紡錘体チェックポイント
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細胞周期の段階。紡錘体チェックポイントはM期に位置する。前中期から後期にかけての細胞周期の進行

紡錘体チェックポイント(ぼうすいたいチェックポイント、: spindle checkpoint)は、有糸分裂または減数分裂において、複製された各染色体紡錘体に正しく接着する(後期)まで染色体の分離を防ぐ、細胞周期チェックポイントである。スピンドルチェックポイント、紡錘体(スピンドル)形成チェックポイント(: spindle assembly checkpoint、略称: SAC)、有糸分裂チェックポイント(: mitotic checkpoint)とも呼ばれる。適切な染色体分離(英語版)を行うためには、姉妹染色分体上の2つのキネトコアはそれぞれ反対側の紡錘体極と接着していなければならない[1]。この接着パターンのときのみ、各娘細胞が染色体の1つのコピーを受け取ることが保証される。このチェックポイントの生化学的特徴はM期サイクリン/CDK複合体による後期促進複合体の刺激であり、これによってサイクリンや姉妹染色分体をつなぎとめているタンパク質の分解が引き起こされる[2]
概要と重要性

中期の開始は、染色体のキネトコアへの微小管の連結と、細胞の中央部への染色体の整列によって特徴づけられる。各染色分体にはキネトコアが存在し、姉妹染色分体の各キネトコアに結合した微小管はそれぞれ細胞の反対側の極から発したものである。これらの微小管は染色体を細胞の両側の極へ引っ張る力を発生させるが、姉妹染色分体間の接着がこの力に対抗する。

中期から後期への移行段階では、この姉妹染色分体間の接着は解消され、分離された染色分体は紡錘体微小管によって細胞の両側の極へと引っ張られる。染色分体は紡錘体極の物理的な移動によってもさらに分離される。未成熟な段階で染色分体の分離が起こると、染色体の誤分離と娘細胞での染色体の異数性が引き起こされる可能性がある。そのため、中期でのチェックポイントは、染色体が適切に接着するまで後期への移行を防ぐ役割を果たす。

細胞の同一性と適切な機能を維持するためには、各細胞分裂後に適切な染色体の数が維持される必要がある。染色体数が正常よりも少ないまたは多い娘細胞が形成されるエラー(異数性と呼ばれる)が生じた場合、最善の場合には細胞死が引き起こされるが、壊滅的な表現型が生じる可能性もある[3][4]

がん細胞では異数性は頻繁にみられる現象であり、これらの細胞では染色体分離に関与する装置や分離の適切な遂行を保証する機構に欠陥が存在することを示している。

ヒトのダウン症候群では親の減数分裂時の染色体分離の欠陥の結果、子の細胞は21番染色体の余剰コピーを有している。減数分裂時の欠陥によって余剰の21番染色体を持つ配偶子が形成され、この配偶子が受精後に21番染色体を3コピー持つを形成する。

発見染色体がDAPIで染色された2つの細胞の顕微鏡像。左の細胞は後期、右の細胞は中期の段階である。右の細胞では、ほとんどの染色体は中期板に位置しているが、一部はまだ整列していない。

Zirkleは、染色体の中期板への到着が1本でも遅れると、後期の開始はその到着の数分後まで引き伸ばされることを1970年に最初に観察した研究者の1人である[5]。この観察や同様の観察からは、中期から後期への移行段階には何らかの制御機構が存在することが示唆された。ノコダゾール(英語版)やコルヒチンなどの薬剤を用いることで、紡錘体は解体され細胞周期は中期から後期への移行が防がれた[6]。推定される制御機構はSpindle Assembly Checkpoint(SAC)と名付けられ、以降精力的な研究が行われている[7]

さまざまなタイプの遺伝学的研究により、紡錘体の脱重合[8][9]、2つのセントロメアを持つ染色体の存在[10]、セントロメアの異常な分離[11]出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでの紡錘体極の欠陥[12]、キネトコアタンパク質の欠陥[13]、セントロメアDNAの変異[14]、有糸分裂で機能する分子モーターの欠陥[8]など、多様な種類の欠陥がSACを活性化することが明らかにされている[15]

Zirkle[5]は自身の観察に基づき、細胞が後期へ進行するために必要な一部の物質がC(最後の染色体が中期板に到着するタイミング)の数分後、もしくはCと同時または直後の細胞質環境の劇的な変化の後に出現することを提唱し、この機能は紡錘体に接着していないキネトコア上で行われることを示唆した。McIntoshはこの提案を拡張し、張力に対して感受性のある酵素がセントロメアに位置しており、姉妹染色分体に双方の極からの張力が発生していないときには後期の開始の阻害因子を産生していることを示唆した[16]。事実、この「後期に入るのを待て」というシグナルはその大部分が未接着のキネトコア上またはそれに近接した領域で産生されていることをデータは示唆していた[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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