細胞性粘菌
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真正粘菌(変形菌)」あるいは「原生粘菌」とは異なります。

この項目では、広義の細胞性粘菌について説明しています。モデル生物として一般的な細胞性粘菌の1群については「タマホコリカビ類」をご覧ください。
キイロタマホコリカビ (タマホコリカビ目) の偽変形体 (ナメクジ体) と累積子実体

細胞性粘菌 (さいぼうせいねんきん、: cellular slime molds) とは、生活環の中に、単細胞アメーバ細胞である時期と、その集合によって子実体 (胞子を形成・散布する構造) を形成する時期をもつ生物の一般名である。変形菌 (真正粘菌) に類似するが、細胞性粘菌におけるアメーバ細胞の集合体では、変形菌の変形体とは異なり個々の細胞の独立性が保たれている。そのため、この細胞の集合体は偽変形体 (ぎへんけいたい、pseudoplasmodium, pl. pseudoplasmodia) ともよばれる。また形成される子実体も、独立した細胞が積み重なってできている点で変形菌の子実体とは異なる。このような細胞性粘菌の子実体は、累積子実体 (るいせきしじつたい、ソロカルプ sorocarp) とよばれる。このように生活環を通じて個々の細胞の独立性が保たれているため、「細胞性」粘菌とよばれる。また累積子実体を形成することから、このような生物は sorocarpic amoebae ともよばれる[1][2]。古くは、無遊子類とよばれたこともある[3]

細胞性粘菌は、古くは菌類に分類され、広義の変形菌門 (粘菌) のアクラシス綱 (学名: Acrasiomycetes) にまとめられることが多かった。またアクラシス綱は、タマホコリカビ目アクラシス目に分けられていた[注 1]。しかし2020年現在では、細胞性粘菌(広義のアクラシス綱)は、系統的に縁遠い生物をまとめた多系統群であることが明らかとなっている。つまり累積子実体の形成という特徴は、真核生物の中で独立に何度も進化したと考えられている。そのため、現在では「細胞性粘菌」は分類群名として用いられることはない。ただし、モデル生物として広く用いられているタマホコリカビ類、特にその中の1種であるキイロタマホコリカビを指す一般名として、「細胞性粘菌」という語が現在でも広く使われている。そのため、「細胞性粘菌」についての記述がタマホコリカビ類またはキイロタマホコリカビのみを意味しており、他の細胞性粘菌に当てはまらないこともある[7]
特徴キイロタマホコリカビ (タマホコリカビ目) における細胞集合

細胞性粘菌は、その生活環の中に、単細胞アメーバ細胞である時期と、胞子形成・散布をする子実体である時期をもつ[1][2][4][5][8][9][10][11]。この点では、細胞性粘菌は変形菌 (真正粘菌)に類似している。しかし、アメーバ細胞から子実体が形成される過程は、両者の間で大きく異なる。変形菌は、アメーバ細胞の融合の後に細胞質分裂を伴わない核分裂を繰り返し、多核の大型細胞である変形体を形成する[12]。一方、細胞性粘菌では、子実体形成時にアメーバ細胞が集合するが (aggregation)、このとき細胞は融合せず、個々の細胞の独立性は保たれている[1][2][8][13] (右図、下図)。そのため、細胞性粘菌のアメーバ集合体は、変形体ではなく偽変形体とよばれる[5][9][11][13]。また変形菌変形体として比較的長い期間を過ごし、摂食して大きく成長するのに対して、細胞性粘菌の細胞の集合体 (偽変形体) は子実体形成時の一時的な構造であり、微小(数 mm 以下)である。細胞性粘菌では、集合物質 (集合フェロモン) を分泌することで細胞が集合するが (右図)、このような物質はアクラシン (acrasin) と総称される (物質として同定されているのはタマホコリカビ類の一部に限られる)[1][2]

変形菌子実体は、単一の多核細胞である変形体から形成される[12]。一方、細胞性粘菌では、細胞の集合体 (偽変形体) がそのまま、共通の粘液質に包まれた状態で個々の細胞が細胞壁を形成し、全体が子実体となる[1][2][4][5][9][10][11] (下図)。このような細胞性粘菌の子実体は、累積子実体 (ソロカルプ) ともよばれる[1][8][9]。細胞性粘菌の子実体は、基本的に柄 (stalk, stipe) と胞子塊 (sorus) からなるが、このような分化が不明瞭な種もいる (例:コプロミクサ属)[1][2]。柄はふつう細胞からなるが、柄が非細胞性である種もいる (例:エツキタマホコリ属、フォンチクラ属)[1][2][11]。また、柄を構成する細胞が発芽能をもつ場合と、もたない場合がある (下記参照)。子実体になる前の段階の、胞子塊となる細胞の集合体は sorogen ともよばれる。胞子は、風や水、動物によって散布される[1][11]。散布された胞子は好適な場所で発芽し、アメーバ細胞を生じる[1][9]タマホコリカビ属 (タマホコリカビ目) の生活環:細胞性粘菌は、胞子から発芽 (上) したアメーバ細胞が細菌などを捕食し、二分裂して増殖する (右上)。ある条件下でアメーバ細胞が集合するが (右)、集合体内では各細胞は融合せず独立している。集合体 (偽変形体; 右下から下) は累積子実体 (左) を形成し、胞子 (左上) を散布する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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