空騒ぎ
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「から騒ぎ」はこの項目へ転送されています。日本テレビ系列で放送されていたトーク番組については「恋のから騒ぎ」をご覧ください。
「ファースト・フォリオ」(1623年)から『空騒ぎ』の表紙の複写

『空騒ぎ』(からさわぎ、Much Ado About Nothing)はウィリアム・シェイクスピアによる喜劇。1598年から1599年頃に初めて上演されたと思われる。1600年に出版され、1623年のファースト・フォリオにも収録されている。『空騒ぎ』は名誉、恥、宮廷政治などに関する真剣な考察を含みつつも全体としては非常に陽気で楽しい作品であるため、一般的にシェイクスピアの喜劇の中でも最良の作品のひとつと考えられている。

物語は二組の恋人同士を中心に展開する。ベネディックとベアトリスが策略にかかって互いに対する愛を告白するようになる一方、クローディオが恋人ヒーローを不実だと思い込んで結婚の祭壇で拒絶する。ベネディックとベアトリスは協力してこの間違いを正し、最後は二組が結ばれるのをダンスで祝って終わる。
登場人物

ドン・ペドロ:
アラゴン大公

ベネディック:パドヴァの貴族、ドン・ペドロの友人、独身主義者

クローディオ:フローレンスの貴族、ドン・ペドロの友人

バルサザール:ドン・ペドロの付き人

ドン・ジョン:ドン・ペドロの異母弟、悪人

ボラチオ:ドン・ジョンの家来

コンラッド:ドン・ジョンの家来

レオナート:メッシーナの知事

ヒーロー:レオナートの一人娘

ベアトリス:レオナートの姪、ヒーローの姉のような存在

アントニオ:レオナートの兄弟

マーガレット:ヒーローの侍女

アースラ:ヒーローの侍女

ドグベリー:巡査、道化役

ヴァージス:小役人、ドッグベリーのパートナー、道化役

あらすじ

シチリア島メッシーナの知事レオナートの屋敷にアラゴン大公ドン・ペドロ一行が到着する。クローディオ伯爵はレオナートの一人娘ヒーローに一目惚れする。独身主義者ベネディックはレオナートの姪ベアトリスと丁々発止の口喧嘩をする。ボラチオはヒーローの小間使いに色目を使う。ペドロの異母弟ドン・ジョンだけが不機嫌にしている。純真なクローディオが恋を打ち明けられずにいるのを知ったペドロは一計を案じ、仮面舞踏会でクローディオになりすまし、ヒーローに求婚するという。それを立ち聞きしたボラチオがドン・ジョンに報告すると、兄を憎むジョンはその企てをぶち壊そうと考え、ドン・ペドロ本人がヒーローに求婚しているとクローディオにウソを伝えて怒らせようとするが、この誤解は簡単に解け、クローディオとヒーローは一週間後に結婚することになる。ドン・ペドロはさらに口げんかに明け暮れているベネディックとベアトリスの縁結びを画策し、ヒーローたちもこれに協力することにする。わざとベネディックが立ち聞きしているところで、ベアトリスはベネディックに恋焦がれるゆえに悪態をつくのだ、という話を大声でしてみせると、ベネディックは罠にはまり、ベアトリスを愛してしまう。ベアトリスもヒーローの策略にはまってベネディックが自分を愛していると思い込み、ベネディックに恋心を抱くようになる。

一方、最初の計画が失敗したドン・ジョンに、ボラチオが新たな作戦をもちかける。小間使いマーガレットを使ってあたかもヒーローが式の前日に浮気をしているように見せかけて、クローディオに目撃させようというのだ。今度は計画が成功した。クローディオとドン・ペドロは、ヒーローの部屋から出てきたマーガレットが他の男と会っているところを目撃してマーガレットをヒーローと勘違いし、怒りと悲しみに打ちひしがれる。

翌日、結婚式の前にドグベリーが知事のレオナートに報告をするが、力みすぎて間違いだらけの言葉遣いで真意が伝わらない。そして迎えた結婚式でクローディオは何も知らないヒーローを不実であると面罵する。レオナートやベアトリスがとりなそうとしても聞き入れるはずもなく、ヒーローは失神、クローディオは立ち去るが、ベネディックや司祭はこの経緯を不審に思う。そこで司祭がある提案をする。それは、ヒーローが失意の余り死んだことにすれば、クローディオの中から恨みや怒りが消え、後悔と憐憫からかつての愛情が戻るはずだ、というものだった。ベアトリスとベネディックは結婚式での恐ろしい出来事について言葉をかわし、お互いに愛し合っていることがわかる。ベアトリスは名誉のためクローディオを殺してくれとベネディックに頼み、ベネディックは最初は拒絶する。レオナートやアントニオはクローディオに対してヒーローの死の責任があると伝え、決闘を挑む。ベネディックも結局、親友だったクローディオに決闘を申し込む。

