紙の月
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紙の月
著者
角田光代
発行日2012年2月29日
発行元角川春樹事務所
ジャンルサスペンス
日本
言語日本語
形態四六判上製
ページ数320
コードISBN 978-4-75841190-5
ISBN 978-4-75843845-2文庫本

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『紙の月』(かみのつき)は、角田光代による日本サスペンス小説
概要

学芸通信社の配信により『静岡新聞』2007年9月から2008年4月まで連載され、『河北新報』『函館新聞』『大分合同新聞』など地方紙に順次連載された。

著者の角田はこの作品を執筆する際、普通の恋愛では無い、歪なかたちでしか成り立つことのできない恋愛を書こうと決めていたが[1]、実際のニュースで銀行員の女性が使い込みをしたという事件を調べると、大抵が“男性に対して貢ぐ”という形になっていることに違和感を覚えた[2]。そして、“お金を介在してしか恋愛ができなかった”という能動的な女性を描きたいという思いが湧き上がったと話している[2]

2012年、第25回柴田錬三郎賞を受賞[3]

2014年に原田知世主演でテレビドラマ化。同年11月15日には宮沢りえ主演で映画化もされた。映画公開初週の2014年11月24日オリコン週間本ランキングで前週の週間売上3.6万部を上回り本作最高売上の5.8万部を記録し、登場10週目にして初めて1位となった。その時点で文庫本累積売上は24.5万部となった。[4]
あらすじ

