界:動物界 Animalia
門:ミクソゾア門 Myxozoa
綱:粘液胞子虫綱 Myxosporea
目
双殻目 Bivalvulida
多殻目 Multivalvulida
粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう、学名:Myxosporea)は、ミクソゾア門に属する顕微鏡的大きさの寄生虫からなる綱である。水棲無脊椎動物と脊椎動物の2つの宿主の間を交替する複雑な生活環を持っており、特に魚類に対して産業上深刻な影響を与える種が多く知られている。魚類以外では環形動物、扁形動物、は虫類、両生類、モグラなどからも見付かっている。無脊椎動物を宿主とする時期について、かつては別個の生物だと考えて放線胞子虫(ほうせんほうしちゅう)と呼ばれていた。
なお、この群はかつては胞子虫類という群に所属していたが、現在ではこの群は解体されている。 粘液胞子虫は殻(殻弁、shell valve)に囲まれた複数の細胞からなる胞子で特徴づけられる。胞子の細胞は、アメーバ様の感染性生殖細胞である胞子原形質 (sporoplasm) と、刺胞に似た極嚢 (polar capsule) からなる。 2つの宿主からは粘液胞子と放線胞子という形の大きく異なる胞子が放出される。この2種類の胞子は形状が非常に異なっているため、1980年代まではミクソゾア門に属する異なる綱の生物の胞子だと考えられていた。魚類の病原体として注目されてきた経緯から、単に胞子といった場合は粘液胞子のことを指していることが多い。
目次
1 胞子の形態
1.1 粘液胞子
1.2 放線胞子
2 生活環
2.1 粘液胞子期
2.2 放線胞子期
3 分類
4 系統
5 魚病
6 脚注
7 参考文献
胞子の形態
粘液胞子 ニシマアジ
粘液胞子虫の種は脊椎動物宿主から放出される粘液胞子の大きさと形態で定義されるのが普通である。例えば Ceratomyxa 属は多くの魚種の胆嚢でよく見付かる寄生虫だが、これはブーメラン形の胞子の中央に目のような2つの極嚢がある。粘液胞子のほとんどは10 μmから20 μmの大きさだが、Myxidium giganticum は最大で98 μmの長さになる。貯蔵多糖としてβ-グリコーゲンの粒子を中央のヨード胞 (iodinophillous vacuole) に蓄積する種がある。
胞子の殻は縫合線に沿って接着した殻細胞からなる。殻は丈夫な非ケラチン質のタンパク質でできている。殻の形態は多様で、表面が滑らかだったりデコボコだったり、側面に翼状の突起が出ていたり、粘液に包まれていたりする。これらはおそらく水中において胞子の浮力を増し、拡散を助けるための適応であろう。 放線胞子は、環形動物の貧毛類や多毛類から放出され、典型的なものでは3つまたは4つの釣り針を根本で束ねたような形状をしている。Myxobolus cerebralis 1980年代までは粘液胞子虫が魚類から魚類へ直接伝播すると考えられていたが、感染実験は成功せず、粘液胞子虫の胞子は感染能を獲得するまでに水中で数ヶ月を要するのだと説明されていた。しかしWolfとMarkiwはニジマスの旋回病
放線胞子
生活環
そこで粘液胞子虫は一般的には貧毛類と魚類の2つの宿主を必要としていると考えられている。有性生殖についての知見が乏しいので、魚類と貧毛類のどちらが終宿主かははっきりせず、両方を交互宿主と呼んでいる。Ceratomyxa shasta は、放線胞子世代の宿主として多毛類を使っていることが示されている。一方で、魚類から魚類への直接伝播も可能性がないわけではなく、これまでのところ Enteromyxum 属の3種、Myxidium 属の2種、Kudoa ovivora などで示唆されている。
以降は生活環の詳細を、唯一完全に解明されている M. cerebralis の例に基づいて記述する。 魚類が感染ミミズを捕食するか、水中を浮遊している放線胞子
粘液胞子期
粘液胞子の形成は宿主の特定の組織で起きる(M. cerebralis の場合は軟骨)ことが多い。胞子形成組織に到達すると、外側の一次細胞は大きく肥大して多核の変形体になり、内側の二次細胞は盛んに分裂する。その後2つの二次細胞が対になり、一方が他方を飲み込むようにしてパンスポロブラスト(汎胞子細胞、pansporoblast)になる。パンスポロブラストの外側の細胞は1回分裂して2つの胞子殻細胞となるのに対し、内側の細胞は2回分裂して4細胞を生じ、2つが極嚢に、残り2つは融合して2核の胞子原形質になる。成熟した粘液胞子はいずれ環境中に放出され、これが環形動物に感染して放線胞子期に移る。
種によっては胞子形成組織以外で爆発的な増殖を行い、宿主に対して大きなダメージを与えるものもある。 粘液胞子は環形動物の消化管で極糸を放出し、殻が開いて胞子原形質が上皮細胞に侵入する。胞子原形質は核が2つとも有糸分裂を繰り返して多核体になり、多分裂により多数の単核の細胞を生じ、これを繰り返す。 その後2細胞が融合して有糸分裂を経て4核の細胞が生じ、これが4細胞からなるパンスポロシストになる。2細胞は外側を覆う体細胞、残りの2細胞は生殖細胞でここでは仮にα・βと呼ぶことにする。生殖細胞は3回分裂して合計16個の配偶子細胞を生じ、これがさらに減数分裂を行って極体を放出する。その後α由来の配偶子細胞とβ由来の配偶子細胞が接合して8つの接合子が生じる。少なくとも M. cerebralis の場合、これが生活環中で見られる唯一の有性生殖である。この間に外側の体細胞は2回分裂するので、最終的にパンスポロシストは8つの接合子を8つの体細胞が包んでいる形になる。 それぞれの接合子は2回分裂して4細胞になり、このうち3つは1回分裂して極嚢細胞と殻細胞とになり、残った1細胞は何回も細胞分裂を繰り返して胞子原形質になる。極嚢細胞と胞子原形質が殻に包まれると放線胞子が完成する。放線胞子は感染後90日程度で生じ、環境中ではおよそ2週間程度の寿命を持っていると考えられている。 元来、放線胞子虫と粘液胞子虫は胞子の形態に基づいて分類されていた。しかし粘液胞子虫と放線胞子虫が同じ生物の異なる発育段階であることがわかると、同じ生物に2つの学名が存在したり、粘液胞子虫として同属と考えられた生物が放線胞子虫としては異なる属に含められていたり、といった混乱が生じた。 これを解決するために、Kent et al. (1994) はミクソゾア門を再定義し、放線胞子虫綱
放線胞子期
分類
従来は粘液胞子の形態に基づいて分類されていたが、分子系統解析によればほとんどの分類群が多系統的であり、生物の系統を反映していないことが明らかになっている。特にMyxidium 属や Sphaerospora 属は明らかに多系統である。これまでに得られている情報では、例外はあるものの海産と淡水産とで大きく2つの系統に分かれること、胞子の形態よりも感染部位などのほうがよりよく系統を反映しているらしいことが言われている。ここでは従来用いられている慣用的な体系を示すが、今後とくに双殻目は大規模な再編が必要になると思われる。
粘液胞子虫綱 Class Myxosporea
双殻目 Order Bivalvulida - 胞子の殻が2つ
Suborder Variisporina - 腔内寄生性のものが多い(双極類 Bipolarina + 広胞子虫類 Eurysporina)