穀物
[Wikipedia|▼Menu]

穀物(こくもつ、: cerealsあるいはgrain)は、植物から得られる食材の総称の一つで、澱粉質を主体とする種子食用とするもの。狭義にはイネ科作物の種子(トウモロコシなど)のみを指し、広義にはこれにマメ科作物の種子()や他科の作物の種子を含む[1][2]
概要

イネ科作物の種子を禾穀類(かこくるい、Cereals、シリアル)[1]といい、マメ科作物の種子を菽穀類(しゅこくるい、Pulses)[1]という。広義の穀物のうち、禾穀類の種子(単子葉植物であるイネ科作物の種子)と似ていることから穀物として利用される双子葉植物の種子をまとめて擬禾穀類あるいは擬穀類(疑似穀類、Pseudocereals)と呼ぶ[2][3][4]。擬穀類には、ソバタデ科)、アマランサスヒユ科)、キヌア(キノア、アカザ科)などが含まれる[2][5]国連食糧農業機関では禾穀類に擬穀類を加えシリアルとまとめている。は別集計、大豆はさらに油糧作物として集計している。

生産量ではトウモロコシ小麦が突出しており[6]、これら3種は世界三大穀物と呼ばれている[7]

穀物が含む栄養素は主に炭水化物である。タンパク質脂肪も含まれるものの穀物の摂取だけでは不足しがちなため、多くの文化圏において穀物はタンパク質を補うための豆類とセットで栽培され、消費されてきた[8]。たとえば、アジア地域における「」、中近東における「小麦と豆」、アメリカ州における「トウモロコシと豆」の組み合わせである[9]。@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .mod-gallery{width:100%!important}}.mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:.3em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left;margin-right:1em}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .gallery{line-height:1.35em}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div *,.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div *{overflow:visible}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox img{background:none!important}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images .thumb img{outline:solid #eaecf0 1px;border:none}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg .thumb{background:#fff!important}

トウモロコシハンガリーで撮影)

フランス小麦

イネの穂

様々な類(カトマンズにて)

歴史古代エジプトで描かれた小麦の収穫.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}アワの原種であるエノコログサの穂。栽培種であるアワに比べ、種子の脱落性があり実が小さく数も少ない。アワの穂。原種のエノコログサに比べ、実が大きく数も多い。

現代において世界で栽培される穀物は、ほぼ7地域(近東アフリカサヘル地帯及びエチオピア高原)、中央アジア、中国雲南省?東南アジア?インド北部中国北部中央アメリカ、南米のアンデス山脈)を起源としている。これらの地域は農耕文明の発祥地と重なっている[10]
栽培化

近東地域(中近東)は穀物の栽培化が世界で最も早かった地域であり、コムギ、オオムギライムギエンバクといった世界でも重要な地位を占める穀物が栽培化された地域である。アフリカのサヘルからエチオピア高原にかけては、世界に広まったモロコシをはじめ、シコクビエトウジンビエフォニオテフなどが栽培化された。中央アジアではソラマメヒヨコマメレンズマメが栽培化され、中国雲南省?東南アジア?インド北部においてはイネを筆頭としてソバハトムギが、中国北部においてはキビヒエダイズアズキが栽培化された。中央アメリカにおいてはトウモロコシが栽培化された。南アメリカ・アンデスにおいては、アマランサスキノアの栽培化が行われた[10]

栽培化される前は、穀物の多くは播種のために熟すると種子が穂から脱落する性質(脱粒性[11])を持っていた。人類が野生の穀物を利用し始めた際には逆にそれを利用し、穂の下に容器を置いて穂をゆすり身を振るい落としたり、種子がまだ固定している未熟なうちに刈り取ったりするなどの手段を取っていた。しかしこうした方法には限界があり、やがて人類は穂が熟しても種子の脱落しない個体を選抜して栽培するようになり、穀物は非脱粒性[12]を獲得していった。このほかにも可食部分の肥大化など、選抜によってより利用しやすい形へと植物自体の性質が変化していった[13]

野生の穀物の粒は小さく、収穫しにくく、さらに加工しなければ消化もしにくいため、広く穀物を利用するようになるには石器の登場が必要であった[14]。石を原料とした器は旧石器時代のうち、4万年から1万2千年ほど前の間に出現したが、定期的な穀物の収穫は1万2千年前のナトゥフ文化にみられる[14]。ナトゥフ文化では野生の小麦、大麦、ライ麦を収穫し、ヤンガードリアス期に畑を作り穀物を蔵に保管するようになると、穀物を守るようにして野生のもそこに集まるネズミを狙った[15]

なお穀物の栽培化においては、もともと栽培化されていた穀物とは別に、それらの穀物の栽培の過程において畑に紛れ込んだ雑草が、本来の穀物に紛れて、または押しのけて成長する中で穀物として栽培されるようになっていったものがある。これらは二次作物と呼ばれ、コムギの栽培過程で作物化していったライムギやエンバクなどがあてはまる[16][注釈 1]

栽培化後も、農法の進歩は続いていた。たとえば上記のとおり穀物が非脱落性を獲得したばかりの場合、穀物の成熟度はその穂ごとに異なるため、熟した穂を選んで収穫する穂刈りが行われていた。しかしやがて農法の進歩によって同じ農地の穀物の成熟度をほぼ同じに調整することが可能となると、穂ではなくを根元から収穫する根刈りが主流となっていった[17]

