast"か何かによって細胞が「新たに」生じるという考えは、「全ての細胞は細胞から生じる」("Omnis cellula e cellula") という新たなパラダイムを決定的に広めた、ロベルト・レーマク (1852) とルドルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ (1855) の業績とも矛盾していた。核の機能は依然不明なままであった[5]

1877年から1878年の間に、オスカー・ヘルトヴィヒ(英語版)はウニの卵の孵化に関するいくつかの研究を発表し、精子の核が卵母細胞に進入し、その核と融合することを示した。これは、個体が1個の有核細胞から発生することを初めて示唆したものであった。またこれは、種の系統発生は胚の発生中に完全に反復され、原始的な粘液体 ("Urschleim") の構造化されていない塊 ("monerula") から最初の有核細胞が発生する、としていたエルンスト・ヘッケルの理論と矛盾するものであった。しかし、ヘルトヴィヒは両生類軟体動物など、他の動物群を用いて自身の観察を確証した。エドゥアルト・シュトラスブルガーは、1884年に植物でも同じ結果を得た。ここから、遺伝における重要な役割を核へ割り当てる道が開かれた。1873年にアウグスト・ヴァイスマンは、遺伝に関しては母系と父系の生殖細胞が等価であると予想した。核の遺伝情報の保持機能は、有糸分裂が発見され、メンデルの法則が20世紀の初めに再発見されるまで明らかにされなかった。その後、遺伝の染色体説が発展した[5]
構造ヘキスト染色によって核のDNAが染色されたHeLa細胞。中央と右の細胞は間期にあり、核全体が標識されている。左の細胞は有糸分裂の最中であり、DNAが濃縮している。

通常、核は細胞に1つある(例外は後述)。核は動物細胞で最大の細胞小器官である[6]。哺乳類の細胞では、核の直径は約 6 μm であり、細胞の総体積の約10%を占める[7]。核の内部の粘性の液体は核質と呼ばれ、その組成は核外の細胞質基質と類似している[8]。外観は、濃密で球形または不定形の細胞小器官である。ある種の白血球細胞、特に顆粒球では、核には切れ込み (lobation) が入っており、二裂、三裂、または多数に分裂した形で存在する。

また、核内には1つ以上の核小体がある。細胞の他の部分(細胞質)とは、核膜と呼ばれる2層の脂質二重膜によって隔てられており、核と細胞質間で物質輸送が行われるときには、核膜に空いた多くの穴(核膜孔)を通って行われる場合が多い。核内には遺伝情報であるDNAのほか、核タンパク質、RNA(リボ核酸)が含まれており、DNAの遺伝情報は核でRNAに転写される。細胞分裂時には、核内のDNAは凝縮し、染色体と呼ばれる棒状の構造をとり、細胞分裂後の2つの細胞に分かれて移動する。このとき、核の表面は二重の核膜で包まれる。その後、それぞれの細胞では、再び核が形成され、染色体が消失、DNAが核内に広がる。

核内には、糸状に連なったDNA分子が結合蛋白質と複合体を構成しながら散らばっており、クロマチン(chromatin)あるいは染色質と呼ばれる。染色質の名前は、ヘマトキシリン染色などの染色を施した細胞を光学顕微鏡で観察すると、核内が濃く染色されることに由来する。クロマチンは大きく2種類に分けられる。

ユークロマチン(euchromatin)、あるいは真正染色質 - RNA転写活性が高く、DNAがよく広がり、多種の蛋白質と共存する部位

ヘテロクロマチン(heterochromatin)、あるいは異質染色質 - 遺伝子発現が不活性化され、DNAと結合蛋白質の複合体は凝集されたままの状態になっている部位

核膜と核膜孔詳細は「核膜」および「核膜孔」を参照真核生物の細胞核。リボソーム Ribosomes が点在する核膜 Nuclear envelope の二重の脂質膜、DNA (クロマチン Chromatin)、核小体 Nucleolus が示されている。核の内部は核質 Nucleoplasm と呼ばれる、核外の細胞質基質と似た粘性の液体である。核膜表面の核膜孔の断面図。(1) 核膜、(2) outer ring、(3) スポーク、(4) 核バスケット、(5) 細胞質フィラメント。

核膜は、内膜と外膜の2層の脂質二重膜によって構成される。内膜と外膜は互いに平行で 10?50 nm 離れている。核膜は核を完全に包んで細胞質から遺伝物質を分離するとともに、高分子が核質と細胞質の間を自由に拡散することを防ぐ障壁の役割を果たしている[9]。外膜は粗面小胞体の膜と連続しており、粗面小胞体膜と同様にリボソームが点在している[9]。内膜と外膜の間の領域は perinuclear space と呼ばれ、粗面小胞体内腔と連続している。

核膜孔は核膜を通過するチャネルである。複数のタンパク質から構成されており、それらはヌクレオポリンと総称されている。核膜孔はおよそ 125 MDa で、約50 (酵母) から 数百 (脊椎動物) のタンパク質で構成されている[6]。孔の直径は約 100 nm であるが、孔の中心部には調節システムが位置しているため、分子が自由に拡散する間隙は約 9 nm の幅しかない。このサイズ選択性のため、水溶性の低分子は通過できる一方、核酸やタンパク質などの巨大な分子は不適切な出入りが防がれており、核内外への輸送は能動的になされる必要がある。典型的な哺乳類細胞の核膜には約3000から4000の核膜孔があり[10]、内膜と外膜が融合する地点のそれぞれに8回対称のリング状の構造が存在している[11]。そのリングから核質側へは核バスケット (nuclear basket) と呼ばれる構造が突出しており、細胞質側へは一連のフィラメントが伸びている。両方の構造が核輸送タンパク質の結合に関与している[6]

ほとんどのタンパク質、リボソームのサブユニット、そしていくつかのDNAは、カリオフェリンとして知られる輸送因子ファミリーによって、核膜孔複合体を通って輸送される。核内への移動を媒介するカリオフェリンはインポーチン、核外への移動を媒介するものはエクスポーチンと呼ばれる。ほとんどのカリオフェリンはその積み荷 (cargo) と直接相互作用するが、いくつかのものはアダプタータンパク質を利用する[12]コルチゾールアルドステロンのようなステロイドホルモンや、細胞間シグナル伝達に関与する他の脂溶性低分子は細胞膜を通過して細胞質へ拡散するが、そこで核内受容体に結合し核へと輸送される。核内受容体はリガンドが結合時には転写因子として機能し、リガンドがないときには、その多くが遺伝子発現を抑制するヒストン脱アセチル化酵素として機能する[6]
核ラミナ詳細は「核ラミナ」を参照

動物細胞では、2種類の中間径フィラメントのネットワークによって核は機械的に支持されている。核ラミナは核膜の内側にメッシュ状に組織されたネットワークを形成しており、細胞質側は比較的組織されていない。両方のシステムが核膜の機械的支持や、染色体や核膜孔のアンカー部位として機能している[7]

核ラミナの大部分はラミンタンパク質で構成されている。他の全てのタンパク質と同様、ラミンは細胞質で合成される。その後、核の内部へ輸送され、そこで重合して既存の核ラミナのネットワークに組み込まれる[13][14]。核ラミナは核膜内側のエメリン、細胞質側のネスプリン(英語版)などを介して細胞骨格と連結されている[15]。ラミンは核質の内部にも見つかり、核質ヴェール (nucleoplasmic veil) として知られる、蛍光顕微鏡で観察可能な別の構造を形成している[16]。このヴェールの機能は不明だが、核小体からは排除されており、細胞周期間期に存在する[17]


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