竜巻
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850ヘクトパスカルを記録した竜巻通過時の気圧変化。わずか数十秒間で100ヘクトパスカルもの急激な低下が起こり、すぐに元に戻った。アメリカ サウスダコタ州 マンチェスター、2003年6月24日(PD US NOAA)5分程の短命で小規模な竜巻の漏斗雲を捉えた早送り動画。アメリカ コロラド州、2018年

竜巻(たつまき、英語ドイツ語スペイン語:Tornado)は、積乱雲の下で雲から地上へと細長く延びる高速な渦巻き状の上昇気流。トルネードとも呼ばれる。ハリケーン台風と混同されやすいが、それらとは全く異なる。

竜の字があてられることが一般的であるが、1930年代新聞記事では旧字体を用いて龍巻とする例も見受けられる[1]
概要

突風の一種で、規模が小さく寿命が短い割に、猛烈なを伴うのが特徴。地上で強い竜巻が発生すると、暴風によって森林建物などに甚大な被害をもたらすことがあり、災害をもたらす典型的な気象現象の一つとされている。竜巻の水平規模は平均で直径数十メートル、大規模なものでは直径数百メートルから千メートル以上に及ぶ。その中心部では猛烈なが吹き、ときには鉄筋コンクリート鉄骨の建物をも一瞬で崩壊させ、人間を含む動物植物、大型の自動車なども空中に巻き上げてしまうことがある。1ヶ所に停滞するものもあるが、多くは積乱雲と共に移動する。その移動速度は様々で、まれに100キロメートル毎時を超えることもある。

竜巻は、台風熱帯低気圧温帯低気圧に比べてはるかに局地的であるため、気象観測施設上を通過することが希であり、中心の気圧を実測した例はほとんどない。わずかな観測例から、中規模のもので950ヘクトパスカル程度と考えられる。なお、F4規模のトルネードでは、2003年アメリカサウスダコタ州において850ヘクトパスカルの観測報告がある(右図参照)[2]
竜巻の定義と種類「漏斗雲」も参照多重渦竜巻、1957年 アメリカ テキサス州 ダラス水上竜巻、2005年7月 アメリカ フロリダ州 プンタゴルダ雷を伴う、珍しい逆回転性の竜巻。

竜巻とは、発達した積乱雲で上昇気流を伴う高速の渦巻きが発生し、それが地上付近にまで伸びたものだとされる。気象庁の定義は「激しい空気の渦巻で、大きな積乱雲の底から漏斗状に雲が垂れ下がり、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴う[3]」。

なお、研究機関によっては、気流の渦巻きが地面に接していないものは竜巻に含めない場合がある。「地面に接したもの」というのは、目に見える漏斗雲が地面に接したものという意味ではなく、目に見えなくても気流の渦巻きが地面に達したものを意味する。そのため、この定義において、竜巻でないのは「空中竜巻」のみであり、「陸上竜巻」などは竜巻に含まれる。ただし、一般的には、地上に達しないものも含めることが多い。

多くの地域では、竜巻を「竜巻」[4]という表現でひとくくりにすることが多いが、特にアメリカを中心にして、学術的に竜巻はいくつかの種類に分類されている。
多重渦竜巻(英語版)(multiple vortex tornado)
複数の渦がまとまって活動する竜巻群。やや大きな竜巻(親渦)の周囲を小さな竜巻が回転することがある。
衛星竜巻(英語版)(satellite tornado)
大規模な竜巻の周囲にできる竜巻。多重渦竜巻とは異なり、構造的には独立した竜巻であるが、勢力は弱いことが多い。
水上竜巻(waterspout)、海上竜巻、シースパウト(seaspout)
海上で発生する竜巻。「竜巻」だけではなく、海上の「チューブ状砂塵竜巻」や「塵旋風」もランドスパウトに含められることがある。
陸上竜巻(英語版)、ランドスパウト(landspout)
水上竜巻と対比して、陸上で発生する竜巻とされることが多い。アメリカ国立気象局(NWS)ではチューブ状砂塵竜巻(dust-tube tornado)としており、地上付近では漏斗雲が見えない代わりにチューブ上の砂塵が渦を巻いている竜巻の事を指す。地上に達しない竜巻によりできることもある。
空中竜巻(funnel aloft)
渦巻きの下端が空中に存在し、地上や水上に達していない竜巻。「竜巻」に含めない場合もあるが、構造やメカニズムは竜巻と同じである。
類似の現象

