神経性大食症
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神経性大食症
概要
診療科精神医学
分類および外部参照情報
ICD-10F50.2
ICD-9-CM307.51
DiseasesDB1770
MedlinePlus000341
eMedicineemerg/810 med/255
Patient UK神経性大食症
MeSHD052018
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神経性大食症(しんけいせいたいしょくしょう、: bulimia nervosa ; BN)は、神経性過食症とも呼ばれる、一気にものを食べる摂食障害のうち、食べた物を何らかの方法で排出する浄化行動を伴うものである[1]。過食症(かしょくしょう)、ブリミアとも呼ばれる。この場合激しく飲食した後に、過食嘔吐、下剤・利尿剤・薬物・過度の運動・絶食による代償行為を行う。代償行為を行わないものはむちゃ食い障害と言う。最悪の場合自己嫌悪から自殺を図る事もあり、その確率は拒食症のそれよりも高い。ジェラルド・ラッセル教授によって1979年に提唱され、1980年の米国精神医学会によって摂食障害として承認された。中枢性摂食異常症(摂食障害)として厚生労働省の特定疾患に指定されている。

認知行動療法など様々な有効な治療法が開発されており、適切な治療によって回復する(具体的な治療法については、「神経性大食症#治療」を参照)[2]
定義「精神障害#定義」も参照

摂食障害は大きく拒食症過食症に分類される。拒食と過食は相反するもののように捉えがちだが、拒食症から過食症に移行するケースが約60 - 70%みられたり、「極端なやせ願望」あるいは「肥満恐怖」などが共通し、病気のステージが異なるだけの同一疾患と考えられている[3][4]。よって拒食症、過食症を区別する指標は、基本的には正常最低限体重を維持しているかどうかのみである。アメリカでは平均体重の85%以下が過食症に分類されているが、日本では80%以下とされている[5]

名称が持つイメージとは違い、神経性大食症の人は代償行為を行う為、必ずしも肥満しているわけではなく標準体重の人も多い。大半は嘔吐や後の絶食・ダイエットなどで体重を保っている。(過食の後に下剤を服用するBNも多いが、下剤や浣腸では食物の吸収を防ぐことはできない。神経性大食症の種類には排出型と非排出型がある。排出型によく見られる自己誘発性嘔吐といった症状は拒食症患者の中にも見られるものである。非排出型の場合、その後で絶食や過度の運動を行う。

患者の年齢の分布と性別神経性無食欲症に似ているが、発症年齢はやや高い傾向にある。過食の原因は精神的原因(例えば欲求不満の代償など)が挙げられる。食に対する抗しがたい渇望があるが、同時に肥満への恐れや強いやせ願望を抱いている[6]。過食に対する情動は、肥満恐怖などから起こる不食の決意を簡単に覆すほど抑えがたいものであり、食べてしまった自身に対し、自責感、敗北感などを持つことにより、自己評価が著しく低下する。拒食症と違い、苦痛を感じている過食症患者は、自ら医療機関を受診することもあり、治療には介入しやすく同意が得られやすい。しかし自身の食行動異常に対しては、罪悪感や不全感を抱いているため、その部分を刺激すると治療拒否につながりやすく慎重を要する[7]

また、精神分析医のヒルデ・ブルックは摂食障害を「これは食欲の病気ではありません。人からどう見られるのかということに関連する自尊心の病理です」と指摘している。摂食障害患者は根源的否定感を抱えており、食行動の異常の背景には茫漠たる自己不信が横たわっていると理解される。その不安を振り払うために強迫的に完全を志向するのである。摂食障害は境界性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害との合併、あるいはそれらパーソナリティ障害の部分症状として顕在化しているケースも多い[8]

神経性大食症の患者は、抑うつ症状や、気分変調性障害非定型うつ病不安障害などの気分障害がみられる頻度が高く、神経性大食症の有効な治療後には寛解することがある[9]。嘔吐に伴う症状としては、むくみ脱水唾液腺腫れテタニー(痺れ)、胼胝(吐きタコ)、口腔や食道・胃の損傷、電解質異常(低カリウム血症など)による腎機能・心機能低下(不整脈、心臓発作による突然死等)、歯牙酸蝕症(歯が溶ける)、う蝕(虫歯)、低血糖低血圧、全身倦怠感など。
その他、肝機能障害、月経異常、皮膚の乾燥などがある。
症状

過食症患者は、通常摂取するであろう分量を遥かにこえた量の食物を一度に摂取してしまう。過食衝動は痩せを求める節食行動への反動として生じるものや、退行により、自らの意思に反して味わうことなく体に食物を詰め込むタイプのものまである。

