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(2023年9月)
筋電図(きんでんず、electromyography - EMG)とは、筋肉で発生する微弱な電場の変化を検出して、縦軸に電位、横軸を時間をとって図にしたものである。広義には普通筋電図、神経伝導速度、反復誘発筋電図、反復誘発筋電図、表面筋電図、単線維筋電図、体性感覚誘発電位(SEP)、聴覚脳幹誘発電位(BAEP、ABR)、視覚誘発電位(VEP)、運動誘発電位(MEP)などを含める。例えば、神経筋疾患の補助診断法の1つとして用いる。 針筋電図では針電極を用いて運動単位の状態を評価することができる。運動単位とは脊髄前角細胞および運動性脳神経核であるα運動神経とそれにより支配される骨格筋の筋線維からなる。骨格筋には持続的な運動に適した遅筋である赤筋(タイプT)と素早い運動に適した速筋である白筋(タイプU)の2種類に分かれる。白筋はタイプUAとUBのふたつに分かれ、UAはUBとTの中間型である。支配する筋肉のタイプに合わせて運動単位もS型、FR型、FF型の3タイプに分類される。一つの運動単位に属する筋線維の生理学的および生化学的性質は均一であり、一つの運動単位に属する筋線維は、他の運動単位に属する筋線維と互いに交錯して配列している。あるα運動線維が興奮するとその活動電位は支配筋線維全てをほぼ同時期に脱分極させる。同期して発生した筋線維活動電位を加重したものをMUP(運動単位電位)という。MUPの電位の大きさは神経支配比を反映している。四肢筋など大きな運動単位は大きなMUPを形成し、外眼筋や顔面筋は小さなMUPを形成する。MUPの数は収縮力を反映する。ごく弱い随意収縮では同一波形のMUPが繰り返し現れ、収縮を強めるとその発生頻度は増加し、別のMUPが参加してくる。活動に参加する運動単位が増加する現象を動員(recruitment、リクルートメント)という。収縮のはじめの段階では興奮域値が小さい小型のニューロン(S型)が発射し、収縮力が増強するに従い大型のニューロン(FR型やFF型)も動員される。弛緩する場合は域値の高い大きな運動単位から順に活動を停止していく。これをサイズの原理という。 運動単位の性質S型FR型FF型 針筋電図は安静時、弱?中等随意収縮、最大随意収縮の3つの状態に対して施行する場合が多い。筋電図は通常、波形、持続時間、振幅、放電頻度であらわされる。検出する所見の違いにのため、安静時所見、随意収縮所見、最大収縮所見でそれぞれ記録条件が異なる。安静時所見を得る場合は振幅は50μV/1cmで紙送りは10ms/1cmであり、随意収縮では振幅は1mV/1cmで紙送りは10ms/1cm、最大収縮では振幅は1mV/1cmで紙送りは0.1s/1cmであることが多い。MUPの振幅は筋肉毎に異なり、顔面筋、舌筋、胸鎖乳突筋2mV程度であるがその他の筋肉では4mV程度である。 安静時所見には刺入時活動と自発性活動に分けられる。正常骨格筋の場合は安静時は電気的に静止している。機械的刺激や損傷が認められた場合は刺入時活動が認められる。刺入時活動は通常は電極が動いている間のみに認められ、持続時間は通常100?300msであるとされている。電極の動きが止まっても筋の活動電位が続く状態を異常刺入時活動という。 項目線維自発電位陽性鋭波
針筋電図
針筋電図の理論的背景
収縮速度遅い速い速い
疲労度極難難易
運動ニューロンサイズ小中大
神経支配比小中大
リクルートメント域値低中高
筋線維タイプTUAUB
酸化酵素 NADH-TR高中?高低
解糖酵素 phosphorylase低高高
針筋電図の検査の手順
安静時所見
異常刺入時活動
異常刺入時活動とは電極の動きが止まっても筋の活動電位が続く状態である。筋線維の興奮性ないし被刺激性が異常に高いことを示す。脱神経筋、ミオトニー
終板活動(end-plate activity)
電極を終板帯近くで動かす時、終板スパイク(end-plate spike)と終板雑音(end-plate noise)という2種類の電位が記録されることがある。両者は同時に記録されることが多く、合わせて終板活動といわれることがある。終板スパイクは痛みと筋痙縮を伴うもので初期相陰性の二相性活動電位である。振幅は100?200μV、持続2?3ms、頻度は5?50Hzであり、スピーカー上は機関銃発射音に似た高い調子の一様な速い連続音を呈する。筋内神経終末を記録電極が機械的に刺激することで数本の筋線維が発射したためと考えられている。神経電位ともいう。終板スパイクは時として線維自発電位と誤認されることがある。放電パターンが不規則であること、波形が陰性-陽性の二相波であることから区別可能である。しばしば初期陽性の三相波を示すがリズムから区別可能である。終板雑音は基線の不規則な揺れを呈する低電位の高頻度不規則な陰性電位であり、低い調子で貝殻を混ぜるようなザーとしたホワイトノイズである。振幅は10?100μV、持続は1?2msである。終板雑音は終板部で自然に放出されているアセチルコリンによる脱分極、すなわち微小終板電位を細胞外から記録したものと考えられている。しばしば終板スパイクの背景として同時に記録される。