竜巻と類似の現象も数多く存在する。学術的にはこれらは竜巻とはまったく異なるものであるが、一般的にはその形状などから「竜巻」と呼ばれることも多い。
塵旋風(dust devil)
学校の運動場や荒地などに発生するつむじ風(辻風)が、まれにテントや椅子を巻き上げるほど大規模なものに発達することがある。これは塵旋風と言って竜巻とは別物であるが、竜巻と誤認されることが多い(両者の定義と違いは塵旋風#定義を参照のこと)。塵旋風は地表熱に熱せられ渦が強化される現象だが、竜巻は小規模であっても積乱雲から発生する。
冬季水上竜巻(winter waterspout)
冬季に、暖かい水面と非常に冷たい空気が接し、発生する現象。冬季の日本海などで気団変質に伴って発生することが多い。竜巻とは形状や構造が似ているが、母雲が無くても発生し、メカニズムは異なる。蒸気旋風(steam devil)の一種。
ガストネード(gustnado)
突風性の旋風ダウンバーストに上昇気流が付加されたもの。発達した積乱雲があり大気の状態が不安定という、竜巻と同様の条件下で発生するが、メカニズムも形状も塵旋風に近い。
火災旋風
火災による熱や強風などにより発生する旋風で、関東大震災の時には大きな被害をもたらした。
漏斗雲
竜巻に付随する漏斗雲もあるが、竜巻とは関係のない漏斗雲もある。寒気の渦巻きによるものなどがあり、形状もメカニズムも竜巻と類似している。

積乱雲を伴った荒天の際に発生する局地的突風として、竜巻のほかに、ダウンバースト(マイクロバースト)がある。両者は類似点が多いが、大きな違いとして、竜巻は被害範囲が移動経路と一致して不規則な曲線状に伸び、風向は不規則ながら竜巻の中心を向いているのに対し、ダウンバーストは面状に広がり、風向もある点を中心に放射状に外向きに分布することが挙げられる。また、ダウンバーストでも異様な形の雲が観測されるが、漏斗の形であることはまずない。こういったことから、局地的な突風が発生した際に、竜巻とダウンバーストのどちらであるかを判断する。
発生のメカニズムを伴って発達し、異様な形をした積乱雲。このような天候が竜巻を引き起こしうる。アメリカ各地のF3以上の竜巻の発生頻度。南部中西部で高く、西部アラスカハワイ州では少ない。

竜巻の発生過程に関する研究は、着実に解明が進んでいるものの、未解明の部分も残されている。
スーパーセルとメソサイクロン

強い竜巻は多くの場合、スーパーセル(Supercell[注釈 1])または親雲と呼ばれる発達した積乱雲積雲に伴って生じることが分かっている。なお後述の通り、スーパーセルを伴わない竜巻の発生事例も少数ながら報告されている。

スーパーセルの中心部や周辺部には、上昇気流の領域と下降気流の領域がある。下降気流の領域では集中豪雨が降っている。このは、大気中や地上で蒸発する際に大気から気化熱を奪い大気の下層を冷やすとともに、自身の重さで大気を押し下げて、下降気流を増強する働きがある。これにより下降気流が維持されて、雨が尽きるまでしばらくの間は降りつづける。豪雨に混ざってが降ったり、豪雨の前後に激しい下降気流に伴うダウンバースト(down burst、下降噴流とも呼ぶ)が発生したりする。

上昇気流の領域では、下降気流により冷たくなった空気の層の上を、暖かく湿った空気が乗り上げるようにして上昇することで上昇気流が発生している。上昇気流は積乱雲や積雲が発達するのに不可欠な空気の対流活動であり、地上付近から上空10 - 15キロメートル付近の対流圏界面へと空気が上昇していく過程で、空気に含まれた水蒸気凝結してを作る。

このような環境の下では、重く冷たい下降気流の部分に比べて、軽く暖かい上昇気流の部分の気圧が低くなり、上昇気流の部分を中心として、低気圧と同じ方向(北半球では反時計回り、南半球では時計回り)に気流が渦を巻いて回転し始める。すると、メソサイクロン(Mesocyclone、メソロウとも呼ぶ)と呼ばれる小規模(水平距離が数キロメートルから数十キロメートルほど)の低気圧ができる。

メソサイクロンの周囲を回転する空気には遠心力が掛かり渦の外側に引っ張られるため、中心部の空気が薄くなって気圧が下がる。一方気圧が下がることで、気圧傾度力が働いてさらに周囲の空気を巻き込む。また、この規模の渦には地球の自転に起因するコリオリ力という力も働くため、気圧傾度力・遠心力・コリオリ力の3つの力が均衡して、低気圧としての気流の循環を維持している(このタイプの風を傾度風という)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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