福音書記者(ふくいんしょきしゃ、ドイツ語:Evangelist)とは、キリスト教の『新約聖書』に収められている四つの正典『福音書』の記者である。従って、伝統的な見地からは4名の福音書記者がいる。『マルコ福音書』のマルコ、『マタイ福音書』のマタイ、『ルカ福音書』のルカ、そして『ヨハネ福音書』の記者ヨハネである。福音史家・福音記者とも。日本正教会では聖人の称号として福音記者もしくは福音者と称される。
現代は、転じて、それら四文書の著者の呼び名として新約聖書学などで使われる一方、キリスト教信仰の現場においては、伝統的な用法も守られている。 キリスト教において、四福音書が正典とされたのは紀元4世紀のことであり、伝統的に、キリスト教においては、これらの四つの『福音書』は、イエス・キリストの直弟子で使徒と呼ばれる人々が著者であると考えられて来た(ルカとマルコは幾らか異なるが、マタイとヨハネは、イエスの十二使徒のなかの二人だと伝承では考えられた)。 福音記者はマタイ、ヨハネ、ルカ及びマルコである。すなわちこれら4人のうち、最初の2人は十二使徒(マタイ10, 2-4)であり、他の2人はそれぞれパウロ及びペトロの弟子とされている。近代の研究では、これらの聖伝を批評的に分析され、マルコ及びルカをそれぞれの福音の作者とすることに支障は生じていない。しかしマタイ及びヨハネをそれぞれの福音の作者とすることの妥当性についてより厳格な姿勢を示している。この場合、福音の作者とは由来する使徒の伝承を示すのであり、作者自身が福音を書き記したのではないとされている[1]。 これらが聖書正典として認められたのは、それが使徒の権威を持っていたからである。使徒パウロは、マタイによる福音書、ルカによる福音書が旧約聖書と同じ権威を持っていると認めた(第一テモテ5:18)。また、クレメンスの手紙で、イザヤ書とマタイの福音書が同等の権威として引用されている。[2] エイレナイオスは、聖書がすでに持っている権威に基づいて、教会は聖書正典を承認、保存し、受け入れるのだとした。[3] 四人の福音書記者たちは、伝統的キリスト教美術における象徴表現では、三種類の動物と一人の人間の姿で表現された。その組み合わせは東西で若干異なる。以下西方教会での例を示す。 四福音書記者それぞれの象徴の起源は、『新約聖書・ヨハネの黙示録』の第4章6節?8節に記されているヨハネの幻視である、神の玉座のまわりに控える、四種類の天使的存在の記述から来ていると考えられる。 ヨハネは、六枚の翼を持ち、多数の目を持つ天使的な生き物が玉座の周囲に控えていたと記述しており、その姿は、第一が獅子、第二が雄牛、第三が人の顔、第四が鷲のような姿であったとしている。ヨハネが幻視したものは、「み使いとしての天使」ではなく、正体不明な天的存在としての天使である。 また、『旧約聖書・エゼキエル書』にも、預言者エゼキエルが不可解な四体(四人)の天的存在に出会ったことが記述されており、それは、人の姿を持つが、四枚の翼を持ち、それぞれ四つの顔を持っていたとされる(『エゼキエル書』第1章)。この四つの顔は、「人の顔」、「獅子の顔」、「牛の顔」、「鷲の顔」であったとされる。 人間も含めて、四種類の生き物は、キリスト教の解釈において、「人」は人間としてのキリストの誕生、「牛」は十字架における刑死における犠牲の動物、「獅子」は復活におけるキリスト、そして「鷲」は昇天におけるキリストであると解釈された。 『ウルガータ聖書』を翻訳・編纂したヒエロニムスは、それぞれの福音書記者が記した『福音書』の特徴から、このような象徴の意味を説明した。 『マタイ福音書』は、人間イエス・キリストの紹介と、彼の人間としての祖先の系譜の記述からその福音書を記している。それ故に、「翼ある人」がマタイの象徴となる。また、『マルコ福音書』では、洗礼者ヨハネが最初に登場するのであり、彼は砂漠の獅子である。それ故に、「翼ある獅子」がマルコの象徴となる。
概説
使徒としての記者
福音書記者の象徴福音書記者の象徴
マルコ ? 獅子
マタイ ? 人(天使)
ルカ ? 雄牛
ヨハネ ? 鷲
聖書における象徴の起源
ヒエロニムスの解釈
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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