籌算
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籌算(ちゅうさん、拡張新字体・: ?算)とは、算木: ?、算、策[1][2])と呼ばれる一組の棒を用いる一種の器具代数術。布の盤(算盤)上に算木を並べて行ったことから布算ともいう[3]。中国のほか朝鮮半島や日本をはじめとする漢字文化圏で広く利用された。

中国において籌算は戦国時代から行われていた。論証的な幾何学を重視する古代ギリシアの数学と比べて、官僚が広大な土地を統治するために必要な実用数学を重んじるのが中国数学の特徴であり、数値計算と代数の分野で特に発達していた[1][3]。その基礎となったのが算木による計算術である。実際、中国文化圏における数学体系の基盤となった『九章算術』(紀元前1世紀ごろ)や類似の数学書は、具体的な問題と籌算による解法という形式で書かれていた[3]:53。宋代から元代に至って、朱世傑の4元高次連立方程式に代表される高度な数学が発展したのも籌算の役割が大きかった。しかし13世紀ごろ、実用的な計算をより早く容易に実行できる算盤(そろばん)が普及したことで廃れた。升目が描かれた日本の算盤永楽大典に収められた籌算法の解説。
器具

籌算は基本的に一組の算木算盤(さんばん)を用いて行われる。『漢書』律暦志では算木を径3 mm、長さ16 cmほどの丸い竹棒だとしている。271本の算木を束にすると、ちょうど手の中に納まるサイズの六角形となるという。また算木は長さや重さの計量に転用されることもあった[4]:80。『隋書』律暦志によれば長さ8 cm、幅6 mmの角棒である[5]。また獣骨製もあり、裕福な商人は象牙と翡翠で作られたものを用いることもあった。算木を並べるための算盤は升目が区切られた布製のものが用いられた(後代は紙製)[2][3]

1971年、陝西省千陽県で発掘を行っていた中国人の考古学者が、保存状態の良い前漢代(紀元前206年 - 8年)の獣骨製算木が絹袋(籌嚢)に入っているのを発見した[6]:47。1975年には竹製の算木が発掘された。前漢より古い時代の算木は発見されていないが、文献資料からは、今から2200年以上前の戦国時代にはすでに籌算法が開花していたことが明らかになっている。

籌算を行うには45項目からなる単純な10進乗算表、すなわち九九表(en:Chinese multiplication table)を覚えていなければならない。中国では春秋時代から九九表は知られており、児童、商人、官僚、数学者らは一様に九九を暗記してきた。
算木数字
数の表示

算木数字は単一の記号(棒)を配置することであらゆる十進数(分数・小数を含む)を表現する唯一の数字表記体系である。1の位に作られた算木数字は、1から5までは1本の縦棒がそれぞれ数1を表す。縦棒が2本なら数2を表し、3本以降も同様である[7]。6から9までの数を表すには二五進法が用いられ、縦棒の上に置かれた横棒が数5を意味する。下の表に1から9までの数を表す。下段は横棒を基本とした別の表記法である。この表記法は数書『孫子算経』(3 - 5世紀)に解説されていたものである[4]

0から9までの算木数字0123456789
縦式
横式


231
数231の算木表記
紛らわしい置き方

棒の向きで桁を表す方法

9より大きい数は十進法によって表される。1の位の左隣に作られた算木数字は、それに10をかけた数を表す。さらに左隣の升は100の位を表し、そこに作られた算木数字は100をかけた数を表す。これ以降も同様である。数231を表すには、右図の上段に示すように、1の位に縦棒を1本置いて1とし、10の位に縦棒を3本置いて30とし、100の位に縦棒を2本置いて200とし、合計して231とする。

籌算は升目のない盤上で行われることが多い。このため、右図の中段のように縦式の算木数字2、3、1を続けて置くと、数231ではなく53や24と間違えられる可能性がある。このような混乱を避けるため、算木数字をいくつか続けて置くときには、右図の最下段に示すように、縦式と横式の表示法を交互に用いる。ただし1の位は必ず縦式とする[1][8]
ゼロの表示

算盤上ではアラビア数字のようなゼロ記号は用いられず、升目を空白にすることで数0および位取りのための0を表した[7]。右図に表された算木数字「873190783」では、1000の位が空白となっている。記号「〇」をゼロの意味で用いる習慣は宋・元のころに始まった[1]。南宋時代に書かれた『数書九章』が記号「〇」を用いた最古の文献記録である[4]
正負の数

世界で初めて負数が導入されたのは中国数学であった[1]:20。前漢代の数学者は算木の種類によって正負の数を表していた。赤い算木を正、黒い算木を負とする方法や、断面が三角の算木を正、正方形のものを負とする方法がある[4]:101。そのほか、劉徽による『九章算術』の注釈には、右の図のように、最小位に斜めに算木を置くことで負の数を表す方法が記されている[9]。宋代になると、印刷された数書や筆算で負数を表す場合に赤字や斜線が用いられた[4]
小数

孫子算経』には小数を用いた計量法が記載されている。基本の長さ単位はであり、それより小さい単位が以下のように続く。1尺 = 10、1寸 = 10、1分 = 10、1厘 = 10、1毛 = 10、1糸 = 10

「1尺2寸3分4厘5毛6糸7忽」の長さを算盤上に表すと以下のようになる。


ここでは の位が単位長さである尺を表している。

南宋期の数学者秦九韶は長さの計量以外にも小数を適用した。秦の著書『数書九章』では、「1.1446154日」が



と表されている。単位の位は下に「日」の字をつけることで示される[10]
基本的な計算法
加算

籌算は加法原理と親和性が高い。アラビア数字と異なり、算木数字の各桁を表している棒は加法性を持っている。加算を行うには棒を機械的に動かすだけでよく、1桁の数の加法を暗記する必要はない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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