科学的管理法
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科学的管理法(かがくてきかんりほう、: Scientific management)は「労働の科学とその管理」を用いたマネジメント手法である[1]。テイラー・システムとも呼ばれる。
概要

科学的管理法が提唱される頃(20世紀初頭)のアメリカでは、生産規模の増大に合わせて「職人への現場業務委任とマネージャーによるイニシアティブ管理」という体制がとられていた[2][3]。しかしこの体制下で、労働者は非効率な経験則に頼りながら生産力増による失業という迷信を恐れ、マネージャーは報酬カットによる安易な利益率確保を狙って信頼を失い、生産現場における組織的怠業が大きな問題となっていた[4]

テイラーはこの体制がもつ構造的欠陥を指摘し、経験則から科学へ転換しその管理をマネージャーの責務とする科学的管理法を提唱した[5][1]。管理についての客観的な基準を作る事で組織的怠業を打破して労使協調体制を構築し、その結果として生産性の増強や労働者の賃金の上昇をもたらして労使が共存共栄できるとされた。

科学的管理法はテイラー20世紀初頭に提唱し、ガント、ギルブレスらによって発展する中で様々な功績と議論をもたらし、現代マネジメント/経営学/経営管理論/生産管理論の礎となった。
背景
体制

科学的管理法が提唱される頃(20世紀初頭)の生産現場では「職人/作業員への現場業務委任 + マネージャーによるイニシアティブ管理」という体制がとられていた[2][3]。特にインセンティブ-イニシアティブ型マネジメントが優れた手法として認識されていた。

当時の生産現場は大規模化が進んでおり1人の管理者が数百人の作業員を管理していた。数百人が扱う様々な生産現場の全てを1人のマネージャーが理解することはできないため[6]、マネージャーは生産の詳細を把握するのではなく現場の職人/作業員へ委任していた(業務委任体制)[2][7]。例えば生産方法を理解し、適切な手法を採用し、現在の生産性を評価し、その効率を改善する責務は全て現場自身に委任されていた。

業務委任体制におけるマネージャーの役割は作業員の貢献(イニシアティブ)を引き出すことである[3]。イニシアティブは単に「給与に見合った作業を行う」のではなく「知識や経験を総動員して貢献する」という意味合いである[8]。現場の詳細を知らないマネージャーは自身で業務を改善できないため、業務改善には現場の自発的貢献すなわちイニシアティブが必須となる。よってこれを引き出すことがマネージャーの役割になる。

この体制における最も優れたマネジメント方式はインセンティブ-イニシアティブ型であった。この方式ではマネージャーが動機づけとなる報酬(インセンティブ)を提示することでイニシアティブを引き出そうとする[9]。例えば生産量に基づいたボーナスや生産効率化アイデアに対する報奨金の形でマネジメントをおこなう。この方式におけるマネージャーの役割は「インセンティブを設計して現場のイニシアティブを引き出す」ことである。
問題点

この体制下で生産現場は様々な問題を抱えていた。特に深刻だった問題が怠業である[10]。インセンティブを提示しても作業員達がイニシアティブを発揮しない、むしろ働いているように見せながら手を抜く(イニシアティブが下がる)といった現象が組織的に見られた(組織的怠業)。業務委任体制におけるイニシアティブの減少は生産性の低下に直結するため、テイラーはこれを非常に大きな問題として認識していた。
原因

テイラーは怠業の原因として「労働塊の誤謬」「マネジメントシステム」「経験則」の3つを指摘している[4]
労働塊の誤謬詳細は「労働塊の誤謬」を参照

労働塊の誤謬は「社会の需要は一定であり生産力の増強は失業を招く」という誤謬である。実際には生産力の向上に伴う価格下落で需要が喚起されむしろ雇用創出に繋がる場合が多い。産業の発展段階ではよく見られる誤謬であり、テイラーはこの時代にも未だ労働塊の誤謬が存在しこれが怠業の一因だと指摘している[11]
マネジメントシステム

テイラーは既存のマネジメントシステムは組織的怠業を引き起こす欠陥を含んでいると指摘した[12]。特にインセンティブ-イニシアティブ型マネジメントにおける、利益率向上を目的としたインセンティブ削減の誘惑が引き起こすインセンティブの機能不全が深刻とされた。

まずインセンティブを用いない場合、例えば一律賃金日給制の場合、少ない生産量でも同じ賃金をもらっている(怠惰な)同僚を見てイニシアティブが失われる[13]。その結果、組織全体が怠業へと堕ちていく。

次にインセンティブを用いる場合、例えば出来高給制の場合、初期段階ではイニシアティブが引き出され生産性が向上する。しかし生産性向上が一服すると出来高単価の切り下げによる利益率向上という誘惑がマネージャーを襲う。これに手を出すと短期的には利益率が上昇するが、単価切り下げはインセンティブ削減と同義であるため現場はインセンティブが一時的なものに過ぎないと学習する。その結果、更なる生産性向上を目指しても現場のイニシアティブはもう得られず利益率が上がらなくなる[14]

むしろマネージャーの目を欺むく非合理的生産が幅を利かせはじめる。業務委任体制でない時代であれば業務内容を理解したマネージャーが適切な業務量・賃金・単価を設定できるため、組織的怠業を指摘してある程度は管理ができた[15]。しかし業務委任体制のマネージャーは生産を知らず生産性を評価できないためそれができない[16]。この状態で労使の信頼関係が崩れた場合、賢い作業員にとって「この生産は手間がかかる」とマネージャーを誤認させ単価を吊り上げ高い給与を手抜きで得ることが合理的になる[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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