科学学術雑誌
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、科学論文を掲載する専門誌(Scientific Journal)について説明しています。科学についての一般向けの雑誌(Science magazine)については「科学雑誌」を、科学にとどまらない学術論文を掲載する専門誌(Academic Journal)については「学術雑誌」をご覧ください。
1869年11月4日に発行されたネイチャー創刊号の表紙

学術出版における科学学術雑誌(かがくがくじゅつざっし、:scientific journal)とは、研究で得られた知見を読者に公開・共有することで科学の発展を目指すことを目的とした逐次刊行物の総称である。多くの場合、細かい分野に専門化されており、論文著者は投稿する論文の分野に合わせて投稿先の論文誌を選択する[1]
内容
科学ジャーナル

小さなものや英語以外のものも含めると無数の科学学術雑誌が発刊されており、2012年の推定では現在も発刊を続けているものだけでもおよそ2万8100誌あり[2]、過去に出版され現在は休刊・廃刊になっているものも含めるとさらに数は増える。ほとんどの科学学術雑誌は高度に専門化されているが、サイエンスネイチャーといった最初期に創刊された雑誌は自然科学分野全般にわたった記事や科学論文を掲載している[3]。科学学術雑誌に掲載される論文は、その論文がジャーナルごとに定められる質や妥当性を満たしていることを保証するために査読されている場合が多い[1]

科学学術雑誌は専門誌・業界誌と呼ばれる雑誌に表面上は似ているも、実際は全く異なる媒体である。まず、科学学術雑誌の著者は論文内の記述に引用を行わなければならず、どのように引用したかを殊更に書かなければならない。扱う内容は研究で、多くの場合はピアレビューと呼ばれる査読を受けている。それに対し業界誌は異なる分野の人々も対象にしながら、人々がどのようにすれば業務をうまく遂行できるかなど業務についての情報やそれを改善するためのヒントやアドバイスなどを扱っている。つまり、業界誌は学術的であるとは言えない[4]
科学学術雑誌の記事

科学学術雑誌に掲載される記事(論文)の著者はジャーナリストではなく、学生や研究員、教授などを含む現役の科学者たちである。こうした記事の対象読者はまた同じ分野の同業者たち(学生や専門家など)であるので、記事の内容は通常の出版物よりも高度で洗練されたものが多い[5]

論文はその目的によっていくつかの種類に分かれている。原著論文は自身の新しい研究結果をその分野の同業他者に共有するためのもので、総説論文ないしレビュー論文・サーベイ論文と呼ばれる記事は既に行われ発表されている研究をもとにその分野を総括するためのもので、その中でも展望論文と呼ばれるものは同業者が行った研究についての見解を異なる研究者の視点で論じるものである[6]

論文や記事はそれぞれ以下のようないくつかのセクションを有している[7]

タイトル[7]

著者についての情報[7]

アブストラクトと呼ばれる、論文の要約を一段落程度にまとめた文章[7]

研究背景や研究を行った理由、先行研究やそれを受けての仮説などを説明する導入部[7]

研究を行った方法について、試料の詳細や測定評価の尺度、手順などを含む方法部分[7]

研究を通して発見された内容について結果を説明する部分[7]

結果が導入で述べられた疑問について答えたか、それを受けての今後の展望などを述べる議論・コメント・結論部[7]

引用した過去の研究のリスト[7]

科学学術雑誌の記事は、どれも雑誌を読む感覚で何気なく流し読みできるようなものではない。普通の雑誌をカジュアルに読めるのとは違い、科学学術雑誌は読むこと自体にかなりの集中力を要する。そのため、多くの論文を選びもせずに順番に目を通すということも困難であるため、論文読者はまずタイトルから自身の分野に関係があるものかを判断し、その次にアブストラクトや結論部の一部などを読んで、その論文が自分にとって精読する価値のあるものかを判断してから論文全体を読みにかかる[8]

研究結果を出版することは科学の発展に不可欠である[9]。論文著者が実験や計算結果について記述する際、どのようにそれを行ったかを論文著者とは独立したほかの研究者が結果を確かめるために追試ができるよう、研究で得られた知見を読者が評価できるように記述しておく必要がある[10]。そうして得られた記事や論文は、科学的な記録として永久に残る[11]
存在意義

