科学における不正行為(かがくにおけるふせいこうい、英: scientific misconduct)とは、科学の学問としての規範や、研究を行う際に守るべき研究倫理基準に対し、違反する行為のことを指す。研究不正(けんきゅうふせい)ともいう。 ランセット誌では以下の定義が紹介されている[1]。 再現性の欠如はしばしば研究不正として捉えられるが、これは別個の概念である[2]。但し、再現性がありコアデータのインパクトも大きい論文の場合、研究不正が看過されることはある。例えばメンデルの遺伝法則の論文は統計学的に疑問視されているが[3]、その疑惑を知る人にも賞賛されている[4]。また、日本の衆議院では、2015年の匿名Aの事件の際に、研究不正の調査に再実験が含まれ得るとの答弁が文部科学省の政務官からなされている[5]。文部科学省が2006年に作成した研究不正調査についてのガイドラインにも、再現性を示す機会を保障するとの記載が含まれている[6]。 日本における研究不正の深刻さが、Retraction Watchが作成する個人別撤回論文数ランキング[7]の上位の大半が日本人であることを根拠に主張されていることがしばしばある[8][9][10][11][12][13][14][15][2][16][17][18][19][20][21]。しかしながら、論文が撤回される理由は研究不正だけではない。また、不正論文を撤回することは、不正論文を看過することより倫理的に望ましい行為である。撤回論文数が多くなる国を目指すべきという考え方もある[22]。撤回論文数のランキングの解釈は慎重に行わなければならない[23]。 捏造、改竄、盗用の3つは英語の頭文字をとってFFPと呼ばれ、研究不正の中でも特に重大なものと考えられている[24]。 産総研の夏目徹は、捏造は(1)ボトムアップ出来心型、(2)ボトムアップ確信犯型、(3)トップダウン恫喝型、(4)トップダウン洗脳型の4つに大別できるとの分析を分子生物学会で披露し、話題となった[25][26]。 2002年にアメリカ国立衛生研究所がアンケートを行ったところ、33%の人が過去3年間に何らかの不正行為をしたことがあると回答した[27]。2013年の日本分子生物学会のアンケートでは、10.1%の人が所属研究室で研究不正を目撃したことがあると回答した[28]。 近年登場した論文工場[29]と捕食雑誌[30]により、原理的にはこの世の100%近い論文が完全な虚偽論文になる可能性がある。日本分子生物学会の欧文誌では、2020年の時点で投稿論文の過半数が論文工場由来と推定されている[31][32]。 エリザベス・ビクは、20,000報の論文を目視した結果、4%の医学論文に不自然な改変や重複使用が疑われる画像データを見つけたことを2016年に発表した[33][34]。疑惑画像が見つかる確率が最も低い国は日本だった[34]。 2008年のNature誌の記事では、発表論文の1%程度が二重投稿との推計が紹介された[35]。 2020年?2021年に行われた調査によると、貢献のない論文の著者になった自覚があると回答した研究者の割合は、米国では約55%、欧州では約69%であった[36]。 2012年、製薬企業アムジェンが調べたところ、有名なガン研究の論文の89%に再現性が無かった[37]。 2015年、有名な心理学の論文のうち再現が取れたのは39%という報告がなされた[38]。 2021年、ガン研究の有名論文53報に掲載された193個の実験のうち半分以上の実験について再現を確認できなかったという報告がなされた[39][40][41]。実験条件を問い合わせても著者から協力が全く得られない割合は32%であった。 研究不正問題の深刻さについては、肯定的な意見と否定的な意見が存在している。
定義
デンマーク の定義:科学的メッセージの改竄(かいざん)や歪曲をもたらす故意または重大な過失。科学者に誤った信用や注目が与えられること。
スウェーデンの定義:データの捏造による意図的な研究プロセスの歪曲。他の研究者の原稿や出版物からのデータ、文章、仮説、方法の盗用。その他の方法での研究プロセスの歪曲。
よくある誤解
再現性の欠如との混同
論文撤回との混同
分類
データの捏造(ねつぞう、Fabrication)
データの改竄(かいざん、Falsification)
データの盗用(とうよう、Plagiarism)・剽窃(ひょうせつ)
他の科学者のアイデアの盗用
二重投稿
捕食雑誌への意図的な出版
ギフトオーサーシップ
ゴーストオーサーシップ
査読不正
利益相反の非開示
研究資金の不正使用
頻度
捏造・改竄・盗用
二重投稿
ギフトオーサーシップ
再現性の欠如(参考)
深刻さ
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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