社会的養護
[Wikipedia|▼Menu]

社会的養護(しゃかいてきようご)とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われている[1]。対象児童は、平成28年1月現在で約4万6千人[2]。社会的養護の充実については、これまで、平成9年の児童福祉法改正、平成12年の児童虐待防止法の制定、平成16年の児童福祉法及び児童虐待防止法の改正、平成20年の児童福祉法改正及び児童虐待防止法改正、本年の民法及び児童福祉法改正などの法律改正や、逐次の予算の充実を経て、取り組みの充実が図られてきた。

・社会的養護は、次の三つの機能を持つ。
「養育機能」は、家庭での適切な養育を受けられない子どもを養育する機能であり、社会的養護を必要とするすべての子どもに保障されるべきもの。

「心理的ケア等の機能」は、虐待等の様々な背景の下で、適切な養育が受けられなかったこと等により生じる発達のゆがみや心の傷(心の成長の阻害と心理的不調等)を癒し、回復させ、適切な発達を図る機能。

「地域支援等の機能」は、親子関係の再構築等の家庭環境の調整、地域における子どもの養育と保護者への支援、自立支援、施設退所後の相談支援(アフターケア)などの機能[3]

里親や児童養護施設といった社会的養護の対象者には、進学者には家賃、生活費を月額5万円貸与があり5年間働けば返還が免除される事業が、国から県が補助を受けて始まっている[4][5]

社会的養護において、子どもに対して適切な心理的ケアと療育的関わりができる専門性やスキルが求められており、そのような専門性やスキルを育むための様々なプログラムが開発されている[6]
家庭的養護
里親

日本における里親制度は、養育里親、専門里親、養子縁組を希望する里親、親族里親に大別される[7]

里親は、要保護児童(保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童)の養育を委託する制度であり、その推進を図るため、次のような変遷をたどった。平成14年度に親族里親、専門里親を創設、平成20年の児童福祉法改正で、「養育里親」を「養子縁組を希望する里親」等と法律上区分、平成21年度から、養育里親と専門里親について、里親研修の充実を図った。

2010年前後の国際比較では、制度の違いがあるが、里親委託率の上位ではオーストラリア93.5%、アメリカ77%、イギリス71.7%で、低率なイタリアでの49.5%に対し、日本では12%となっている。日本の社会的養護は、施設が9割で里親は1割であり、欧米諸国と比べて、施設養護に偏っている[8]

里親へは、次の手当が支給される。月額で養育里親72,000円(2人目以降36,000円加算)専門里親123,000円(2人目以降87,000円加算)となっている。一般生活費乳児56,830円、乳児以外49,290円(食費、被服費等。1人月額)(平成27年度)その他(幼稚園費、教育費、入進学支度金、就職、大学進学等支度費、医療費等)となっている)[2]

「いまは引き取れないが、いつでも会いに行けるように、まだ施設で預かっていてほしい」「自分で育てるのは無理だが、手放すのは嫌だ」などの親の意向から、里親や養子縁組が進まないことがある[9]。一方で、「4年も一緒にいたのに、突然連れて行かれて会えなくなってしまった。荷物も置きっぱなしで、さよならも言えなかった」と急な措置解除を不服として、里親が訴訟に至る行政と里親間のトラブルもある[10]。里子だった側からは、「どのような養護を望むか、子どもにも選択肢を与えてほしい」「里親は事前に里子の情報を聞いていても、里子には情報がほとんどない」などの声や、措置解除で他の里親に委託されたことに傷ついた経験を語るものもいる[11]。マニュアルの運転免許を取得するためにアルバイトに明け暮れた男性は、「学校を犠牲にしないでも、社会に出るために必要な資格を取るなどの支援があればいいと思います」と語っている[12]。なお、埼玉県では養護施設退所後に就職で免許が必要な人(平成28年3月卒業見込み者から対象)に費用として、18万5000円の補助を開始。国、県の補助に県指定自動車教習所協会の支援が加われば、自己負担なく運転免許を取得することもできる事業が始まる[13]

平成25年の厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査」によると、里親委託児童数は4,534人(前回3,611人)、児童養護施設入所児童数は29,979人(同31,593人)であり、このうち虐待を受けた経験のある児童の割合はそれぞれ31.1%(同31.5%)、59.5%(同53.4%)だった。今後の見通しでは、「保護者のもとへ復帰」見通しの児童は里親委託児約1割、養護施設児約3割となっている。また調査日(平成25 年2 月1 日)現在で、現に委託されている里親家庭の総数は3,481 世帯となっており、前回調査の2,626 世帯より855 世帯(32.6%)増加している。里親申込みの動機別をみると「児童福祉への理解から」が43.5%(前回37.1%)、「子どもを育てたいから」が30.7%(前回31.4%)、「養子を得たいため」が12.5%(前回21.8%)となっている。前回調査と比較すると、「養子を得たいため」の割合が下がり、「児童福祉への理解から」の割合が上がっている[14]