栽培化された穀物はやがて起源地から広がっていくが、この過程において、コムギ、イネ、トウモロコシの三種の穀物が突出して栽培されるようになっていった。コムギは栽培化当初は加工のしやすいオオムギに比べ二義的な穀物だったと考えられているが、やがてではなくパンを製造するようになると、グルテンを持つコムギは他の穀物のパンよりはるかに美味なパンを作ることができ、また加工の幅もほかの穀物とは比べ物にならないくらい広がったため、旧大陸のパン食文化圏においてはほぼどこでもコムギが第一の穀物とされるようになっていった[18]

穀物は多くの国家において食糧生産の根幹であり、そのため栽培化以降も各地で品種改良の努力が続けられてきた。19世紀以降には農法の改善によって農業革命が起き、またこの頃から科学的な品種改良の理論が確立して各地で近代的な育種が行われるようになり、穀物の収量は激増した[19]。特に20世紀後半に入ると、肥料の多用に耐えられる穀物品種の開発などによっていわゆる緑の革命が起き、穀物の反収は激増して世界人口の急増を支えることに成功した[20]
精製加工サドルカーンと呼ばれる石で作られた

工業革命以前は小麦粉などを粉にするには石臼が使われ、手で選別処理をしなければふすま(表皮)や胚芽を完全に除去することは不可能であった[14]。19世紀後半には、そうした処理が自動化され高度に精製された穀物が広く消費されるようになった[14]。しかし工業の発達は穀物の精製技術を向上させる一方で、食物繊維ビタミンミネラルを損失させることで摂取量を減少させており、健康に影響を及ぼしていることが考えられる[14]

1970年代後半には、クロマトグラフィー果糖濃縮技術の出現で異性化糖(高果糖コーンシロップ、HFCS)の大量生産を可能とした[14]
生産

国連食糧農業機関(FAO)の穀物の世界需給予測によると、2021年度の生産量は30億0663万トンと初めて30億トン台に乗り、貿易量は5億7959万トン、13.6憶トンが食用、9.9憶トンが飼料であった[21][22]。以下に1961年(FAO統計が利用可能な最初の年)以降の穀物生産量とその推移を示す[23]2003年にはトウモロコシ、コメ、コムギの3大穀物で世界の穀物生産の87%、世界の食物カロリーの43%を占めていた[23]緑の革命の影響を受けた3大穀物の生産量が爆発的に増加しているのに対し、ライムギとエンバクの生産量は1960年代に比べて大幅に減少している。

世界のトウモロコシ生産量

世界の米生産量

世界の小麦生産量

穀物生産の推移(百万トン)[21][24]196119812001202020212001年比備考
トウモロコシ205.03446.77615.141,163.001,210.241.97総生産の58%飼料、食用13%[25]
米215.65410.08600.25769.23787.291.31大半81%食用[26]
小麦222.36449.63588.24756.95770.881.3168%が食用、飼料16%[27]
オオムギ72.41149.60140.59157.71145.621.0458%が飼料、加工19%(麦酒など)[28]
モロコシ40.9373.2859.7958.9261.361.0350%が食用、飼料34%
キビ亜科25.7126.9628.9030.8330.091.0477%が食用、飼料12%
エンバク49.5940.2926.9425.3222.570.8458%飼料、食用24%
ライコムギ0.000.1010.8315.3414.851.37
ライ35.1124.8523.3815.0413.220.57
ソバ2.483.402.591.811.880.72
フォニオ0.180.170.310.660.662.13
カナリーシード0.060.090.150.260.221.45
キノア0.030.030.050.180.153.20
その他1.351.562.498.348.363.35
複合5.985.585.183.073.260.63

大豆26.8888.53177.02355.37371.692.1088%が脱脂/搾油加工、飼料9.5%、食用3.4%[29]

雑穀とみなされる穀物は全般に需要が低調であり、換金性もそれに伴って低いために栽培が減少する傾向が目立つが、雑穀のなかでも例えばエチオピア高原におけるテフのように地元のアムハラ人などによって強く嗜好され、主食の座を保っている穀物も存在する[30]。このためテフの換金性は高く高価で取引されている[31]

穀物は世界の人口のかなりを支えており、その生産様式は多岐にわたる。東アジアから東南アジア、南アジアにかけては集約型の穀物生産が行われ、ヨーロッパにおいては年単位で耕地を移動させ輪作を行い、地力の消耗を防ぎながら食用となる穀物と飼料作物を栽培する混合農業が主流である[32]。こうした土地生産性の高い諸国に対し、アメリカのグレートプレーンズやオーストラリア、アルゼンチンのパンパなどでは、広大な土地で穀物を大規模に栽培する企業的穀物農業が行われている[33]。こうした企業的穀物農業においては土地生産性が低く、例えばコムギにおいてはアメリカでは290s、オーストラリアでは190sと反収が低くなっている[34]かわりに、少ない労働力で大規模に生産できるために労働生産性が非常に高くなっていることが特徴である。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:78 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef