科学理論
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地球のの形成理論の1つであるジャイアント・インパクト説で起こったとされる天体衝突の想像図

科学理論(かがくりろん、英:scientific theory)とは、広く受け入れられたプロトコルに即した観測や測定・その結果の評価を用いて科学的方法に従って繰り返しテストされ裏付けられた、自然科学における様々な側面に対する説明である[1][2]。実験が可能であれば、科学理論は条件を厳しく制御された実験において直接確かめられる。その性質上実験的検証が困難な場合は、科学理論は仮説的推論を用いて検証される。確立された科学理論は厳しい追実験にも耐え、科学的知識として具現化される[3]

科学理論は、理論が「なぜ」「どのように」を説明しているのに対し、事実が単純に観測結果を、法則が多くの場合数式を使いながら事実同士の関係を記述しているという点で、科学的事実・科学法則とは異なる概念である。たとえば、アイザック・ニュートンによる万有引力の法則は物体間の相互作用を予測するために使われる単なる数式にすぎず、「どのように」重力が働いているか自体を説明できるものではない[4]科学史家スティーヴン・ジェイ・グールドは著書『ドーバーの悪魔(英語版) 』で、「事実と理論は全く別物であり、その確実性の高さで階層化して分類されているものではない。事実とはこの世界のデータであり、理論は事実を説明・解釈する考え方からなる構造体である。」と記している。

科学の分野で用いられる「科学理論」(短くするため単に理論とも呼ばれる)という言葉の意味は、一般的に日常会話で使われている「理論」が指す意味と大きく異なる[5]。毎日の会話で、「理論」は根拠のない推論的な予想を指す言葉であると暗に了解されたうえで使われているが[5]、科学では厳密にテストされ、広く受け入れられている説明として使われている[1][2][3]

科学理論の強みは、説明できる現象の多様性とその単純さである。新しく科学的証拠が追加されることで理論が修正され、それでもその新しい発見と従来の理論が一致しない場合は理論自体が拒絶される。そのような状況では、当然より正確な理論が求められる。その中でもいくつかの理論は特に確立されているため、大きく覆ることはないだろうと考えられているものもある(細胞説進化論地動説プレートテクトニクス細菌説、武漢起源説(英語版)など)。場合によっては、全ての条件下では当てはまらない古い科学理論・法則でも、特定の条件下では単純な理論でよい近似ができるとして今もなお有用であることもある。たとえばニュートン力学は、光速より十分に小さい速度下では特殊相対性理論を非常に正確に近似している[6][7][8]

科学理論は検証可能であり、反証可能予言を行うことができる[9]。それらは、特定の自然現象の原因を解明したり、物理的な宇宙やその他特定の分野での事象について説明・予想するために使われる。ほかの科学的知識と同様に、科学理論も演繹的であると同時に帰納的であり[10]、物事を予想する力と説明する力を得ようとしている。科学者たちは科学理論を使ってほかの科学的知識を深めるだけでなく、技術医学を発展させようともしている。
種類

相対性理論などの業績で知られるアルバート・アインシュタインは科学理論を「構成理論」と「原理理論」の2つに分類している。構成理論とは、たとえば気体分子運動論のように現象に対して建設的なモデルを構築する理論であり、原理理論とはニュートンの運動方程式のように経験的に現象を一般化する理論を指す[11]
特徴
必須の特徴地球のプレートのマッピングがされたのは20世紀後半になってからだが、プレートテクトニクスの理論は地震や火山、大陸、海洋の分布や地球科学に関する多くの観測事実をうまく説明している。

ほとんどの学界で受け入れられている理論に対する1つの単純な基準がある。その不可欠な基準として、その理論が観察可能で再現可能であることである。この基準は、科学に対する詐欺を防止・看破し科学自身を永続的なものにするために必要不可欠である。

理論を含む科学的知識全般における特徴が、反証可能で検証可能な予想を行う能力があることである[12]。この予想の関連性と特異性によって、それがどれだけ有用な理論かが決まる。もしその理論と称されるものから観測可能な予想が何一つされないとき、それはもはや科学理論とは全く言えない。テストするだけの特筆すべき点がないような予想も同様に有用とはされず、どちらも理論とは呼ばない。

もし以下の基準を満たしていれば、その知識の記述は理論と呼ばれる[9]

幅広い科学分野にわたってその正確性が反証可能な予測を生み出せること。

単一の論拠にとどまらず、多くの独立した証拠によって支持されていること。

既存の実験結果に一致しており、従来の理論がある場合は少なくともそれと同程度に正確な予測ができること。

こうした性質は、一般相対性理論特殊相対性理論量子力学進化論プレートテクトニクスなどの現在確実に正しいとして確立されている理論に当てはまる。
その他の定義

さらにほとんどの科学者が、以下の基準を満たす理論をより好む。

理論と完全に一致しないデータが発見されたときは、理論を微修正することでその理論の予測能力を常に向上させられること
[13]

オッカムの剃刀として知られているように、必要以上に複雑で冗長でないこと。アドホックな仮説として知られるように個々の現象それぞれを説明するには数え切れないような多数の代替案が存在し、それらをいちいち理論に反映させると複雑なものになっていく。それゆえ、検証可能性の面でも、複雑な理論より必要最低限の単純な理論のほうが好まれる[14][15][16]

学術団体による定義

米国科学アカデミーは科学理論を以下のように定義している。

「理論」のよりフォーマルな科学的定義は、この語が日常生活で持つ意味とは大きく異なっている。理論とは、膨大量の証拠に裏付けられた、自然の様相についての包括的説明である。科学理論は既に十分に確立されているものも多く、そうした理論を大きく覆すような証拠が登場する可能性は低い。例えば、地動説を否定するような太陽が地球の周りを公転していないという証拠、細胞説を否定するような生物の体が細胞で構成されていないという証拠、プレートテクトニクスを否定するような地球表面が地球科学的タイムスケールで移動する固体のプレートで覆われていないという証拠、そして原子は物質を構成していないという証拠といったものはまず出てこないだろう。理論の最も有用な点は、まだ観測されていない自然現象や出来事を予測することに利用できることである[17]

アメリカ科学振興協会は以下の定義を示している。

科学理論とは、観測や実験を通じて繰り返し確認された事実に基づく、自然界のある側面を十分に立証した説明である。こうした事実に基づく理論は「推論」ではなく、現実世界への信頼できる説明である。中でも生物進化論は「単なる理論」を超えた立ち位置であり、物質の原子論や病気の細菌説などと同等に確立されている。重力に対する私たちの理解は現在もまだ発展途上にあるが、それでも重力という現象は進化論同様、受け入れられている事実である[18]

つまり、理論という言葉はテストされていないが複雑な仮説や科学モデルについて適用すべき言葉ではない。
科学理論の形式ロバート・フックにより初期の顕微鏡を用いて観察された細胞の図[19]。この観察結果は細胞説の根拠となった。

科学的方法には、未実施の実験結果についての仮説から予想を行い、その予想が正しいかどうか実際にその実験で確かめるという、仮説の提案と検証というサイクルが含まれる。


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