また、自分の思う通りにならない自分を、摂食行動において完璧にコントロールし、痩せを維持できることは、万能感・高揚感を与えてくれる体験である。食事をコントロールし、自らの体を過度にコントロールしようとする心性の背後には慢性的な不安が控えており、摂食障害者は一様に強迫的な性格傾向を有する[10]
診断基準
DSM-IV-TR

DSM-IV-TRでは次の5項目を満たすと神経性大食症と診断される。排出行動が見られるかによって、排出型/非排出型に分かれる[11]。A. 無茶食いのエピソードの繰り返し。無茶食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる。(1)他とはっきり区別される時間帯に(例:1日の何時でも2時間以内)、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物をたべること(2)そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚(例:食べることをやめることができない、または、何を、またはどれほど多く、食べているかを制御できないという感じ)B. 体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す。例えば、自己誘発性嘔吐;下剤、利尿剤、浣腸またはその他の薬剤の誤った使用;絶食;または過剰な運動C. むちゃ食いおよび不適切な代償行動はともに、平均して、少なくとも3カ月間にわたって週2回起こっているD. 自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けているE. 障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない
病型


排出型:現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする

非排出型:現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの他の不適切な代償行為を行ったことがあるが、定期的に自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用はしたことがない

ICD-10

確定診断には、以下の障害のすべてが必要である[12]。(a)持続的な摂食への没頭と食物への抗しがたい渇望が存在する。患者は短時間に大量の食物を食べつくす過食のエピソードに陥る。(b)患者は食物の太る効果に、以下の1つ以上の方法で抵抗しようとする。すなわち、自ら誘発する嘔吐、緩下薬の乱用、交代して出現する絶食期、食欲抑制薬や甲状腺末、利尿薬などの薬剤の使用。糖尿病の患者に過食症が起これば、インスリン治療を怠ることがある。(c)この障害の精神病理は肥満への病的な恐れから成り立つもので、患者は自らにきびしい体重制限を課す。それは医師が理想的または健康的と考える病前の体重に比べてかなり低い。双方の問に数ヵ月から数年にわたる間隔をおいて神経性無食欲症の病歴が、常にではないがしばしば認められる。この病歴のエピソードは完全な形で現れることもあるが、中等度の体重減少および/または一過性の無月経を伴った軽度ではっきりしない形をとることもある。〈含〉特定不能の過食神経性食欲亢進
疫学

摂食障害全体が日本で増加し始めたのは1970年代からであり、現代における有病率はアメリカやヨーロッパの先進各国と同水準である[13]。日本における青年期から若年成人期の女性の過食症の有病率は1?3%、一生のうちに一度でも過食症の診断基準を満たす人は全女性の約12%とされている。米国では若い女性の2%前後が過食症と推測されている[14]。1980年代半ばには、拒食症と過食症の割合は拮抗していたが、近年では圧倒的に過食症の割合が増加(拒食症の約2倍)した。また、患者数は最近の20年間で約10倍に増加したともいわれる。患者の第一度親族(特に母親)に、神経性大食症、抑うつなどの気分障害、物質乱用やアルコール依存の頻度が高い傾向にあるという研究結果がある。
病理学

摂食障害は拒食と過食が主な症状であるが、相互に排他的な疾患ではないため、背景にある精神病理を把握することが求められる。
過食

極端なダイエットは慢性の飢餓状態をつくり、結果的に過食を招く。過食は拒食のリバウンドである。過食症患者は食べたいのではなく、やせたい人達なのである。しかしやせていたいのに食べてしまうため、その埋め合わせに嘔吐をし、ときには下剤利尿剤を用いる。過食はどうでもよいというような自暴自棄の感情や、気分が落ち込んだ時、思う通りにならなかった時、相手から拒否されたり否定されたと感じた時、淋しかったりする時などに生じる。それまで頑張ってきた体重減少の努力が無駄になったと感じられた時に過食が生じるのである[15]

しかし、過食が繰り返されると別の隠喩が出現する。幻想の中で母性的なものと一体化を求めるのである。過食行動は憤怒、自暴自棄、絶望、孤立無援感、抑うつ、空虚感などの境界例心性に続発して出現する。自分が見捨てられる恐怖が強まったり、寂しい時、自分は無力で無価値であるという否定的な感情が高まった時に幻想の中で母性的なものと一体化を求めて過食行動が生じる。過食は頭が真っ白になって、ただひたすら味わうことなく食べ物を詰め込むように食べる。それは乳児が目を点にして乳をむさぼり飲み、欲求が満たされると眠りに入る姿と重なっている。子ども時代に甘えることを断念した彼らは、甘えや対象への一体化の幻想の中で、幸せな乳児の状態へ回帰し、過食することで内部の衝動を満たそうとする。この感覚には恍惚感や満たされた感覚が伴うので、落ち込んだ時に習慣化するようになる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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