科学学術雑誌の記事は研究や高等教育に使うことができる。論文によって研究者は自らの分野の発展を最新の状態に保ち、そのうえで独自の研究を行うことができる。科学論文の不可欠な部分は先行研究の引用である。論文や論文誌が与える影響力はその引用数を数えることで評価される[12]

大学の講義には、古典的な論文の説明に部分的に専念されるものもあるほか、ゼミでは学生が互いに古典・または最新の論文をプレゼンテーションにより紹介しあう。教科書にはたいてい、その時点で発見から時が経ち確立したトピックしか書かれないため、最新の研究など曖昧で目下議論中のトピックについては学生は論文誌を通してしかアクセスできない。研究グループや学科で現在の科学学術雑誌の内容について輪講や雑誌会と呼ばれる集まりで議論されることもよくある[13]

公的資金の提供機関や研究者の雇用機関は、審査にあたりこれまでの業績を科学学術雑誌に出版されたものの一覧として提出を求めることがよくある。研究機関で職位を上げるには、科学学術雑誌に発表した論文の数や影響(引用数)が重視される。多くの博士課程では、博士論文を書くまでにある程度決まった数の論文を科学学術雑誌に掲載させることを要する[14]
記事の難解さ

科学学術雑誌の掲載内容は高度に技術的で、そのジャーナルがカバーする分野範囲での最新の実験・観測結果や理論研究を扱う。そのためその内容は、その分野の研究者やよく慣れた学生にしか理解できないこともあるが、これはコンテンツの性質上どうしても避けられない部分である[15]

通常、論文記事には編集者から要求される厳格な執筆基準があるが、このルールはジャーナルによって大きく異なることもあり、特に出版社の違うジャーナル同士だとこの差異は特に顕著になる。論文の内容は原著論文の場合完全に新しい研究結果であり、総説論文の場合は現在の文献のレビューである。様々な著者によりテーマ別の章を刊行することで論文誌と書籍の間を穴埋めする出版社も存在している[16]

国や地域ごとに集中した論文誌も多く、こうした科学学術雑誌はAfrican Invertebrates(英語版)のように特定の地域から投稿された論文に特化して出版している。
歴史

17世紀までは、科学者は科学的なアイデアや研究内容についても手紙でやり取りをしていたが、17世紀中ごろからは会議を開くなどでお互いに科学的なアイデアを共有する場を持ち始めた。最終的にこの取り組みが発端となり、1660年にはロンドンに王立協会が、1666年にはフランス科学アカデミーが設立された[17]。そして1665年にはフランス語ジュルナル・デ・サヴァンと英語のフィロソフィカル・トランザクションズが、体系的に研究結果を出版する媒体として刊行が始まった。18世紀には数千もの学術雑誌が登場し、そのほとんどが短命に終わるも以降発刊数は急速に増えていった[18]

査読の仕組みが始まったのは1970年代になってからだが、この仕組みはまだ無名の研究者が学術誌の中でも特に権威のあるジャーナルに論文を掲載してもらう手段として見られるようになった。当時は査読者に論文のコピーを郵送して行われたが、現在はこのやり取りはオンラインで行われている[19]
出版過程

科学学術雑誌の記事の著者はジャーナリストではなく現役の科学者であり、その中には教授と一緒に研究員や大学院生が執筆することも多い。そのため著者は無給であり、一部の依頼執筆の場合を除いてジャーナルから原稿料として報酬をもらうことはない。しかし、多くの場合科学者の資金提供機関は成果を論文として出版することを求めている[20]

論文がジャーナルのオフィスに提出されると(サブミット)、そこのエディターはその論文が科学的に適切か、さらに潜在的な科学的インパクト・新規性があるかを検討する。エディターが、その論文がこれらの要素で掲載に適していると判断したら、さらに厳密な審査のため査読者(レビュアー)に査読を依頼する。分野やジャーナル、論文にもよるが、だいたい1人?3人の査読者に論文が送られ、出版の適否を判断してもらう[21]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:53 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef