紅麹
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ベニコウジカビ
ベニコウジカビを繁殖させた米(紅麹
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:菌界 Fungi
:子嚢菌門 Ascomycota
:ユーロチウム菌綱 Eurotiomycetes
:モナスカス科 Monascaceae
:モナスカス属 Monascus
:ベニコウジカビM. purpureus

学名
Monascus purpureus
Went (1895)

ベニコウジカビ(紅麹黴、学名:Monascus purpureus)は糸状菌の一種である。
概要

M.purpureus、M.pilosus、M.ruberなど、モナスカス属でデンプン質食品(主に米)を発酵させたものを紅麹と呼び、古くから中国台湾および沖縄において、紅酒や豆腐ようなどの発酵食品に利用されている[1][2]

また、着色料「ベニコウジ色素」の製造にも利用されているが、これはベニコウジカビを液体培養法を用いて培養し、色素のみを抽出したもので、食品衛生法では「紅麹」とは異なるものと定義されている。

1979年、日本の遠藤章によってM. rubber、M. pilosus、M. pubigerusなど、一部のMonascas属の菌株が生産する物質が血清コレステロール降下作用を示すことが示され、モナコリンK (Monacolin K) と名付けられた[3]。このモナコリンKは海外で医薬品として血清コレステロール降下薬として認められているロバスタチンと同一のものである。このロバスタチンは、日本国内ではモナコリンKの特許のため非承認だったが、コレステロールを下げる画期的な薬(スタチン系第1世代)として1987年に上市され、幅広く使われた。

食品として古くから用いられてきたため、安全だと考えられてきたが、カビ毒シトリニンを産生する菌株も存在する[4]ことが1994年に判明した。中国などで主に使われているM. purpureus株や、台湾などで主に使われているM.anka株(沖縄の「豆腐よう」にも使われている株で、分類上はM.purpreusに含まれるとするのが日本では2000年代以降は一般的)には、微量ながらシトリニンを生成するものも存在するが、日本で主に利用されているM. pilosus株はシトリニン産生遺伝子が存在しないことが分かっている。

天然色素として美しい色が出る上に、健康にも良いので、中国・台湾・日本などでは幅広く利用されているが、微量ながらカビ毒を生成する種もあるので、紅麹の食品としての利用実績がない国では、ベニコウジカビの食品利用自体が禁止されている所もある。食材としての紅麹におけるシトリニンの含有量は微量であり、健康被害の報告は存在しないが、「紅麹を濃縮した」と称する「紅麹サプリ」に関しては、EUでは紅麹サプリに含有されたシトリニンが原因と疑われる健康被害が報告されている。またコレステロール値を下げるロバスタチン(モナコリンK)に関しても、高含有モナコリンKを謳った「紅麹サプリ」が存在しており、摂取しすぎると横紋筋融解症などの副作用を引き起こす懸念があるので、注意が必要である。
食材(紅麹)として自家製の紅酒

紅麹の文献上の初出は唐代の『初学記』(728年)であるが、『洛陽伽藍記』(5世紀)にも「紅酒」の記述が存在することから、更に昔から利用されてきたと考えられている。『日用本草』(1329年)には薬効の記載があり、「血行を良くする」とある。

また、紅麹は生成物としてGABAも多く含んでおり、血圧降下作用を持つ[5]ことから健康食品としても注目を集め様々に利用されている[6]

主なメーカーとしては、小林製薬などがある。1985年にグンゼがM. pilosus株を用いた「紅麹」の量産に成功し、2016年に小林製薬がその事業を継承した。紅麹として使用する紅麹菌の固体培養は、ベニコウジ色素に利用する紅麹菌の液体培養と比べて、工程が複雑で、培養に時間がかかる(通常は20-30日で、小林製薬は40-50日くらいかけている[7])。加えて、紅麹菌は成長が遅いので、培地に先に他の菌が増殖してしまうコンタミネーションが起きやすい。そのため、量産が難しく、メーカーは少ない。
着色料として

Monascus属が生産する赤色色素(紅麹色素またはモナスカス色素と呼ばれる)は古くから天然の着色料として利用されている[1]。主要成分はアンカフラビン(: Ankaflavin)およびモナスコルブリン(: Monascorubrin)などのブテノリドである。