芝居が成功して上機嫌のボラチオは、仲間にうっかり計略の詳細を話しているところを夜警に聞かれて逮捕されてしまう。ドグベリー治安官たちが拷問すると、ボラチオの背後にはドン・ジョンがいるという。ボラチオ逮捕で恐れをなしたドン・ジョンは町から逃亡する。クローディオは、すべてドン・ジョンの陰謀だったことを知る。決闘は回避される。レオナートから娘を殺したのはクローディオだと責められ、自身の罪を悟ったクローディオは、レオナートから突きつけられた要求を承諾する。それはヒーローの無実を世間に知らせて墓前に哀悼の歌を捧げることと、ヒーローに瓜二つの姪と結婚して跡継ぎになることだった。偽りの葬儀の翌朝、結婚に臨んだクローディオの面前に現れたのは、死んだはずのヒーローだった。再会と真実の結婚に喜び沸き立つ二人に加え、ベネディックもまたベアトリスに求婚する。二重の喜びに溢れる一同のもとに、捕らえられたドン・ジョンが引き出される。
材源

恋人たちが騙され、互いが不実だと思い込まされるという物語は16世紀の北イタリアではよくある物語の定型であった。シェイクスピアの直接の種本はマントヴァのマテオ・バンデッロのノヴェッラのひとつである可能性がある。この物語はアラゴン王ペドロ3世シャルル・ダンジューに勝利した後、メッシーナのサー・ティンブレオと婚約者のフェニシア・リオナータが試練を受けるという筋である。おそらくシェイクスピアはフランソワ・ド・ベルフォレのフランス語訳を通してこの作品に触れることができた[1]。もうひとつの物語はルドヴィーコ・アリオストの『狂えるオルランド』に登場する恋人たち、アリオダンテとジネヴラの物語で、バルコニーで召使いのデリンダがジネヴラのふりをするところがある。本作は1591年に英訳が出ている[2]。『狂えるオルランド』にはベネディックが『から騒ぎ』で述べるような結婚に関する考察も見受けられる[3]。しかしながらビアトリスとベネディックの機知に富んだ求愛合戦はオリジナルである[1]
年代とテクスト1600年に刊行された『空騒ぎ』のクォート版のタイトルページ

『空騒ぎ』の最初の刊本は1600年のクォート版で、印刷業者はアンドルー・ワイズとウィリアム・アスプリーである。1623年のファースト・フォリオ以前のエディションとしてはこれが唯一のものである。1600年以前に「何度も上演された」とあるので、1598年から1599年の秋か冬の時期には初演されていた可能性が高い[4]。記録が残っている最初の上演は1612年から1613年の冬にかけて宮廷で2度行われた上演で、これは1613年2月14日のイングランド王女エリザベス・ステュアートプファルツ選帝侯フリードリヒ5世の婚儀の際のものである。
分析と批評
スタイル

この芝居はシェイクスピア劇の中では珍しく、テクストの大部分が散文で書かれている[5]。韻文もかなりあり、宮廷風の作法と衝動的なエネルギーの両方を描き出している[6]
舞台

『空騒ぎ』はイタリアのかかとに近いシチリア島の港町メッシーナを舞台にしている。シチリアは芝居の舞台になっている時期はアラゴンの支配下にあった[7]。芝居のアクションは主にレオナートの地所で展開する。
テーマとモチーフ
ジェンダーロール1905年の上演、ベネディック役のハーバート・ビアボーム・トゥリーとベアトリス役のウィニフレット・エメリー。第2幕第5場の「クローディオを殺して」の場面である。

台本においてクローディオとヒーローの関係と同等か、あるいは少し軽いとも言える扱いを受けているにもかかわらず、ベネディックとベアトリスがこの芝居の主な関心の対象とみなされており、今日ではこの2人が主役とみなされているほどである。イングランド王チャールズ2世は自分のセカンド・フォリオに載っているこの芝居のタイトルの脇に「ベネディックとベアトリス」と書いてすらいる[8]。ジェンダーの挑発的な取り扱いはこの芝居の中心になっており、ルネサンスの文脈において考慮する必要がある。この時期の演劇はジェンダーの伝統的な観念を反映したり強調したりする一方、それを問い直すこともあった[9]。スーザン・D・アムッセンは伝統的なジェンダーのクリシェを動揺させることによって、社会秩序が浸食されるのではないかという不安が増したとしてきている[10]。この芝居の人気は、こうしたふるまに対して人々が非常に関心を抱いていることを暗示している。ベネディックは機知に富んだ様子で、女性の口の悪さや性的なふるまいに対する男性の不安を明らかにしている[9]。この芝居に登場する家父長制的な社会において、男性の忠誠は伝統的な名誉や友愛に関する規則と女性に対する優越の感覚によって統御されていた[9]。女性が生来、移り気なのではないかという考えが寝取られに関する冗談として何度も表明され、さらにクローディオがヒーローに対する侮辱をすぐに信じてしまうことからもこうした考えの影響が読み取れる。こうしたステレオタイプは、男性は欺瞞的で移り気であり、女性はそれに耐えねばならないというバルサザーの歌によって覆されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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