バブル崩壊直後の1994年。夫と二人暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている。細やかな気配りや丁寧な仕事ぶりによって顧客からの信頼を得て、上司からの評価も高い。何不自由のない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心が薄い夫との間には、空虚感が漂いはじめていた。そんなある日、梨花は年下の大学生、光太と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初はたった1万円を借りただけだったが、その日から彼女の金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、暴走を始める。
登場人物
梅澤 梨花(うめざわ りか)〔旧姓:垣本(かきもと)〕
主人公。父親は
神奈川県下に数十軒の店舗をもつ家具店「アトラス」の経営者で、幼稚園からエスカレーター式の私立・M女子学園[注釈 1]に通い、ピアノとバレエを習い、週末になるとオーダーメイドの服を着て都心まで食事に行ったり夏は軽井沢の別荘で過ごしたりするなど経済的に恵まれた家庭で育つ。子供の頃から化粧をしたり流行りの髪型にしているわけでもないのに人目をパッとひく、おろしたての石鹸のような美しさで大人びていた。いじめられている人や教師にも分け隔てなく誰にでも屈託なく話しかけるような明るい性格。成績は良かったが、神奈川県のはずれに校舎がある東京の短大に進んだ。この頃、実家の家具店は事業を縮小。車や別荘も手放していた。卒業後カード会社に就職するが、1986年、25歳の時に正文と結婚して退職、主婦業に専念する。結婚当初は世田谷の賃貸マンションに住んでいたが、結婚3年目の1989年、横浜市緑区長津田の建て売り住宅に引っ越す。中條亜紀に勧められ、1990年6月からわかば銀行すずかけ台支店の営業職にパートタイマーとして入職。1994年、証券外務員特別会員二種に合格し、その年の2月から営業のフルタイマーとなる。
梅澤 正文(うめざわ まさふみ)
梨花より2歳年上の夫。食品会社の販売促進部に勤務しており、梨花とは1年弱の交際を経て結婚。言葉数は少ないが、穏やかで優しい。実家は埼玉にある。1997年、会社が上海に食品加工工場を建設し、そのプロジェクトの責任者補者に抜擢されたため、2年間上海で単身赴任することになる。
平林 孝三(ひらばやし こうぞう)
梨花の顧客のひとり。70代半ばの老人。10年ほど前に妻を亡くし、息子と娘はそれぞれに家庭をもって地方で暮らしているため、つきみ野の住宅街にある百坪ほどの敷地・瓦屋根の二階建て住宅に1人で住んでいる。梨花が資格を取得した時にお祝いにブランドのネックレスを送ってきたり、銀行の取引に関係なく梨花を休みの日に呼び出したり誘ってくるため、厄介な客を現す支店内の隠語である”クロちゃん”と呼ばれるようになった。ただし、誘いを断っても機嫌が悪くなったり取引をやめたりはしない。週に3日ほど通いの家政婦がやってくる。
平林 光太(ひらばやし こうた)
孝三の孫。「国公立は落ちたが六大学には現役で入れるほど成績は良く、高校は進学校の中でもトップクラスだ」と孝三は言っていたが、実はもう留年が決まっている4年生。家庭教師とカラオケ屋のバイトをかけもちしながら、サークルに所属して映画を制作している。孝三の家で梨花と初めて顔を合わせた時に名刺をもらい、後日に梨花を誘って付き合うようになる。感情をすぐわかりやすく表に出すタイプだが、それを梨花は愛おしく感じている。
山之内(やまのうち)
梨花の顧客の夫妻。九州に転勤になっている息子夫婦がおり、孫も生まれた。孫のために定期預金しようと梨花を呼ぶ。
名護 たま江(なご たまえ)
梨花がパートタイマーだった頃からの顧客。藤が丘で一人暮らし。ボケ始めており、誰かが夜中にこっそり入ってくるからと印鑑と通帳を梨花に預ける。3年前に夫に先立たれてから娘2人とは疎遠。遺産でもめたと思われる。
田辺 智恵子(たなべ ちえこ)
いつも梨花の訪問を心待ちにしている一人暮らしの70歳を迎えたばかりの老女。息子は海外で暮らしている。梨花が偽の証書を渡す。
仁志 まどか(にし まどか)
光太の新しい恋人。髪をポニーテールに結っており、まだ子供のようにも見える22歳。光太がかつて通っていた大学の英文学科に在籍している。京王線仙川駅から徒歩10分のアパートに下宿している。
井上(いのうえ)
梨花の銀行の上司。
佐倉(さくら)
梨花とさほど年齢が変わらない男性行員。梨花がフルタイマーになってから同行するようになったが、週に1-2回は姿を見せず、梨花ひとりに営業を任せる。
羽山(はやま)
「日本にいられないようなこと」をして、2か月前に格安チケットでバンコクに来たという丸顔の男。22,3歳に見えるが学生ではないらしい。カップルと一緒に行動している。タイで梨花に初めて声をかけてきた日本人。
中條 亜紀(ちゅうじょう あき)
出版社で働く40歳のキャリアウーマン。M女子学園卒業後は四大まで進み、編集プロダクションに勤めている時に結婚。娘・沙織をもうけたが、7年前、34歳の時に自身の金遣いが原因で離婚し、親権は夫の伸義にとられてしまったため、現在は結婚当初に伸義が購入した2LDKのマンションに月々のローン7万円弱を払ってひとり暮らしをしている。離婚後はいくつもパートをかけもちした後、タウン誌を作っている編集プロダクションで契約社員として働き、その後出版社に転職した。買い物依存症で借金もある。沙織とは「亜紀ちゃん」「サオリン」と呼び合い、友達のような関係を築いているつもりでいるが、実は贅沢な物を与えたり、高級な場所に連れていったりと、お金を介してでしか娘との関係が築けない。梨花とは同じ学園出身ながら当時は特別話すこともなく、大人になってから料理教室で再会して友人となった。梨花のことは大人びた外見に反して子供っぽく、何一つ自分では決められない人だと思っている。
前田 曜子(まえだ ようこ)
亜紀と何度も仕事をしたことがある女性に人気のコラムニスト。辛口の文章を書くが、実際はおっとりした32歳の女性。
岡崎 木綿子(おかざき ゆうこ)〔旧姓:小田(おだ)〕
梨花とM女子学園中学3年・高校2年3年の時のクラスメイト。卒業後は都内の飯田橋の大学に進学した。現在は結婚して10年目の主婦で、真一(しんいち)という夫とちかげという娘がいる。節約につとめ、毎日自転車を走らせて安売りのスーパーをはしごする。学生時代のボランティア活動の一件で、梨花のことは「正義の人」だと思っている。
佐藤 奈緒美(さとう なおみ)〔旧姓:岸元(きしもと)〕
真ん丸い顔で背が低い。梨花が指名手配されたとき、木綿子に真っ先に電話をかけてきた。
堤 潔子(つつみ きよこ)〔旧姓:山本(やまもと)〕
木綿子が7年ぶりに参加したM女子学園の同窓会で受付をしていた。
山田 和貴(やまだ かずき)
梨花と20年以上前、学生の頃につきあっていた元彼。現在はサラリーマンで食品会社の商品管理部に勤めており、妻・牧子(まきこ)と8歳の由真(ゆま)、5歳の賢人(けんと)と共に暮らす既婚者だが、10年前に営業部にいた頃に指導をしていた自分よりひとまわり年下で30代前半の木崎睦実(きざきむつみ)と不倫をしている。妻はそれに気づいており、和貴が毎夜風呂に入っている間に鞄や携帯やスケジュール帳をチェックされているが、それは黙認している。睦実がドライなため、楽ではない関係になったらいつでも切ろうと思っていたが、妻に暗に甲斐性が無いことを責められるようになってからはやすらぎを求め、和貴の方が離れられないでいる。
山田 牧子(やまだ まきこ)
和貴の妻。10年前までは父が会社を経営していたためかなり裕福で、大田区の一等地に二百坪の庭がある家に住み、軽井沢と伊豆高原に別荘をもつほどだったが、和貴と出会ったときにはすでに父は亡くなり、世田谷の築30年を超えるマンションに住んでいた。由真の進学が近づいた頃から、何か機会を見つけては自分の過去と子どもたちの現在を執拗に比べるようになった。
書評

文芸評論家の池上冬樹は、「淡々とした日常の生活がいかに危ういもので、人はいつ犯罪に走ってもおかしくない。むしろ罪をおかさないで生きていることがあたかも僥倖であるかのように思えてしまうくらい、喚起力に富んだ濃密な描写が圧倒的である。」と述べた[5]。また、本作の主人公は女性であるが、「女の傷口やほんの少しの違和感を、実に巧妙に丁寧にえぐっている。[6]」「自分とはかけ離れた人物が主人公であり、私なら若い男のために横領をするわけがないと思うのに、まるで心の奥底に隠している自分を描かれているような気がしてきて、泣けてくる。[7]」といった共感のコメントが同性の読者の声として上がっている。精神科医の斎藤環はその、「日常のリアルな描写がこのミステリーを支えており、不倫や犯罪には共感できずとも、こうした描写が“刺さる”読者は、男女を問わず少なくないはず」と分析[8]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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