科学者
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科学者(かがくしゃ、英語: scientist)とは、科学専門とする人・学者のことである[1][2]。特に自然科学研究する人をこう呼ぶ傾向がある[2][1]
名称の歴史

もともと自然を対象としたの探求は「自然哲学」(ラテン語: philosophia naturalis、英語: natural philosophy)と呼ばれ、それに携わる人々は1800年ごろでもnatural philosopher「自然哲学者」やsavan「知者」などと呼ばれていた[3]。だが、philosophyの名で呼ばれていた知識一般の中から、独自の性質を持つ知が生まれたと認知され、その知を呼ぶのにラテン語scientia、英scienceの名称が用いられるようになったことや、その知を探求する専門家集団が自らの存在を他の集団と区別して語り始めたことを反映して、1834年ウィリアム・ヒューウェルがscientiaから派生させる形でscientistという語を造語、scienceに携わる人々をscientist(サイエンティスト)と呼ぶことを提案した[4]。それが定着し現在に至っている。
科学者の歴史

遡れば古代ギリシャ古代ローマ等においても自然に関する探求(=自然哲学philosophia naturalis)は行われていた。だが当時の哲学の最重要課題と言えば、人間の生き方や集団のあり方に関する倫理的な思索であり、自然哲学はあくまでその哲学体系のごく一部という位置づけであり、自然哲学だけが単独で行われるということは少なかった。したがって自然哲学に携わる哲学者はどうしても脇役的な存在となり、社会的に重視されることはほとんどなかった。

16-17世紀、ヨーロッパ科学革命と呼ばれる近代科学成立の動きがあったことや、自然哲学研究のための学会アカデミーが成立し、そこに集った人々が様々な活動をしたことで、初めて自然哲学者には、他の哲学者とは何かしら異なった役割があることが理解されるようになった。だが、その科学革命の後でも自然哲学者たちは自然哲学そのもので収入を得ていたわけではなく、他に生計の基盤があった。例えば、元々広大な領地を持つ貴族の生まれであったり、大商人であったり、聖職者等としての生活基盤を持っていたりしており、つまり現在で言うところのアマチュア・サイエンティストであり、彼らにとって自然哲学は知的好奇心を満たす趣味としての性質を持っていた。

19世紀に入ると、自然哲学ないし科学の高度化とともに、大学等の教育機関に科学の教育のための講座・コースが設けられ正規の教育体系として扱われるようになり、そのコースで指導教官の下、体系的に科学を習得した若者が生み出されるようになった。また、研究所も設置されるようになり、彼らの働く場所が出現した。このようにして科学者は専門的職業の一つとして確立し、それを表すかのようにヒューウェルによりサイエンティストという名称の使用が提唱されたのである。

現代の科学者のほとんどは、18世紀までのアマチュア・サイエンティストのように独りで趣味的に自然を探求しているのではなく、大学あるいは何らかの研究機関雇用契約を結び、給料を支払われ、研究設備の使用を許可され、研究費を割り当てられている。
近年の科学者の共同体と競争原理

現代の科学者は、大きな科学共同体の中で生かされているような面がある。各人は専門化された学会に所属したり、学術誌等を講読することで他の科学者の研究により明らかになった新しい科学的知識を得ることができる。また、科学者は学会や学術誌で研究成果を発表することで、他の科学者からの評価を受ける必要がある。

それらの場で研究成果により高い評価を得た者は、次第に優秀な科学者と認知されるようになり、それに伴い高い地位、潤沢な研究費、助手、社会からの賞賛などが結果として与えられることが多い。だがその逆に研究成果を示すことができない者は低い評価が与えられ、研究費が削られ、社会的にも次第に不本意な状況に置かれることが多い。

研究成果の評価の基準のひとつとして、研究成果に新しい科学的発見が含まれているかどうか、という点がある。これを別の角度から見れば、同じ内容の研究をし同程度に努力していても、何かを先に発見した者、つまりpriorityプライオリティ(先取権)を確保した者が高く評価され、遅れて発見したとされる者はたとえ独自に発見したとしても大抵の場合評価されないという原理が働いていることも意味する。例えばノーベル賞などでも先取権を持つ者に賞と賞金が授与される。このような原理を背景として、先取権を巡って科学者(のグループ)同士で激しい争いとなることがある。

この競争原理は、一方で科学知識の進歩を促進してきたという効果が認められている。他方、科学者に対しては他者に先駆けて研究成果を出さなければならないという心理的な圧力を感じさせることで、科学者による様々な不正行為や病理的行動を生み出す原因ともなっている。
科学者による不正行為詳細は「科学における不正行為」を参照

上記の構図の中で心理的に追い詰められた科学者の一部が起こす一連の病理的な行動はpublish or perish syndrome「発表するか死か 症候群」などと呼ばれることがある。

科学者が道徳的かどうか、または不道徳で不正行為を行う可能性があるかどうかについての研究があった。この研究は、厳密なジャーナルであるPLOS ONEで発表された。結論としては、科学者は本質的に不道徳ではないが、不道徳な行動を取る可能性があるだけである[5]

科学者の一部には、功を焦るあまりに不正行為を行う者がいる。不正行為の内容としては、実験データの改ざん・捏造、アイディアの盗用、論文の盗用、試料の窃盗、実験データ記録媒体の窃盗などがある。このような不正行為は、内容によっては科学界を揺るがす事件となったり、さらにはマスコミを通じて広く一般の人々にも知られることもある。

また論文の成立に何ら直接貢献していない者が、ただ研究室の責任者の立場にいるというだけで論文の共同執筆者として名を連ねるという不正行為がある。このように立場の強い者が陰に陽に政治的影響力を行使して名を連ねさせる場合もあれば、逆に論文執筆者側が、誰かから何らかの利益が供与されることを期待して共同執筆者として名を表示する機会を提供している場合もある。また同一グループ内の複数の科学者が共犯的に相互の論文の共同執筆者として名を連ね、互いの業績数を水増しするようなことも行われることがある。これらの共同執筆者に関わる不正行為は科学者の間ではその不正な性質を隠蔽する形でhonorary authorship「名誉のオーサーシップ」やgift authorship「ギフトオーサーシップ」などと呼ばれることがある、が名称は何であれ不正行為には変わりないというのが公的機関の公式見解である。


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