神経変性疾患
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神経変性疾患(しんけいへんせいしっかん、neurodegenerative disease)とは、それぞれ特有の領域の神経系統が侵され、神経細胞を中心とする様々な退行性変化を呈する疾患群である。臨床的には潜在的に発症し、緩徐だが常に進行する神経症状を呈し、血管障害、感染中毒などのような明らかな原因がつかめない一群の疾患を指してきた。アルツハイマー病パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症脊髄小脳変性症などがこの疾患群に属する。
定義

神経変性疾患の「変性」とはラテン語のdegeneratioに由来し、組織ないしは細胞が組織化された正常の活動を営んでいる状態(high level)から低級な状態(low level)へ変化・退行したことを示す[1]。神経変性疾患に関して普遍的な定義はないが、臨床的には潜在的に発症し、緩徐だが常に進行する神経症状を呈し、血管障害、感染中毒などのような明らかな原因がつかめない一群の疾患を指して神経変性疾患と称してきた。病理学的にはそれぞれの特有の領域の神経系統が侵され、とくに神経細胞を中心に様々な種類の退行性変化を認める疾患群である。分子遺伝学的な研究により原因遺伝子やリスク因子が同定され、分子生物学的な研究で発症機構が分子レベルで解明された結果、関連する蛋白質の構造異常や凝集が神経変性の病態の根底にあり、「蛋白質の蓄積病」という共通メカニズムが存在していることが明らかになった。蛋白質の構造変化が要因となり、本来は除去されるべき異常蛋白質分子が老化や細胞機能の障害などによる蛋白質品質管理システムの破綻により、特に非分裂細胞である神経細胞において形成されると考えられている。さらに蓄積蛋白質が個体から個体への伝播ならびに個体内で細胞から細胞へ伝播する機序も解明され、プリオン蛋白様の感染症様病態としての側面も共通メカニズムとして存在している。
分類

古典的には神経変性疾患の分類は大脳大脳基底核小脳脊髄末梢神経といった臨床・解剖学的な分類が知られている。近年は神経細胞内の蓄積蛋白質に焦点を当てて、同一の病原蛋白質が共通の病態を惹起するというプロテイノパチーという概念に基づいた分類がされる[2]プロテイノパチーとしてはタウオパチーTDP-43プロテイノパチー、FUSプロテイノパチー、αシヌクレイノパチートリプレットリピート病などが知られている。
臨床・解剖学的な分類
大脳・基底核

アルツハイマー病

パーキンソン病

レビー小体型認知症

前頭側頭葉変性症

進行性核上性麻痺

大脳皮質基底核変性症

ハンチントン病

ジストニア

プリオン病

有棘赤血球舞踏病

副腎白質ジストロフィー

小脳

多系統萎縮症

脊髄小脳変性症

脊髄

筋萎縮性側索硬化症

原発性側索硬化症

球脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症

痙性対麻痺

脊髄空洞症

末梢神経

シャルコー・マリー・トゥース病

筋肉

筋ジストロフィー

ミオパチー

遺伝性周期性四肢麻痺

特徴

神経変性疾患は「発症と経過」、「加齢性変化との関係性」、「部位選択性」に特徴がある。
発症と経過

多くの神経変性疾患は発症日を同定することが困難である。潜在的に発症して、長い時間をかけて正常神経系機能を保った後、緩徐進行性に進行するという経過をたどる。しばしば、患者や家族は外傷や感染、外科的処置など記憶に残る出来事に付随して機能障害や症状が突然出現したと話すことがある。丁寧に病歴を聴取するとわずかな症状がその前から出現していることが判明する。症状発症前の明確な臨床マーカーがないため、疾患発症を確実に捉えることは困難であり、前臨床期の期間は神経変性過程の進行速度に依存していて、数ヶ月から数年の幅があるものと考えられている。

神経変性疾患において急激な症状の悪化が時に観察されることがある。神経変性過程の急激な悪化の可能性は排除できないが、多くは感染症などの身体疾患が症状に影響している場合が多いと考えられている。神経変性の進行速度は自然経過中においては概して一様である。しかし、神経細胞の残存の程度と臨床症状の程度の関係性は直線的な関係ではない。多くの神経細胞が脱落したとしてもある一定期間は臨床症状の増悪はないが、機能的な閾値を下回るほどの神経細胞脱落をきたしたときに、症状は進行・悪化すると考えられている。すべての神経変性疾患の進行は緩徐であり、数年を経て終末期に至るという経過をたどる。神経変性が緩徐に進行する理由は完全には解明されていないがすべての神経細胞が一様に機能低下し、緩徐に細胞死に向かって進行しているわけではない。病期経過中、どの時期においてもわずかな数の神経細胞が比較的急速な神経細胞死を起こして脱落し続けていくため、臨床症状や画像検査などで臨床評価された機能は緩徐に進行していると考えられている。
加齢性変化との関係性

神経変性疾患は初老期や老年期に発症することが多く、遺伝性神経変性疾患においても、発症年齢は孤発性疾患と比較して若年化する傾向はあるものの加齢との関係性は強い。一時的な神経細胞の変性という点では加齢変化に共通しているが、神経変性機構はきわめて多種多様なものであり、すべてが単純に老化であるというだけでは解釈し難い。


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