精神保健
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年齢別の治療受給率(OECD6カ国の平均)[1]18-24歳25-34歳35-44歳45-54歳55-64歳
罹患率23%20%20%21%20%
治療受給率8%11%14%16%17%
(オーストリー、豪州、デンマーク、ノルウェー、米国、英国)

WHO World Mental Health Surveyによる 12ヶ月有病割合
(各国サンプリング調査、2001-2003年)[2]不安障害気分障害衝動制御障害物質乱用総計
コロンビア10.0%6.8%3.9%2.8%17.8%
メキシコ6.8%4.8%1.3%2.5%12.2%
米国18.2%9.6%6.8%3.8%26.4%
ベルギー6.9%6.2%1.0%1.2%12.0%
フランス12%8.5%1.4%0.7%18.4%
ドイツ6.2%3.6%0.3%1.1%9.1%
イタリア5.8%3.8%0.3%0.1%8.2%
オランダ8.8%6.9%1.3%3.0%14.9%
スペイン5.9%4.9%0.5%0.3%9.2%
ウクライナ7.1%9.1%3.2%6.4%20.5%
日本5.3%3.2%1.0%1.7%8.8%
中国(北京)3.2%2.5%2.6%2.6%9.1%
中国(上海)2.4%1.7%0.7%0.5%4.3%

メンタルヘルス(: mental health)は、精神面における健康のことである。精神的健康(せいしんてきけんこう)、心の健康(こころのけんこう)、精神保健(せいしんほけん)、精神衛生(せいしんえいせい)などと称され、主に精神的な疲労、ストレス、悩みなどの軽減や緩和とそれへのサポート、メンタルヘルス対策、あるいは精神保健医療のように精神障害の予防と回復を目的とした場面で使われる。

世界保健機関による精神的健康の定義は、精神障害でないだけでなく、自身の可能性を実現し、共同体に実りあるよう貢献して、十全にあることだとしている[3]。精神的健康は、基本的人権であり、それを最大限に享受するという狙いから精神保健法が制定される[4]。それら法においては、精神障害を人権に配慮して治療し、また予防し、そして社会共同体の中へと回復し、精神的健康を維持し増進していくことがその方法として宣言されている。

精神障害は生産性低下・病欠・失職を引き起こす大きな社会的負担であり、任意の時点で常に成人人口の10%、軽?中等症では就業年齢人口の15%が罹患している[5][6]経済協力開発機構(OECD)は精神的健康に関わる直接的・間接的コストはGDPの4%以上と推定しているが、しかし未だ多くの国の医療制度において重点が低い現状であり、精神医療サービスの成果や質を正確に把握できていないと述べている[6]
概要

世界の疾病負荷(WHO、2019年)[7]順位疾病DALYs
(万)DALYs
(%)DALYs
(10万人当たり)
1新生児疾患20,182.18.02,618
2虚血性心疾患18,084.77.12,346
3脳卒中13,942.95.51,809
4下気道感染症10,565.24.21,371
5下痢性疾患7,931.13.11,029
6交通事故7,911.63.11,026
7COPD7,398.12.9960
8糖尿病7,041.12.8913
9結核6,602.42.6857
10先天異常5,179.72.0672
11背中と首の痛み4,653.21.8604
12うつ病性障害4,635.91.8601
13肝硬変4,279.81.7555
14気管、気管支、肺がん4,137.81.6537
15腎臓病4,057.11.6526
16HIV / AIDS4,014.71.6521
17その他の難聴3,947.71.6512
18墜死3,821.61.5496
19マラリア3,339.81.3433
20裸眼の屈折異常3,198.11.3415
歴史については「精神保健の歴史」を参照

世界保健機関(WHO)によって、障害調整生命年(DALY)のうち、精神障害が占める割合が大きいことが報告されて以来、その対策の必要性が大きく唱えられることとなった[8]。精神的な健康は、著しい苦痛や生活の機能において障害をもたらす段階になった場合、精神障害であると診断されうる[9]

各国は、精神科医臨床心理士精神保健福祉士といった精神保健専門家(英語版)(Mental health professional)を育成する仕組みを持ち、その対策にあたっている。例えば、世界保健機関による人権に根差したメンタルヘルスケアに関する『精神保健ケア法10原則[10]は、言い換えると精神保健福祉法は、基本的人権として精神的な健康の増進があり、そのための治療も人権に配慮すべきであるという原則をまとめたものである。

世界保健機関による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(IDC-10)で定義される範囲は、「精神および行動の障害 (Mental and behavioural disorders)」であり、そこには、アルツハイマー型認知症のような認知機能の問題から、依存症のような薬物関連障害、または統合失調症やうつ病のような精神障害が含まれている[11]

つまり、精神的な健康を保ち、薬物依存症のような不適切で有害なストレス対処法に陥らず、また認知能力を維持していくことは、福祉領域における関心ごとである。ただし、精神的な変調はストレスだけを原因とするものでもないため、甲状腺機能低下症の症状や、統合失調症パーソナリティ障害、また医薬品による物質関連障害であったりもする[12]。うつ病とストレスばかりが強調され、適切な診断の鑑別がなされないまま、うつ病であるかどうかも定かではない状態に対して多剤大量処方がなされるという問題もまた、福祉領域の別の関心ごとである。

予防の面では、適切なストレスの対処法を覚え、精神面において肯定的な状態を増進していくことや、認知機能を維持していくことは、よりよい十全な健康の実現に欠かせないことである。そしてまた、理性と感情が葛藤し合うというようなまだ精神的に不健康な状態よりは、人間的成熟を目指していくということが必要であろう[13]。また、自然とのふれあいも重要であり[14]、幸福と健康の双方においては社会的なつながりも重要である[15]
定義
世界保健機関

Mental health is not just the absence of mental disorder. It is defined as a state of well-being in which every individual realizes his or her own potential, can cope with the normal stresses of life, can work productively and fruitfully, and is able to make a contribution to her or his community.
精神的健康とは、単に精神障害でないということではない。それは、一人一人が彼または彼女自らの可能性を実現し、人生における普通のストレスに対処でき、生産的にまた実り多く働くことができ、彼または彼女の共同体に貢献することができるという、十全にある状態であると定義されている。 ? 
世界保健機関、2007、引用文の出所[3]

世界保健機関の世界保健機関憲章前文には「健康」の定義があり、単に病気ではないだけでないとし、達成しうる水準の健康を共有することは基本的人権であるとしている[16]。そして平和と安全の基礎となるとしている[16]

さらに憲章には目的として、第1条において人々が可能な限りの健康水準に達することを宣言しており、第2条の機関の任務における各種の宣言において、その(m)項では、精神的健康(Mental health)、特に人間関係の調和に焦点を当てることを宣言している[16]

最良の健康に到達することが基本的人権であるため、世界保健機関の目的とするところでもあるということである。それは精神的な健康においてもである。

さらには、1999年には憲章の健康の定義に、身体、精神だけでなく、スピリチュアルにも健康であることを追加するという提案がなされ賛成過多であったが[17]、現行の憲章で適切に機能しているということで採用には至らなかった[18]
日本の精神保健福祉法

日本の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律においては、第1条に目的が示され、国民の「精神保健」を向上させるという狙いのために、精神障害者における医療と保護、生活とまた社会復帰と自立の促進に必要な支援、また発生を予防し、国民の「精神的健康」を保持し、増進すると宣言されている。


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