脱神経電位(denervation potential)
脱神経電位には線維自発電位(fibrillation potential、Fib)と陽性鋭波(positive sharp wave、PSW)の2種類が知られている。両者は単独で出現することもあるが、相まって出現することの方が多く、病的意義は共通していると考えられている。脱神経電位を示す病態は各種下位ニューロン障害、筋線維の変性、壊死、分裂などがあげられる。脱神経が起こると軸索の終末分枝が脱神経2?3日後から退化しはじめ、1週間ほどで消失する。終末が消失すると終板に限局していたAch受容体が2?3日終板外にもあらわれるようになり、1週間ほどで筋線維膜全体がAchに高い感受性を示すようになる。脱神経後数時間より静止膜電位が低下し始め、約二週間の経過で15?20mV低下する。この膜電位の低下が膜電位の波動性動揺を起こし、電位が発火レベルに達すると活動電位が生じ、線維攣縮が起こる。これが線維自発電位であり、活動電流が筋線維から周辺の伝導性組織に広がっていく過程を記録したのが陽性鋭波と考えられている。脱神経電位の出現量は脱神経の程度の強さを反映していると考えられている。初期は刺入時異常活動としての陽性鋭波、その後単一波形連続型となり、多種脱神経電位混在型、干渉を伴う重度脱神経型となる。線維自発電位は持続1?5ms、振幅20?500μVで、通常陽性の振れに始まる三相性の波形を呈し、シャープな音がする。針電極が終板近くに刺入されたときは初期相が陰性の二相性波形になることがある。神経と連絡が途絶えたときに終板から始まる単一筋線維の異常興奮である。線維自発電位は同一の筋線維による比較的規則正しい放電で1秒間に1?30回のものが多い。「規則正しい」とは放電間隔等間隔、またはゆるやかな漸増、漸減のパターンを呈することを示す。陽性鋭波は急峻な陽性の電位に続いて緩徐で持続の長い陰性電位がみられるもので、陰性相は陽性相より振幅が小さいが持続が長いため、全体で鋸の歯を思わせる波形になる。陽性鋭波は針電極の刺入に伴って起こることが多いが自発放電もあり、ほぼ一定の間隔で規則的に放電する。陰性棘波が認められないのは針電極が筋膜損傷部にあり、この位置では活動電位が停止するためと考えられている。この電位は線維自発電位と同様、単一筋線維の自然放電に伴って認められる。診断的意義も線維自発電位と同様である。
波形初期陽性相を伴う二、三相性の波形鋸歯状で二相性の波形
持続0.5?3ms10?200ms
振幅20?300μV20?1000μV
放電頻度2?20Hz2?20Hz
スピーカートタン屋根に落ちる細かい雨の音雷の音
ミオトニー放電(myotonic discharge)
ミオトニー
偽ミオトニー放電(pseudomyotonic discharge)
臨床的にミオトニーを伴わず、ミオトニー放電を認める場合は偽ミオトニー放電という。放電持続時間が0.4?10sと変動が大きい以外、ミオトニー放電と筋電図所見に差異が認められないため、筋電図での区別は不可能である。甲状腺機能低下症、筋炎、各種ミオパチーや筋ジストロフィーといった筋原性疾患や頚椎症、多発神経炎、筋萎縮性側索硬化症などでも認められる。
奇異性高頻度放電(bizarre high frequency discharge)
偽ミオトニー放電の亜型と考えられることもあるが、ミオトニー放電、偽ミオトニー放電とともに高頻度放電のひとつの形態として分類されている。別名は複合反復放電(complex repetitive discharge)、ミオトニー様放電。波形が多相性、複雑で漸増、漸減が目だたず、突然現れ、突然消える点が特徴的である。放電頻度は10?100Hz、放電持続時間は1s?3minである。当初は筋炎に特異的とされたが、その後様々な筋原性疾患、下位ニューロン障害が認められる神経原性疾患で認めることが判明した。
線維束電位(fasciculation potentaial)
線維束攣縮