1976年に赤色2号の発がん性が報告されたことにより、食用タール色素のイメージが悪化すると同時に天然色素のイメージが向上したことと、1980年代に紅麹菌の液体培養による量産技術が確立したことにより、ベニコウジ色素の利用が増加した。古典的な製法ではパンくずや米・麦・大豆などに固体培養した紅麹菌をそのまま乾燥・粉砕して粉末にするが、工業的な製法では液体培養された紅麹菌を濾過、濃縮、エチルアルコールなどを加えて色素のみを抽出する。液体培養だと1週間くらいで培養できる上に、品質が安定している。

日本においては、食品衛生法に基づいた食品添加物「ベニコウジ色素」として利用されている。液体培養のみが認められているなど、食品衛生法では「紅麹」と異なる規制がかけられている。1985年頃の時点では主にかまぼこなどの練り製品などに用いられる[8]程度だったが、その後は日本人の嗜好に合った菌種の開発や大量生産などが行われ、綺麗なピンク色の出る色素として幅広く利用されるようになっている。

紅麹には、実は黄色の色素も含まれており、工業的にそれだけ抽出することも可能で、食品添加物「ベニコウジ黄色素」として別に定められている。

主なメーカーとしては、ヤヱガキ醗酵技研グリコ栄養食品(モナスカラー)、理研ビタミン(リケカラー)などがある。2023年度の国内出荷量は約1200トンで[9]、全量が国内生産である。かつては色素生産性に優れたM.anka株が主に使われていたが、M.ankaはカビ毒シトリニンを生成する株があることが1990年代に解ったため、現在(第10版)の厚生労働省による食品添加物公定書では「Monascus pilosus 及び Monascus purpureus に限る」とされている。なお、台湾では2023年現在も「Monascus purpureus またはMonascus ankaの生成物」が使われている[10]。M.anka株およびM. purpureus株は微量ながらカビ毒シトリニンを生成するものもあるが、紅麹から色素のみを抽出するので、「ベニコウジ色素」においてはシトリニンは含まれない(少なくとも検出限界を下回っている)。

また、これとは別に、古典的な製法の「紅麹粉末」を販売しているメーカーもある。個体培養は培養に時間がかかるので、着色料として使う目的ではコスパが悪いが、パンや、桜餅などの和菓子と相性が良いので、製菓材料などとして主に使われている。

ベニコウジ色素が利用されている国は、日本と、中国、韓国、台湾である。EUおよびアメリカでは利用が禁止されている。当地では利用実績がなく、ポジティブリストに載っていないからで、危険性があるからというわけではない。厚生労働省の2014年の調査によると、ベニコウジ色素はクチナシ色素・ベニバナ色素とともに、日本では食紅として広範囲に使用されているにもかかわらず、海外の多くの国では利用が許可されておらず、日本の食品を海外に輸出する際のハードルになっていることから[11]、2016年5月に日本政府が発表した「農林水産業の輸出力強化戦略」に基づき、内閣官房および農水省などの各省庁では在外公館やJETROなどを通じて各国に働きかけを行っている。
「紅麹サプリ」の危険性

いわゆる「健康食品」をサプリメントとして利用する場合、成分を濃縮する際に重金属など意図せぬ成分が濃縮される恐れがある。特にベニコウジカビのいくつかの種は、シトリニンという動物に対し毒性のある物質を産生しており、シトリニンがサプリメント等の製品に極微量ではあるが混入していることを懸念する声もある[12]

紅麹を原材料とするサプリメントによる健康被害は、2014年頃から既にヨーロッパで報告されており、日本でも2014年3月、食品安全委員会が「紅麹を由来とするサプリメントに注意」とする注意喚起を行っていた。欧州連合(EU)は、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質であるシトリニンのサプリメント中の基準値を設定したほか、フランスでは摂取前に医師に相談するように注意喚起しており、スイスでは紅麹を成分とする製品は、食品としても薬品としても売買は違法とされていた[13][14]

アメリカでも「紅麹サプリ」が販売されているが、紅麹に含まれるロバスタチン(モナコリンK)は、コレステロールを下げると同時に急性腎不全につながる横紋筋融解症を発症することから、「栄養補助食品」ではなく「医薬品」としての規制を受け、高ロバスタチン含有製品の流通は禁止されている[15]


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