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憲法訴訟(けんぽうそしょう)は、憲法解釈上の争点を含む訴訟のことをいう。
抽象的違憲審査制を採用している法制の下では、民事訴訟、刑事訴訟及び行政訴訟と並列する訴訟類型としての憲法訴訟が考えられるのに対し、付随的違憲審査制を採用している法制の下では、民事訴訟などとと並列する訴訟類型として位置づけられるわけではない(日本は後者)。あくまでも、これらの訴訟の解決に必要な限りにおいて憲法判断がされるに過ぎない(詳細は「違憲審査制」を参照)。
日本では1950年代の最高裁判所機構改革と並行し、1956年、違憲裁判手続法の法案が、日本社会党党首鈴木茂三郎議員らにより衆議院法務委員会へ提出され、趣旨説明が行われている[1]。その後、憲法調査会で論議がなされているが、成立に至っていない[注釈 1]。
しかし、憲法訴訟という類型自体が存在しないとしても、憲法判断の重要性から、憲法訴訟に特有の理論を考察する学問分野がある。このような学問分野を憲法訴訟論といい、日本では、1960年代に憲法学者芦部信喜が憲法訴訟に関する論文を精力的に執筆し、1970年代には憲法学界で憲法訴訟に関する議論が盛んになった。
以下、日本における憲法訴訟について、概説する。 憲法訴訟では、まず、どのような立場の者が憲法問題に関する争点を提起することができるかという問題がある。この点については、抽象的違憲審査制の下では憲法上の争点提起の適格を有する者が法定されていることが通常であるのに対し、付随的違憲審査制の下では、あくまでも通常の訴訟の中で憲法判断されるに過ぎないこともあり、法定されているわけではない。ただし、付随的違憲審査を採用する以上、憲法上の争点提起の適格以前の問題として、法定された民事訴訟、刑事訴訟又は行政訴訟の訴訟要件(訴訟条件)を満たしていることが前提となる。 つまり、民事訴訟や行政訴訟で要求される当事者適格(特に原告適格)や訴えの利益などの訴訟要件を満たした訴訟でなければ、そもそも憲法上の争点提起の適格云々を議論する余地がない。それに加え、行政訴訟の場合は、行政事件訴訟法により法定された訴訟類型又は解釈上認められる訴訟類型に該当しなければならないという制約もある。これに対し、刑事訴訟の場合は、訴追された被告人が違憲性を主張することになるので、特に訴訟条件が問題とされることは少ない。 当事者適格や訴えの利益などの要件を満たすものとして訴訟が適法に係属しているとして、当該訴訟における当事者が法令や処分の違憲の争点を主張することができるかという問題がある。この点、違憲と主張される法令や処分により訴訟当事者自身の権利が現実的・直接的に侵害される場合は、ほとんど問題はない。問題となるのは、訴訟当事者以外の第三者の権利侵害を問題としたり、権利侵害が抽象的な主張にとどまるにすぎない場合である。 適用される法令や処分が訴訟外の第三者の権利を侵害するとして、訴訟において違憲性を主張できるかという問題がある。そもそも、そのような主張をすることは他人の権利に干渉することに繋がるため、原則として許されないということになるが、違憲の主張をする当事者と第三者との関係や第三者が別の訴訟で違憲性を主張することの可能性を考慮し、場合によっては第三者の権利の主張を認めるべきとする見解もある。 この点については、関税法違反により起訴された被告人が、有罪判決とともに附加刑として第三者所有物の没収刑が言い渡されたために、第三者の財産を適正手続によらずに剥奪するものであるとして上告された事案につき、最高裁判所は、「かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。」と判示して、第三者の権利侵害の主張を認められる場合があることを示した(最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁 刑罰法規の内容が一定限度を超えて不明確である場合や、精神的自由権を制約する法令が、明確性を欠いたり過度に広汎であるために萎縮効果が排除できない場合は、当該法令は文面上無効と解される。 このような文面上無効の法令は、訴訟当事者に対して適用される限りにおいては正当であっても、そもそも無効の法令であるとしてその適用を否定すべき旨の主張をすることが認められる場合があり得る。 ただし、現実の裁判所の対応としては、後述する合憲限定解釈の手法を採ることにより対処する傾向にある。 訴訟手続では、争点となる事実関係の有無につき当事者による主張立証がされ、それを下に裁判所は事実認定をし、認定された事実について法を適用して判決をする(ここでいう事実を司法事実又は判決事実という。)。憲法訴訟でも、以上のような事実の有無の審理がされることは変わりがない。しかし、憲法訴訟においては、以上のような具体的・個別的な事実のほか、適用される法令の制定の基礎を形成し、かつその合理性を支える社会状況などの一般的事実の存否を調べることが重要になる。このような事実を立法事実という。 アメリカ合衆国においては、女性労働者の労働時間を1日10時間に制約する法律の合憲性が争われた訴訟において、ブランダイス弁護士が、法律論についてはわずか2頁しか充てず、残りの約100頁を長時間労働が女性の健康に与える悪影響について医学的な論証や統計資料により構成する上告趣意書を提出したことを切っ掛けに、立法事実を重視するようになった。
憲法訴訟の当事者適格
前提問題
違憲主張の適格
第三者の憲法上の権利の主張
過度の広汎性の法理との関係
立法事実の審査
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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