上記調査によると養護問題発生理由の主なものは、里親委託児の場合には「養育拒否」16.5%(前回16.0%)、「父又は母の死亡」11.4%(前回6.6%)であり、養護施設児の場合には「父又は母の虐待・酷使」18.1%(前回14.4%)、「父又は母の放任・怠だ」14.7%(前回13.8%)、乳児院の場合には「父又は母の精神疾患等」22.2%(前回19.1%)、「父又は母の放任・怠だ」11.1%(前回8.8%)となっている[14]

里親等委託率には自治体間で大きな差があり、全国:16.5%,最小:6.1% (秋田県)最大:41.4% (新潟県)。新潟県など、里親委託率が3割を超えている県もあり、過去10年間で、福岡市が6.9%から32.4%へ増加するなど、大幅に伸ばした県・市もある。これらの自治体では、児童相談所への専任の里親担当職員の設置、里親支援機関の充実、体験発表会、市町村と連携した広報、NPOや市民活動を通じた口コミなど、様々な努力をしている[15]

昭和30年には登録里親数が16,200人、委託里親数が8283人、委託児童数が9111人だったのに対して、平成25年には登録里親数が9441人、委託里親数が3560人、委託児童数が4636人となっている[16]

里親制度の普及啓発や調査研究を行っている公益財団法人「全国里親会」(東京都港区)が、2012年度以降の決算書を適正に作成していないとして、内閣府が修正を求めていることが分かった。監査報告書の一部では担当した税理士の署名が別人の筆跡とみられるケースもあり、内閣府は決算書作成の経緯を調べる方針と報道されている。全国里親会は1971年3月の設立で、2011年12月に公益法人に認定された。各地の里親らが入会する都道府県・政令指定都市単位の地方里親会の代表者らが役員を務め、運営費は地方里親会などからの会費や民間団体からの助成金などで賄われている。2015年度の収入総額は予算ベースで約8600万円となっている[17]

平成22年8月、杉並区内の養育家庭に委託していた児童が死亡し翌年、当該養育家庭の里母が、傷害致死容疑で逮捕される事件[18]を始め、里親からの傷害[19][20][21][22]、施設入所児童ホームステイ事業(以下「ホームステイ事業」という。)で里親宅に滞在していた際の里父からの性被害[23]といった事件が起こっている。

日本では諸外国に比較し委託期間が長いケースが多く、3分の1が5年以上である。その背景には、実親への支援が不十分であると指摘されている。また、里親の一方的な都合で児童を児童相談所に返却する「里親不調」も4分の1の確率で発生している。そのため、児童相談所は、里親委託は慎重になる傾向がみられる[24]

2016年改正児童福祉法は、親と一緒に暮らせない子は、乳児院や児童養護施設に預けられることが大半だったが、これからは里親などへの委託を優先する。とくに就学前の場合は原則として「家庭養育」にすると明記された[25]

里親としての実体験を描いたノンフィクションに「うちの子になりなよ (ある漫画家の里親入門) 」漫画家・古泉智浩 作[26]がある。

ファミリーホーム

ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)は、平成21年度に創設された制度で、家庭的養護を促進するため、保護者のない児童又は保護者に監護させることが適当でない児童に対し、養育者の住居(ファミリーホーム)において、児童の養育を行うものをしている[2]。ファミリーホームは、家庭養護の一類型として、養育者の住居に子どもを迎え入れ、児童の養育を行う制度である。「社会的養護の課題と将来像」では、ファミリーホームの今後の課題として、@大幅な整備促進、A専門性の向上と支援体制の構築 という2つのことが挙げられている地域小規模児童養護施設(グループホーム)は、1ホームの児童定員6人で、本体施設を離れて、普通の民間住宅等を活用して運営するもので、同様に家庭的な形態である。なお、措置費の仕組みとして、小規模グループケアはグループホーム形態の場合でも本体施設と一体の保護単価となるのに対し、地域小規模児童養護施設では区分して設定される[27]。ファミリーホームは、1ホームの児童定員5-6人で、養育者の住居で行う里親型のグループホームである。交代勤務である地域小規模児童養護施設と異なり、養育者が固定していることから、子どもにとって、さらに家庭的な環境である[3]
社会的養護の施設

社会的養護の施設には、乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設、自立援助ホームがある。

費用の観点から、施設養育中心主義からの移行は説得的である(原文ママ)とする主張もあり、たとえば0歳から18歳まで大都市の乳児院および児童養護施設で育つならば、1 人8,373 万2,000 円の経費がかかり、里親宅で生活するならば3,200万円から3,800万円で済むとの試算がある
[28]

施設別の社会的養護の費用比較では、東京都では2015年現在、次のとおりとなっている[注釈 1][29]


民間(=社福)児童養護施設(社会的養護の必要な児童を養育する施設)
予算額 111億313万円、予算規模 2,803人、児童一人当たりの予算額 396万1千円(民間グループホームの一部経費を含む。予算規模には、民間グループホームを含む。)

民間(=社福)グループホーム(地域の中で家庭的な雰囲気の下、6人程度の児童を養育する小規模施設)
予算額 22億4千338万3千円、予算規模  852人、児童一人当たりの予算額 263万3千円(民間児童養護施設に含まれるものは除く。)


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:32 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef